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No.505 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2005/08/22
「踊り場脱却」は本当か?
日銀の福井総裁は、8月9日の記者会見で、踊り場からの脱却についての現時点の認識を聞かれ、「大方踊り場的な局面から脱却したと言えないこともない感じである」と言った。IT関連の在庫調整の進展をその根拠として挙げている。
また竹中金融・経済財政政策担当大臣は、同じ8月9日の記者会見で、「現時点での指標等から総合的に判断しまして、踊り場的状況を脱却しているというふうに判断しております」と言った。
両発言を踏まえて、翌日の新聞には「踊り場脱却宣言」の活字が躍った。そして、8月8日の衆議院解散で、小泉構造改革が継続することを好感したことも合わさって、株価が上昇し、8月22日には日経平均が今年最高の12,453円に達した。
しかし、日本経済の根本的問題がおおむね解決し、今後、長期的な安定成長が望めると考えていいのだろうか? どうも、そうは言えないようだ。ここでは、異常な低金利、財政赤字、まだ不充分な民間企業の構造改革の三つの問題を取り上げる。
異常な低金利
1990年代のバブル崩壊に対して、日銀は考えられる限りの金融政策を駆使してきた。1995年には公定歩合を0.5%まで下げた。それでも足りず、1999年には、いわゆる「ゼロ金利政策」に踏み出し、コールレートのゼロへの誘導を開始した。そして、2001年3月からは、いわゆる「量的緩和策」を継続し、4〜5兆円だった当座預金残高を30〜35兆円まで増やした。
その結果、市中銀行の預金は超低金利になり、利子に頼っている退職者などの生活を苦しめている。
そして、超低金利の状態は、金融政策の効果をほとんどなくしてしまっている。ゼロ金利より金利を下げることはできず、量的緩和に乗り出したが、心理的効果はさておき、その実質的効果ははなはだ疑問だ。マネタリーベースは、量的緩和を始めた2001年3月には65.7兆円だったが、2004年3月には108.1兆円になり、3年間に42.4兆円(64.5%)も増えた。しかしこの間に、マネーサプライ(M2+CD)は、639兆円から686兆円に47兆円(7.4%)増えただけだ。つまり、ほぼ日銀が供給を増やした分だけ増えただけで、新たな信用の創造はなく、貨幣乗数(マネーサプライ/マネタリーベース)は、この間に9.7から6.3に減少した。日銀がいくら頑張っても、一般企業にはそれほどカネが回らなかったのだ。
こういう異常な低金利の状態からは一日も早く脱しなければならない。そういう意味で、速水前総裁が2000年8月に、反対意見を押し切ってゼロ金利解除を強行したのは、時期の当否はともかく、考え方としては正しかった。今後日銀は、あまり政府に遠慮しすぎるこのなく、正常な金利の状態を一日も早く実現する必要がある。
財政赤字
日本政府の国債残高は、すでにGDPを超え、さらに毎年増え続けている。政府の借金は次世代の国民の借金である。国債を持っているのもほとんどは日本国民だと言っても、それは富裕層が中心だ。国民の借金は、われわれの子孫の全国民が消費税や所得税で負担することになる。現在は超低金利だからまだいいが、普通の金利になったら、この借金の負担はさらに増大する。従って、一日も早くこの借金漬けの状態から脱する必要がある。それには、歳出の抜本的な削減と増税しかない。
民間企業の構造改革
かつて13行あった日本の都市銀行は、現在は、三菱東京・UFJ、みずほ、三井住友、りそなの4行に集約された。支店の統合や人員の削減はまだ不充分だが、銀行の数だけは一応減った。しかし、ほかの業界は、高度成長時代に比べまだほとんど数が減ってないところが多い。電機メーカー、自動車会社、大手小売業など、どれを取っても、欧米諸国に比べ似たような企業の数が多すぎる。
高度成長時代には、供給力に対し需要が多く、顧客も甘かったため、競争がそれほど厳しくなく、経営が多少甘くてもやっていけた。しかし、今後の低成長時代にはそうはいかない。欧米同様、日本でもM&Aや淘汰を進める必要がある。全員で仲良くやっていきましょうという時代は終わったのだ。
そして、日本の市場の伸びはもうあまり期待できないため、生き残るためには、世界のトップクラスの企業と戦って、全世界に進出する必要がある。2000年頃には、携帯電話の急伸で21世紀は日本の世紀になると言われたが、現在携帯電話の市場はノキア、モトローラ、サムスンの3社が半分以上を占め、日本のメーカーのシェアはどこも2〜3%以下だ。また、日本の企業も力を入れてきた液晶パネルやプラズマ・パネルでも、世界シェアの1、2位を占めるのは韓国の企業だ。今後は、全世界の市場規模の正確な見通しと、それに対応した戦略的な投資が必要になる。
このように、日本経済にはまだまだ問題が多い。現状は、副作用には眼をつぶって、GDPを超える国債の発行や超低金利という劇薬を飲んでどうにか生きながらえている状態だ。そして、民間企業の構造改革もまだ不充分で、何とかなる限り、問題の先送りを続けている。とても正常な健康体になったとは言えない。従って、今回一つの踊り場を脱したのかも知れないが、この先には第2、第3の踊り場が待っている。これらの点からも、現在の日本の株価が割安とは言い難い。ちょっと株が上がりだしたからといって、安易に日本株投資をするとひどい眼にあう恐れがある。
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