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No.404                            酒 井 寿 紀                      2004/12/15


お家のために身を滅ぼす経営者

 

カネボウの粉飾決算が判明

20041028日に、カネボウが、社内の調査委員会による調査の結果、旧経営陣が粉飾決算などの不正行為に関与していたことが判明したと発表した。旧経営陣に対し、刑事告発と損害賠償請求の両面から責任を追及することを検討中だという。

その後、関係者の話として、不正の実態がいろいろ報道された。例えば、「興洋染織」との仮装取引で522億円が回収不能になったが、こういう仮装取引を社内で「宇宙遊泳」と呼んでいたという。1) そして、ノルマ達成のための架空売り上げを「対策」と呼び、その結果生まれた不良在庫を「黒球(くろだま)」と呼んでいたという。また、決算直前に取引先への売り上げを増やし、決算後返品させることを「押し込み」と呼び、翌期の売り上げ予定分を繰り上げて計上することを「前倒し」と呼んでいたという。2) 

また「日経ビジネス」の記事によると、帆足隆前社長自身、「それで借入金ばっかりで、在庫の処理がすぐにはできなかったので、『低稼働』でずっとやってきた。当時は『粉飾』とは言っていなかった」と言っている。「『粉飾』とは言っていなかった」と言うことは、言外に「実態は『粉飾』だった」と認めていることになる。3)

これらの点からカネボウで粉飾決算が行われていたことは間違いないようだ。

法令遵守か、業績維持か?

帆足前社長は、上記の記事で言っている。「つまようじで突つくようなことをすれば、いろいろ出てくるかもしれないけれど、それは必死でやってきた結果ですからね」、「四苦八苦しながら会社存続のために信念を賭してやってきた」、「ケチをつけようと思ったらいろいろあるけれども、とにかく良くすべく努力をしてきた」3)

企業の最低限の社会的責任である法令遵守も、会社存続のための業績維持も、経営者にとっては重要な課題だ。そして、経営者も人間である以上、能力に限界があり、一方に全力を上げれば、他方がおろそかのなるのは当然だ。帆足前社長は上記の発言で、他のことは多少犠牲にしてでも、業績維持に全力を注いだと言っている。しかし、これは許されることなのだろうか?

スポーツで言えば、法令遵守はルールを守ることであり、業績維持は勝負に勝つことだ。勝敗に固執するあまりルールを無視したら、試合は滅茶苦茶になってしまう。業績維持に必死に努力したことは、違法行為の言い訳にはならない。

確かに、ビジネスの世界の法令はスポーツのルールほど単純明快ではない。例えば、売り上げを増やすために、コンピュータ・システムをいくつもの企業を通してまとめたり、受託生産で、実質上素通りに近い部品の費用を売り上げに計上したりするのは広く行われており、経営上好ましいかどうかは別にして、必ずしも違法行為ではない。

と言っても、これにも限度がある。最近、メディア・リンクスという会社が、コンピュータ機器の転売の架空取引で21億円の売り上げを165億円に膨らませて、社長が起訴されたように、度を越せばアウトになる。ただ、スポーツのルールと違って、ビジネスの世界のルールにはグレーゾーンが大きい。そして、問題のある手段は、麻薬と同じで、一度使い出したら止めるのは至難の業で、泥沼に陥るのが常である。業績回復までの一時的な緊急避難という考えはほとんどの場合破綻をきたす。

法令遵守と業績維持を天秤にかけて破綻をきたしたのは、カネボウに限らない。三菱自動車の欠陥車隠しなど、事例にはこと欠かない。お家の存続のためには法も秩序も踏みにじって身命をささげたのは江戸時代の話だが、日本の企業にはいまだにその名残が色濃く残っているようだ。名門の老舗ほど危ない。

親を斬る罪、斬らない罪

また、上記の記事で帆足前社長は、1028日のカネボウの発表について言っている。「中嶋(現カネボウ社長)には完全に裏切られました。許せません」、「あの野郎には、もう本当に怒り心頭でね。子供が親を殺すようなものですよ。先輩をぶった斬るというのは、これはもう常識では考えられない。無礼千万だ」3)

確かに、今まで育ててくれ、目をかけてくれた元上司を刑事告発し、損害賠償請求の訴訟を起こすのは人の道にもとることだ。しかし、もし報道されているように、旧経営陣に対し損害賠償請求の訴訟を起こす必要があるのが事実なら、現在の経営者としてその訴訟を起こさないことは株主に対する背任行為である。

たとえ親を斬る罪があったとしても、親を斬らない罪もあるのだ。親を斬るといっても、必ずしも裁判沙汰とは限らない。会社の経営方針の変更もその一つである。日本の会社には、親を斬る罪より、親を斬らない罪を犯している経営者の方がはるかに多いのではないだろうか。

帆足前社長は言う。「過去からずっと変な仕組みがあった。こういう会社の風土にしたのも伊藤(淳二元社長)さんの責任でしょうね」3)  確かに「変な仕組み」を作ったのは帆足前社長ではないのかもしれない。もしそうだとすれば、この人も親を斬らない罪を犯してしまった一人である。今になって、「腹に据えかねたのは、今年6月末の株主総会でわれわれの責任を問うた伊藤ですよ」3) と言っても、もう遅い。

 

1) 「カネボウ旧経営陣、仮装取引で損失522億円」 asahi.com, 04/11/02, 朝日新聞社

2) 「カネボウ、粉飾隠蔽で隠語駆使 不良在庫は『黒玉』」 asahi.com, 04/11/03, 朝日新聞社

3) 「親を斬った中嶋は許せない」 日経ビジネス、 2004118, 日経BP


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