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title.gif (1997 バイト)

No.507                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/12/11


ミニバブルか? 正当な株価上昇か?

 

資産バブル時の株価は異常値!

121日に日経平均が5年振りに15000円を回復した。これは企業の構造改革に裏打ちされたものなので、当面上昇相場が続くと見る人もいる。一方、日本の株価はもはや割安とは言えず、米国経済も減速リスクを抱えているので、もう上昇余地は少ないと見る人もいる。日本の株価は今後どうなるのだろうか? その予想は困難だが、最近議論の的になっている事項について問題点を見てみよう。

日経平均が15000円を超えたと言っても、1980年代末の資産バブル時の最高値39000円に比べればまだ半分以下だという見方がある。それはその通りだが、80年代末の株価の実態をよく見る必要がある。当時、東証1部の予想PER50に達し、PER10台の諸外国に対し著しく高かった。また1989年末の東証1部の時価総額は約591兆円で、1989年のGDP417兆円の1.4倍であった。時価総額は1980年代の半ばまではGDPの半分以下だったが、80年代後半にGDPの伸びをはるかに上回るペースで増大したのだ。そして、地価上昇と合わせて資産バブルが進行し、企業も個人もバスに乗り遅れないようにと財テクに走り、バブルがバブルを呼んだ。企業も個人も資産が増え、政府も税収が増えて喜び、誰もブレーキをかけようとしなかった結果こうなったのだ。当時の株価と比べるのは結構だが、それはこのような異常状態だったことを忘れてはならない。

日経平均株価にご注意!

資産バブル時の日経平均の最高値39000円に対し、1130日の日経平均は約15000円で38%だ。しかし時価総額を比べると591兆円に対し491兆円で83%になる。この16年間に多くの企業が新規上場し、また政府事業の民営化が進められたので、代表的企業の平均株価に対し市場の株価の総額が増えたのは当然だ。しかし、この大きい差の原因はほかにもある。

20004月に日本経済新聞社は日経平均に採用されていた225銘柄中30銘柄を一挙に入れ替えた。この入れ替えは、銘柄数では225銘柄中の13%だが、高株価の銘柄が多かったため、入れ替え後の株価では50%を超えるものだった。日経平均に連動して運用するファンドは、新規採用銘柄を購入し、採用中止銘柄を売却せざるを得ない。それだけでなく、高株価の新規採用銘柄を購入するために継続採用銘柄も大量に売却せざるを得なかった。その上、この売買による値動きを読んだプロのディーラーが売買に加担したため、日経平均は告知期間の1週間に大きく値下がりし、銘柄入れ替え後、値上がりした新銘柄の売却でさらに下がった。その影響は2000(当時の日経平均の約10%)程度と推定されている。この後遺症は未来永劫に渡って残る。

これは極端な例だが、日経平均の銘柄入れ替えはその後も毎年行われ、そのたびに上記同様日経平均に何がしかの影響を及ぼしている。長期間に渡って日経平均の推移を見るときは、このことを常に念頭に置いておく必要がある。現在の株価はまだ資産バブル時の38%程度に過ぎないと単純に考えると判断を誤る。

一方、東証1部の時価総額がすでに資産バブル時の83%になっているのは厳然たる事実だ。この間に日本の経済活動の規模がほとんど拡大してないことを考慮すると、現状の株価は極めてバブルに近い状態と言わざるを得ない。

半値戻しは全値戻し?

日経平均は20004月のITバブル時のピークの2万円から20034月の最安値7600円まで下がった。その後回復し、現在はその「半値」である約14000円を超えた。相場の格言に「半値戻しは全値戻し」というのがあり、一般に半値まで戻れば元のピークまで戻ると言われる。では今回も今までの上昇ペースで2万円まで行くのだろうか?

1990年代末のITバブルは米国と日本で同時に進行し、両国とも2000年にバブル崩壊を向かえた。一時ソフトバンクの時価総額が20兆円を超え、光通信の時価総額が7兆円を超えていたことからも猛烈なバブルだったことが分る。このバブルは、日本では小渕内閣の「何でもあり」のなりふり構わぬ景気対策の産物でもあり、長続きするものではなかった。従って、いくら格言があるからと言っても、ITバブルのピークまで「全値戻し」するには再びバブルを呼び戻すしかない。

バブルをあおる人がいる

日本の企業の体質がだいぶ改善し、収益が回復しつつあるのは確かだ。そして一部の業種ではまだ改善の余地が多いので、今後も全体としての業績改善は続くだろう。しかし、125日には東証1部の時価総額が500兆円を超え、もう現在のGDPに近い。時価総額がGDPを超えたのは資産バブル時の2年間を除いて歴史上存在しない。また現在の予想PER22で、もはや国際的には低くない。従って、日本の株価はもう割安とは言えない。

それにもかかわらず最近も株価の上昇が続いている一つの理由は、バブルをあおっている人がいるからだ。その第一は証券会社や株関係の出版社の関係者である。「日経平均が5年後には2万円、10年後に3万円になる」というような発言が多い。この発言時の日経平均は約12000円なので、こうなることは今後10年に渡り平均して年約10%の株価上昇が続くことを意味する。今後の日本は少子高齢化の時代を迎え、名目で5%を超えるような経済成長を続けることは難しい。従って、一時期のバブルは別にして、こういう長期的な株価の上昇は期待できないだろう。


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