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No.7                             酒 井 寿 紀                      2000/3/28


PSRで企業を評価しよう!

 

株価や時価総額を評価する尺度としてPER、PBR、PSRという指標が使われる。ではどれをどう使って評価するのがよいのだろうか?

株価の評価の尺度として昔からよく使われるものに、「PER(Price Earnings Ratio、株価収益率)」がある。これは普通は「株価を1株当たりの年間純利益で割ったもの」と定義されるが、「時価総額を年間純利益で割ったもの」と言っても同じことである。

この尺度は、「配当の原資がどれだけあるか?」を見るためには便利なので、利回りを目当てに株を買う時は役に立つが、最近の「ネット株」のように、赤字でもキャピタルゲインを狙って株を買う時にはまったく役に立たない。また最近の日本の会社のように、赤字になったり黒字になったりを繰り返している状況では、PERはとんでもない値になりあまり意味がないことが多い。赤字すれすれになると、PERは限りなく無限大に近づく。

もう一つの尺度として、「PBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)」がある。これは普通、「株価を1株当たりの純資産で割ったもの」と定義されるが、同じことだが、「時価総額を純資産で割ったもの」と理解した方が分かりやすい。

これは、会社の総資産から負債を引いた純資産(株主資本とも言う)に対し、時価総額が何倍かを示すものである。従って、これが1以下だと、会社を清算して資産を山分けした方が株主は儲かる。例えば、三菱重工の3月24日のPBRは0.89なので、こういう状態である。但し、PBRはあくまで簿価の上の話で、実際に資産を売却する時は時価になるので、含み益とか含み損があると話はそれほど単純ではない。(以下株価等はすべて3月24日の終値)

いずれにしても、PBRは現在の会社の評価額が会社を清算する時の資産の何倍かを示すものだから、これからの成長を期待する株に対する投資の基準としてはあまり役に立たない。

最近アメリカで使われ出した尺度に、「PSR(Price Sales Ratio、株価売上高倍率)」というものがある。これは、「時価総額を年間売上高で割ったもの」である。「株価を1株当たりの年間売上高で割ったもの」とも言われるが、「1株当たりの売上高」というのはあまり意味がない。

会社の事業規模をマクロにつかむ時、先ず使われるのが売上高だろう。それに対して現在の株価のレベルがどの程度かを示すのがこのPSRだ。前にアメリカの会社の買収の話に関係した時、「買収金額の一般的な目安は先ずは年間の売上高だ」と聞いた。年間売上10億ドルの会社なら、買収金額の目安は10億ドル程度、ということである。PSRは会社に対する市場の評価がこの年間売上高の何倍かを示すものだ。

3月24日現在のPSRは、日立1.1、NEC 1.2、富士通1.9、松下1.3、トヨタ2.6、NTT 3.9 という具合で、成熟した企業はだいたい1〜4程度だ。東芝0.9、新日鉄0.8、三菱重工0.4 のように、現在1を割っている企業もいくつかある。ソニーは4.8でこれらの中では一番高い。これは同社の25,700円の株価に対するPSRである。先日ソニーの出井社長が「現在の3万円という株価は高すぎて『uneasy』だ。2万円程度が妥当なところと思う」と言ったとロイターに報道されて物議をかもしたが、2万円ならPSRは3.7でだいぶ他の企業に近づく。

いわゆる「ネット株」のPSRは、ヤフー 1,927、リキッドオーディオ1,000、インターネット総研 559、という具合に桁が違う。そこまで行かないが、NTTドコモは26.9、ソフトバンクは47.2である。

新興企業の株を買うのは、一般的には、数年後にそれが成熟企業となることを期待するからだ。成熟企業のPSRを上の例から仮に4以下とすると、これらの「ネット株」の売上高が数年以内に現在の時価総額の1/4以上になることを期待していることになる。

例えば、ヤフーの時価総額は3.7兆円なので売上高が9,000億円以上になることを期待していることになる。インターネット総研の時価総額は4,000億円なので1,000億円以上の売上高、リキッドオーディオの時価総額は520億円なので130億円以上の売上高を期待していることになる。

リキッドオーディオのPSRが一時1,400になったとき、「時価総額が現在の売上高の1,400年分になった」と新聞に出ていたが、そう言われてもどう判断したらいいのか分らない。成熟企業のPSRを仮に4以下とすると、「数年以内に売上が現在の350倍以上伸びて、PSRが4以下になることが期待できるか?」が問題なのである。成熟企業のPSRが4以下というのはあくまで「仮定」の話であって、場合によっては5とか6でもいいかも知れない。

いずれにしても、もしそれが期待できると判断するなら、企業の業績見通しに基づく投資である。そうでなければ、業績見通しとは関係ない世界でのマネーゲームである。「ネットバブル」の世界である。

両者のいずれなのかをはっきり意識して投資する必要がある。本人が意識してない「バブルの悪乗り」が一番危険である。

先日雑誌のインタビューで孫 正義氏が「ネットバブルなんて言っている人は時代の流れが理解できない人だ」と言っていた。(「財界」 3/28号) 確かに現在の時価総額だけでバブルと決めつけるわけにはいかない。しかし現在の時価総額を正当化するだけの売上の伸びが期待できなければ、やはりバブルと言わざるを得ないだろう。

PSRも意味があるような、ないような指標だが、時価総額の評価の目安にはなると思う。


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