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No.508                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/12/25


頑張れ、福井総裁!

 

政府、自民党が日銀を恫喝

日銀は不況対策としてゼロ金利にしてもまだ足りず、20013月から量的緩和政策を取ってきた。これは市中銀行から国債などを買い上げて当座預金残高を増やすことによって、世の中に出回るカネの量を増やそうとするものである。この政策によって当座預金残高の目標は5兆円程度から30~35兆円へと増えてきた。

日銀の福井総裁はここのところ、この量的緩和の解除への環境作りに力を入れている。1222日の講演でも、「景気回復が続くもとで(物価の)環境が好転している」ため、「量的緩和というデフレスパイラル阻止のための異例の枠組みは、来年度にかけて変更を迎える可能性が高まっている」と言っている。1)

この量的緩和解除に対し、政府や自民党は先月から強硬に反対を唱えている。竹中総務相や自民党の中川政調会長は、日銀は政策目標を政府に合わせるべきで、それができないなら日銀法の改正も視野に入れる必要があると言って日銀を恫喝している。まだデフレから完全には脱却してないので、量的緩和を継続すべきだと言うのだ。

ゼロ金利/量的緩和の弊害

ゼロ金利も量的緩和も非常時の劇薬である。劇薬が必要なときもあるが、劇薬は必ず副作用を伴う。先ず、現在の超低金利は高齢の預金生活者の生活を圧迫している。比較的裕福なこの人たちの消費を抑え、景気回復の足を引っ張っている。

そして、預金が超低金利のためカネが株式へ過剰に流れている。間接金融から直接金融に向かうのは時代の流れだが、必要以上にリスクを取らざるを得ないのは超低金利の弊害だ。これは今年の株価の急上昇をもたらした一要因になっている。証券関係者の中には、現在の長期金利が1.5%程度なのに対し、株式益回りは45% (PER2025)なので、まだまだ日本の株は割安だと言っている人がいるが、これは株が安いのではなく金利が異常に低いためだ。現在のように劇薬の服用中は通常のイールド・スプレッドに基づく判断は通用しない。

また、こういうゼロ金利状態は金融政策の自由度を狭める。今後国際情勢の急変や非常事態の発生できめ細かな金融政策が要求されるとき、柔軟な対応ができない。

そもそもゼロ金利や量的緩和は、心理面は別にして、実際にはデフレ脱却にそれほど有効に機能していない。確かに日銀から市中銀行に供給されるカネ(マネタリーベース)は増えたが、市中銀行から一般の企業や個人に供給されるカネ(マネーサプライ)はそれほど増えていない。資金の供給を増やせば、資金の需要を喚起して、モノの需要も増え、デフレから脱却するというのが筋書きだ。しかし、資金需要がないのが、金利が高いためや銀行が貸してくれないためでなく別の理由からなら、いくら資金の供給量を増やしても意味がない。病人にいくら食べ物を与えようとしても、病気のため食欲がなければ受け付けない。病気を治す方が先だ。

なぜ政府は量的緩和の解除に反対なのか?

こういう弊害があるのに政府が必死になって量的緩和の解除に反対しているのは、莫大な借金を抱えているからだ。2006年度予算の財務省原案によれば、2006年度末に国の債務残高は605兆円になり、2006年度の利払費は8.6兆円に達するという。利率にして約1.4%だ。これがもし欧米諸国並みの5%になれば利払費は約30兆円になり、2006年度予算でやっと30兆円に抑えた財政赤字は50兆円を超えてしまう。本来景気回復のためだった超低金利政策は、今や政府の累積債務の負担軽減のためになりつつある。そして、超低金利政策の継続は財政赤字対策に対する緊迫感を薄める。

もっと基本的な問題として、バブルであろうと何であろうと、政府というものは株価アップを望み、株価を下げる可能性があるような政策を避けようとする。株価が上がれば企業や個人の資産が増え、政府は税収が増え、支持率も上がって次の選挙を有利に戦える。資産バブル形成の真っ最中の1986年から88年にかけて大蔵大臣だった宮沢喜一氏は当時を振り返って、「(当時は)とても政策変更を言い出せる状況ではなかった」、「あれで万事終わりなら、めでたしめでたしみたいな話だった」、「当時は相当なコストになるとは考えていなかった」と回顧している。2) 宮沢さんでさえこうなのだから、日本の政治家にバブルの適切な抑止能力があるとはとても思えない。

頑張れ、福井総裁!

日本経済が長期的な上昇局面を迎えているのは確かだが、今年後半のような実体経済から遊離した株価の急上昇が長期間に渡って続くわけがない。ここのところ日本株を買い続けてきた外国人が1212日の週に27週ぶりに売り越しに転じた。これで株価の本格的調整が始まればまだダメージは少なくて済むが、株価の急上昇がまだ続くようだとその後の暴落が恐ろしい。そのため、株価の調整局面への誘導が望まれる。

景気対策優先を主張する人がかなりいた中で、小泉首相は構造改革優先を旗印に掲げ、よく頑張ってきた。しかしここ半年の株価の異常な上昇に対して何ら手を打たず、まして前記の中川政調会長や竹中総務相のような発言を容認しているのは頂けない。

政府だけではダメなので三権分立になっているように、経済政策については政府と中央銀行が独立性を維持してはじめてバランスが取れる。政府だけでは危ないのはバブルの歴史が証明している。そのため日銀に期待するしかない。頑張れ、福井総裁!

 

1) 「量的緩和解除『経済活性か促す』」 日本経済新聞、20051223

2) 「検証バブル 犯意なき過ち」 日本経済新聞、2000222


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