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No.501 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2005/02/09
株価の予想記事にご注意!
「日経マネー」の2005年1月号に「2005年大予測」という記事が載っていたので、買って読んでみた。そして、下記の二つの点が気になった。
第1は、フェアロード代表の木戸一郎氏の、「日米ともに今、株価が歴史的に割安な水準です」という言である。本当にそうなのだろうか?
昨年3月、本誌に、今の米国の株価は割安とは言えないことを記した。1) 要約すると、「米国の株価は、1996年から2000年にかけてバブルで上昇したあと、2000年にバブルがはじけていったん下落したが、現在のS&P 500は1100程度で、再びバブルの最中の1998年の値に戻った。しかし、米国経済のファンダメンタルズは、経済成長率、貿易収支、財政収支、失業率など、どれをとっても1998年当時より悪くなっている。またこの間のGDPの増大も現在の株価を正当化できない。従って、現在の米国の株価は割高である」という内容である。
そして、上記の記事を書いた昨年3月以降、米国の株価はさらに上がり、S&P 500は現在1200程度である。この1年で企業収益が改善したと言っても、ファンダメンタルズが大幅に変ったわけではないので、株価の割高状態はその後も続いている。
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S&P 500の1株当たり利益とPER2) |
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1株当たり |
S&P 500 |
PER |
|
利益 |
(年末) |
|
|
(A) |
(B) |
(B/A) |
2005(予) |
73.98 |
1300.00 |
17.6 |
2004(予) |
67.02 |
1200.00 |
17.9 |
2003 |
54.69 |
1111.92 |
20.3 |
2002 |
46.04 |
879.82 |
19.1 |
2001 |
38.85 |
1148.08 |
29.6 |
2000 |
56.13 |
1320.28 |
23.5 |
1999 |
51.68 |
1469.25 |
28.4 |
1998 |
44.27 |
1229.23 |
27.8 |
1997 |
44.01 |
970.43 |
22.1 |
1996 |
40.63 |
740.74 |
18.2 |
1995 |
37.70 |
615.93 |
16.3 |
1994 |
31.75 |
459.27 |
14.5 |
1993 |
26.90 |
466.45 |
17.3 |
1992 |
20.87 |
435.71 |
20.9 |
1991 |
19.30 |
417.09 |
21.6 |
1990 |
22.65 |
330.22 |
14.6 |
1989 |
24.32 |
353.40 |
14.5 |
1988 |
24.12 |
277.72 |
11.5 |
PERの面から見てみよう。右表でS&P 500のPERの推移を見ると、バブル時代の1996年から2000年にかけてのPERは18.2から28.4の間である。1988年以降でPERが18を越えた時期はほかに二つしかない。一つは1991年から1992年、もう一つはバブル崩壊後の2001年から2003年である。 これらは、株高というよりも企業収益の減少がPERを押し上げたものだ。従って、PERが18以上は株高で要注意ということになる。
そして、S&P社は、2004年と2005年の推定PERを17.9と17.6と予想している。つまり現状のPERはバブル寸前の値なのだ。従って、米国の株価は、決して歴史的に割安だとは言えない。
次に、日本の株価を見てみよう。前に本誌に、東証1部の時価総額のGDPに対する比率が0.8以上になったのは、1986年から1990年までのバブルの時期と、1999年のミニ・バブルの年だけであることを示した。3) では、現在はどうか? 2月8日の東証1部の時価総額は361兆円で、2003年のGDP 501兆円の0.72倍である。つまり、現在の時価総額は、経済活動全体の規模から見ると、バブルの一歩手前の状態なのだ。
また、2月8日の東証1部のPERは、前期の利益を基準にすれば29.21で、今期の予想利益を基準にすれば20.88である。4) これを米国のPERと比べれば、日本の株価は決して割安とは言えないことが分る。
気になった点の第2は、あおぞら銀行主席研究員の林 康史氏の、「控えめに見ても、30年後の日本株は今の10倍になってもおかしくない」という言である。
30年で10倍になるということは、平均して年に7.97%の上昇が30年間続くということだ。今後の日本経済にこんな期待ができるのだろうか?
今年の1月20日に政府の経済財政諮問会議が決めた中期展望によれば、2004年度から2012年度の9年間の名目成長率は、年に0.8%から4.0%の間で、平均して2.86%である。これだと、30年で2.33倍にしかならない。中期展望の後半の2009年から2012年の平均をとっても3.90%で、これでも30年で3.15倍にしかならない。しかもこの中期展望は、2012年度にプライマリー・バランスを無理やり黒字にするための楽観的な見通しに基づくもので、実際はこれを下回る可能性が大きい。
そして、上に記したように、現在の日本の株価は特に割安というわけではない。従って、経済活動の規模が2倍か3倍にしかならないのに株価が10倍になれば、それはバブル以外の何ものでもない。確かに、前にも本誌に記したように、バブルは人間の本性に基づくものなので、将来も必ず起きる。5) 従って、1980年代後半のようなことがまた起きれば、30年後に株価が10倍になる可能性もないとは言えない。しかし、バブルが起きることを前提にした投資というものは考えられない。
これも前に本誌に記したが、投資家向けの雑誌は、株を買う人が増えなければ売り上げが伸びないので、株価が上がるから株を買いなさいという記事が中心なのだ。6) 記事の執筆者も、本心はともかく、商売上その要求に応えているわけである。読者は、このことをしっかりと頭に置いておく必要がある。
1) 「米国の株価はどうなる?」 Tosky’s MONEY (No.403)、 2004年3月27日
2) “S&P 500 Fourth Quarter Operating Earnings To Set New Record”
STANDARD&POOR’S, Press Release, December 20, 2004
3) 「今の日本はそんなに株安か?」 Tosky’s MONEY (No.116)、 2001年7月28日
4) 「主要指標」 日本経済新聞、2005年2月9日
5) 「バブルは必ず再発する!」 Tosky’s MONEY (No.4)、 2000年3月19日
6) 「証券関係者の話にご注意!」 Tosky’s MONEY (No.9)、 2000年4月9日
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