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No.603                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2006/08/21


靖国神社を塩漬けに!

 

靖国神社の本質

靖国神社への政府関係者の参拝の是非で日本中が大変な騒ぎだ。この靖国神社とはそもそも何なのだろう。外から見る限り普通の神社と何ら変わらない。しかし、もう20年近く前のことだが、隣接する遊 就館という博物館のようなものの中に入ってみて驚いた。例えば、1932年の上海事変の際の「爆弾三勇士」が、3人で爆弾を抱えて敵陣に突撃し、突破口を切開いた勇敢な兵士の話として展示してある。この爆弾三勇士は、当時の上官や仲間の兵士の戦後の話によると、死の危険を冒して突撃して戦死したのは何もこの3人に限らず、また3人が自発的に爆弾を抱えて突撃したわけではなく、上官の命令でそうせざるを得なかったのだという。当時の陸軍と新聞が美談に仕立てあげたのだ。しかし、遊 就館の展示はまったく戦前のままだ。

このように、遊就館の中には戦前の軍国主義の空気が凝縮されて充満している。「忠君愛国」一色だ。戦前の日本にタイムスリップしたような感覚に襲われ、現在の日本にもこんなところがあったのかと衝撃を受けた。しかし、戦前と何も変わってないお陰で、靖国神社の本質がよく分かる。

戦争を遂行するためには、どんなに無茶な命令でも上官の命令には絶対的に服従し、死を恐れず敵陣に突撃する兵士が必要なのだ。実際には拙劣な作戦や、装備の不備で犬死した兵士も多いわけだが、靖国神社がそれを軍神として祭り上げ、後に続く者を鼓舞して戦場に送り出し、遺族を納得させてきた。靖国神社は戦争遂行のために必要不可欠な施設の一つだったのである。だが、この種の施設があるのは何も日本だけに限らず、世界中の多くの国にある。そして、戦争が国家の重要な仕事である限り、こういう施設に政府の代表が毎年参拝するのは極めて当然なことだ。

靖国神社がほかの国の戦死者の慰霊施設と違うのは、それが神道という一宗教の施設そのものであることだ。神が絡むと話がややこしくなる。戦争には勝つこともあれば負けることもある。負けそうになったとき、いかにうまく手を引いて被害を最小限にとどめるかも政治家の腕だ。何千年にも渡って異民族との戦いを繰り返してきたヨーロッパ諸国にはこうした文化が根付いているように思う。しかし、異民族との戦いと言えば、過去に、元寇、秀吉の朝鮮出兵、日清戦争、日露戦争しか経験しなかった日本にはこういう文化はなかった。神の国日本が鬼畜米英に降伏することなどまったく思いもよらなかった。ここに日本の最大の悲劇があった。せめて太平洋戦争を半年前にやめていたらどれだけ無駄死にを防げただろう。しかし当時はこういう発想はまったくなかった。その根源の一つに戦争を神事に結び付けた靖国神社があった。

自国の弱みを減らし、相手国の弱みを突くのが戦いの常道

日本政府の代表が靖国神社を参拝すると中国や韓国が大騒ぎする。政府の重要な仕事は国益の維持拡大であり、特に中国は21世紀の日本にとって最も重要な相手の一つだ。中国のGDP2020年までには日本を超えそうで、市場としても、生産拠点やソフトウェアの開発拠点としても重要な国である。しかし、この国との間には、尖閣諸島などの領土問題、違法コピーなどの知的財産権の問題、為替レートの問題、会計制度の不備など、安定したビジネスを継続する上で障害となる問題が多い。

これらの問題の解決は、武力を使うわけにいかないから、外交交渉に頼らざるを得ない。だが、外交は武力を使わない戦争であり、戦い方の基本は同じだ。しかし、日本は戦争を放棄すると同時に、外交上の戦い方も忘れてしまったようだ。戦いに勝つには、敵の弱みを徹底的に研究して攻撃するカードを揃え、必要に応じてそれを使うことだ。例えば、中国に対しては、知的財産権、チベット、言論の自由の問題など、攻撃材料には事欠かない。また、小さい問題の例をあげれば、2002年に、瀋陽の日本総領事館に駆け込んだ北朝鮮の亡命者が中国の警察に不法に連行された事件は、中国側の弱みにできたのに、そうしなかったのは日本総領事館と外務省の対応のまずさだ。

そして、敵に弱みを握られないようにするのが戦いの基本だ。しかし、残念ながら、20世紀前半に日本が中国でしてきたことは、1915年の対華21ヶ条要求、1931年の満州事変、1937年の支那事変など、日本の弱みだらけだ。中国戦線の兵隊だった日本の善良な市民から、中国人の娘を強姦して殺したことがあると直接聞いたことがある。強姦や民間人の虐殺、捕虜虐待は、現在のイラク戦争に至るまで、戦争にはつきものだ。いまさら当時作ってしまった弱みを完全に消し去ることは不可能だ。しかし、その弱みにつけ込まれる隙をできるだけ見せないことが重要である。靖国問題を取り上げた途端、日本国内は蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。中国や韓国にとってこれほど格好な攻撃材料はない。それを避けるためには、大東亜戦争を正当化し、ましてA級戦犯まで合祀している靖国神社への政府関係者の参拝などやめるべきだ。

過去の戦争で命を落とした人を手厚く葬るのは重要だ。しかし、21世紀の中国、韓国との関係を日本に有利な方向に導く方が現在の日本にとってもっと重要である。靖国神社をおろそかにすると日本の精神的柱がなくなるなどと言っていると、日本は今後の世界で、政治的、経済的な存在をまっとうできなくなるかも知れない。

靖国神社は、当面現状のまま塩漬けにして、政府は一切関与しない方がいい。いずれ、満州事変や太平洋戦争も、元寇や秀吉の朝鮮出兵同様、歴史的事実としては残っても政治の舞台からは姿を消すだろう。それまでは、他の国に攻撃の口実を与えない方が賢明である。そして、遊 就館はほかに類がない貴重な存在だ。戦前の軍国主義時代の空気をそのまま伝える博物館として、後世のために残したらいい。


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