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No.14 酒 井 寿 紀 2000/05/05
最近「ケータイ」が大もてである。例えば次のような記事があった。
「パソコンとケータイのどちらが便利で重宝かはいうまでもない。iモードがあれほど売れている最大の理由は、単に携帯電話としての機能だけではない。インターネットの端末の機能を備えているからだ。いくらでもホームページにアクセスする能力がある。21世紀ではケータイが情報化社会の骨組になる。」(「先見経済」4月3日号、長谷川慶太郎「IT革命で世界は大きく変わる」)
「インターネット接続の主役がパソコンから携帯電話に移る、というのは世界の先進IT(情報技術)企業に共通した見方だ。」(「日経ビジネス」4月24日号、「『ケータイ』日本の世紀」)
しかし、これは本当だろうか?
確かに携帯電話はインターネットの新しいユーザーを開拓するだろう。今迄インターネットとはあまり縁がなかった女子高生が、携帯電話でメールを交換したり、今日の運勢を調べたりするようになるだろう。
また、現在オフィスのパソコンでいやというほどインターネットを使っているサラリーマンは、今後は出張先でも、携帯電話で会社のイントラネットに接続して、商品の在庫状況を調べたり、業務報告を送ったりするようになるだろう。
また、自宅のパソコンでインターネットを愛用している人は、今後は外出先でも、携帯電話で株の売買をしたり、レストランを捜したりするようになるだろう。
しかし、だからと言って、パソコンでインターネットを使う人の数や、使う回数が減るだろうか? 現在、自宅やオフィスでパソコンでインターネットを使っている人が、今後はパソコンでなく携帯電話でインターネットを使うようになるだろうか?
携帯電話の画面はパソコンより格段に小さく、キー入力の操作性は格段に悪い。
例えば、株の売買をするにしても、最近の株価チャートで値動きを確認したり、資産の一覧表で現在の自分の資産の評価額をチェックした上で注文するときは、パソコンの大画面で見たいだろう。
また、商品を買うときは、パソコンの大画面で大きい写真を見たいことが多いだろうし、コンサートのチケットを買う時は、大画面で座席の配置図を確認したいことも多いだろう。
また、長文のメールを書く時はパソコンのキーボードを使いたいだろうし、資料や写真をメールに添付するのは携帯電話では難しいだろう。
これらの場合は、自宅やオフィスにいるなら、誰でも従来同様パソコンを使うだろう。
もともとパソコンは、紙と鉛筆と消しゴム、そして定規とコンパスと電卓、そしてファイルとファイル棚に取って代わって、資料の作成や保管に使われてきたものだ。やがてそれは辞書や百科事典まで取り込み、資料の作成にさらに便利になった。このパソコンがインターネットに接続されるようになって、全世界の膨大なウェブの情報を資料作成に活用でき、また作った資料を全世界に配信できるようになったのだ。
資料といっても文章とは限らず、写真が好きな人は自分が撮った写真をパソコンで処理して全世界に送れるし、作曲する人はパソコンで作曲してMIDIファイルで送れる。
こういうパソコンでの作業は携帯電話では代替えがきかない。従って、携帯電話がインターネットにつながっても、その出番は限られる。
そもそも、今後インターネットにつながるのはパソコンと携帯電話だけではない。PDAもゲーム機もつながる。テレビ等もつながるようになるだろう。その時、携帯電話はインターネットにつながる数ある装置のひとつにすぎなくなる。それは抜群の携帯性という長所を生かして、外出先では主役になるだろう。しかし、機能面では制約が大きい為、現在のパソコンの市場を食ってしまうことにはならず、食うとしても尻尾の端ぐらいだろう。
また、別の話として、パソコンのインターネット接続に携帯電話の回線を使う話がある。
現在のインターネットの大きい問題は回線の遅さだ。ところが、来年からサービスが始まる新しい携帯電話は、当初から384kbit/秒で、将来は2Mbit/秒になる可能性を持っているという。このスピードは大変魅力的なので、一時的にはデスクトップのパソコンを携帯電話経由でインターネットにつなぐのがはやるかも知れない。
しかし、全部のパソコンがこういうことを始めて、常時接続で使い出したら、次期携帯電話用に割当てられている周波数帯域ははたして足りるだろうか? インターネットの常時接続は、短期的にはいろいろな選択肢があるだろうが、長期的にはやはり各家庭への光ファイバーの引き込み、いわゆるFTTH (Fiber to the Home) が本命だろう。何せ、電波を伝える空間はひとつしかないが、光ファイバーは必要な本数だけ引っ張ればいいのだから、周波数の割当て等の面倒な問題がない。
今後のインターネットは携帯電話が主流になり、現在携帯電話のインターネットでは日本が一番進んでいるので、21世紀のインターネットの世界は日本が制覇するだろうという説がある。しかし、上に述べたように、携帯電話は、その携帯性を生かして、現在のパソコン中心のインターネットの世界とは別の、「もうひとつのインターネットの世界」を実現するものだとすると、この説の前提が崩れてしまう。従って、そう簡単に日本がインターネットの世界を制覇することにはならないだろう。
携帯電話はインターネットの新しい市場を開拓するだろうが、従来の市場に取って代わるものではない。「ケータイ株」に投資する時はこの点ご注意を!
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