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title.gif (1997 バイト)

No.403                            酒 井 寿 紀                      2004/03/27


米国の株価はどうなる?

 

日本の株価は米国の株価によって大きく左右される。その米国の株価は、1990年代に上昇し続けたあと、2000年以降下落したが、2003年に入ってから再び上昇した。そして、株式市場全体の指標に近いS&P 500は現在1,100程度で、ほぼ1998年のレベルまで回復した。この回復は今後も続き、再び2000年の高値(S&P 5001,500程度)あるいはそれ以上になるのだろうか? それともこの回復は一時的で、再び2002年の底値(S&P 500800程度)あるいはそれ以下になる可能性が大きいのだろうか?

1998年前後には株価バブルがさかんに取りざたされたが、やがてその心配通りバブルがはじけた。従って、実体経済がこの5年間に大幅に成長し、現在の株価がもはや異常な株高とは言えない状態になっていない限り、再びバブル崩壊の道を歩む可能性が高い。

そこで、1998年前後と最近の実体経済の状況を比較してみよう。

1998年のGDP8.8兆ドル、2003年のGDP11.0兆ドルで、この間に25%伸びているが、この伸びは現在の株価を正当化できるだろうか? FRBのグリーンスパン議長が「irrational exuberance(根拠なき熱狂)」と警鐘を鳴らし始めたのは199612月で、S&P 500がまだ700程度の時だった。1998年にはこれが1,200を超え、過熱は一段と激しくなっていた。従って、当時からのこの程度のGDPの伸びは、とても現在の株価を正当化できるものではない。

また、1997から99年にかけてのGDPの実質成長率は平均4.4%/年である。これが2001年は0.5%2002年は2.2%2003年は3.1%と、最近は当時より低下しており、ここのところ回復傾向が見られるとはいえ、将来の経済成長に対する期待は当時より厳しくなっている。

次に、貿易収支を見てみよう。1998年には1,632億ドルの赤字だったが、その後増え続け、2003年には4,894億ドルの赤字になった。米国は1976年以来赤字続きだとはいえ、昨年の赤字はGDP4.4%に達し、ドルに対する信頼をおびやかしている。

財政はどうだろうか? 連邦政府の財政は、1998年には、社会保障会計の黒字なども考慮すると、692億ドルの黒字だった。それが2003年には3,742億ドルの赤字に陥った。地方政府も含めた累積債務は7兆ドルを超えるという。今年は大統領選挙の年なので、増税や社会保障費の削減など、本格的な財政再建策を唱える政治家はいないが、FRBのグリーンスパン議長はいずれ年金や健康保険の制度の改訂が必要になるだろうと言っている。1) 来年以降それを実施すれば、確実に景気の足を引っ張ることになる。

では、家計の債務はどうだろうか? 1998年に6.0兆ドルだった家計の債務は2002年には8.5兆ドルになった。家計の債務は年間の可処分所得をオーバーし、さらに増え続けている。要するにアメリカ人は借金漬けの暮らしに陥っているのだ。これが一方で現在の景気を支えているのだが、デフレや金利高に対して大変なリスクを抱えていることは間違いない。

失業率はどうだろうか? 1998年は4.5%だったが、2003年には6.0%に悪化した。失業率の悪化は生産性の改善によるもので、生産性の伸びが止まるまでは雇用の回復は難しいだろうと言われている。

では、企業の収益はどうか? S&P 500社の1株当たりの営業利益は1998年には44ドルだったが、2003年の見通しは55ドルである。確かに24%増加しているが、これは上述のこの間のGDPの増加25%に満たない。最近の企業収益の改善は株価に過剰に反映されている。

フェデラル・ファンド・レートは、1998年には4.75から5.25の間だった。その後、景気の過熱対策のため、20005月に6.50に達するまで引き上げられた。そして、バブル崩壊の後、20011月から20036月までの間に連続して13回引き下げられて1%になり、その後この歴史的に下限に近いレートに張り付いたままである。

これは、現状が歴史的な株高であるにもかかわらず、上述のように問題の多い現在の経済を支えるためには、金利を上げるわけにいかないという判断によるものだろう。そして現在のフェデラル・ファンド・レートが下限に近いということは、たとえ非常事態が起きても、金融政策の選択肢は極めて少なく、その有効性は限定されるということである。

このように、どの面から見ても、米国経済の最近の実態は1998年前後よりかなり悪い。それにもかかわらず、株価は1998年前後の歴史的な株高の状態に戻っているのだ。従って、現在は当時ほど騒がれていないが、現株価は当時と同等以上のバブル崩壊の圧力を内部に秘めていることになる。

それがいつ、どういう形で外に現れるかは、地震の予測と同じで極めて難しい。しかし内部に溜まった歪は、遅かれ早かれ放出されることになるのも地震と同じである。今年は大統領選挙の年なので、現政権は何としてでも大地震の発生を防ごうとするだろう。それが成功すれば、先ず注意を要するのは来年ということになる。

そして米国に大地震が起きれば、日本に大津波が来るのは間違いない。

 

1) “Greenspan warns against deficits” CNNmoney, February 26, 2004

( http://money.cnn.com/2004/02/25/news/economy/greenspan/ )


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