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No.504 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2005/07/04
日本株の投資信託にご用心!
株式投資信託の純資産残高が、今年5月末に30兆円を超えたという。1989年12月に、これまでのピークの45.5兆円を記録したあと、1997年に10兆円程度になるまで減り続けたが、その後回復し、30兆円を超えたのは、1991年10月以来14年ぶりだという。1) 金融資産が預金から株式に移るのは、時代の流れであり、結構なことだ。しかし、現在の日本の株式投資信託にはちょっと問題があるように思う。
ベンチマーク+αを目指して、ベンチマーク−α
ここでは、日本のある証券会社が扱っている、TOPIX (東証1部の時価総額の指数)をベンチマークにして、日本株全般を対象に運用している投資信託を例にとって、最近の状況を見てみよう。これが、現在の日本の投資信託の傾向を示していると思われるからである。
この投資信託は、1999年2月から2000年2月の、いわゆるITバブルの時期には、TOPIXが54.3%上昇したのに対し、62.6%伸びた。(分配金を含む) つまり、ベンチマークを8.3ポイント上回った。これは、当時急騰したIT株や電機株を、ベンチマークより多めに保有していたためで、いわばバブルの悪乗りに成功したのである。
しかし、このファンドは、2000年2月から2003年2月のITバブル崩壊の3年間には、TOPIXが52.6%下落したのに対し、61.6%下がり、ベンチマークを9.0%下回った。これは、バブル期に引き続き、IT株や電機株をベンチマークより多めに持っていたためだ。IT株や電機株の早期回復を見込んだのだろうが、その予想は外れた。
そして、2003年2月から2005年2月の、最近2年の回復期に、TOPIXは43.7%上昇したが、この投資信託は43.6%しか上がっていない。わずかだが、ベンチマークを下回っていて、バブル崩壊時のベンチマークに対するロスをまったく取り戻していない。これは、低迷が長引いている電機関係を引き続き多めに持っていたこと、急回復した銀行株を少なめに持っていたことなどが原因である。
バブルの悪乗りは、非常に危険ではあるが、資産を増やす最も容易な方法でもある。そして、悪乗りすれば、バブル崩壊の初期にそれが裏目に出るのは、ある程度はやむを得ない。しかし、バブル崩壊の後期から回復期にかけて、業種や銘柄ごとの回復のタイミングをどう読むかは、ファンド・マネジャーの腕で、それがファンドのパフォーマンスに大きな差をつけている。上記のファンドは、この時期に、電機、小売、金融などの回復のタイミングを読み誤ったようだ。
ここで、TOPIXの歴史を振り返ってみよう。1970年代前半の最低は147 (70年/12月)、最高は422 (73/1)である。70年代後半の最低は268 (75/1)、最高は465 (79/9)、80年代前半の最低は449 (80/3)、最高は913 (84/12)、80年代後半の最低は917 (85/1)、最高は2885 (89/12)である。このようにTOPIXは、第2次大戦後、短期的な変動はあっても、長期的には、経済の高度成長に伴って伸び続けた。
こういう時代には、たとえファンドの伸びが多少ベンチマークを下回っても、さして問題はなかった。いわゆる優良株の「buy and hold」型の運用が最も安全で、長期的には安定したリターンをもたらした。しかし、今や低成長時代になり、もうTOPIXに従来のような上昇は期待できない。従って、TOPIX並みでもたいしたリターンにならないのに、ましてそれに届かなければ話にならない。このように環境が大幅に変わったのに、従来と同じような運用に頼っているファンドが多いようだ。今後は、市場の変化にもっとドラスティックに対応して銘柄を入れ替える運用が求められる。
バリューの反対がグロースではない!
投資信託の投資スタイルはバリュー型とグロース型に分かれるといわれる。バリュー型とは、現在の資産、利益などに対して、株価が割安な企業に投資するもで、グロース型とは、将来の成長性を重視して投資するものだ。そして、ファンドの調査リポートには、純粋なバリュー型と純粋なグロース型を両端に対立させて、各ファンドが、その間のどこに位置づけられるかを表示したものもある。しかし、このように両者を対立させるのは妥当なのだろうか?
ことさらにバリュー型と言わなくても、株は、安いときに買って、値上がりしたら売るのが常道だ。しかし、いくら割安でも、将来の業績の成長や回復が見込めない企業の株を買う人はいない。極端な場合、会社がつぶれてしまっては元も子もない。そういう意味で、将来性を無視したバリュー型というのはあり得ない。現に、バリュー型を謳っているファンドでも、調査リポートではバリュー型とグロース型のほぼ中間に位置づけられているものもある。
また、将来の成長性が高いと思われるが、現在の経営数値に対して、株価がすでに充分高いものも多い。こういう株価が一瞬にして急落する恐れがあるのは、ITバブルの崩壊でいやというほど見せつけられた。従って、いくらグロース型と言っても、やはり割安な株を狙うべきだ。高度成長時代には、一時的な騰落はあっても、長期的に成長する株を持ち続ければ、結果的に資産の増大が図れたケースが多かった。しかし、今後の低成長時代には、こういうグロース型のファンドは注意を要する。成長性だけでなく、株価の割安度にも充分配慮していることを確認する必要がある。
いずれにしても、バリュー型、グロース型を称しているファンドに投資するときは、その実際の投資先をよく調べなければならない。
1) 日本経済新聞、2005年6月14日
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