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No.402                            酒 井 寿 紀                      2004/01/15


イラクはどうなる?(2)

 

日本の自衛隊は安全か?

日本は自衛隊をサマワに派遣することになった。派遣先は非戦闘地域でなければならないから、サマワ周辺はゲリラの襲撃もない比較的安全な地域だということになっている。しかし本当にそうなのだろうか? ゲリラには他国から来た者も多いという。と言うことは、何も彼らの地元だけで活動しているわけではないのだ。他国から来た者は、襲撃に値するものがあると思えば、イラク中どこへでも行くだろう。今までサマワ周辺でテロがなかったのは、襲撃に値するものがなかったからに過ぎない。

では自衛隊はどうか? いくら小泉首相が「人道支援のため」と言っても、派遣が米国から感謝されている以上、米国支援でもあることに間違いない。また、小泉首相は「断固としてテロと戦う」と言っている。日本はゲリラの敵であることを明言しているのである。そして相手は赤十字でさえ襲撃したのだ。日本の自衛隊が攻撃対象にならないわけがないと考えるべきだ。

昨年11月末に日本の外交官が2人殺害された。それに対し川口外相がテレビで「信じられないことが起きた」と言っているのを聞いて、信じられない思いをした。現在イラクでは連日、米軍とゲリラが戦闘を繰り返しているのである。そして、ゲリラから見れば日本は米国支援国家の一つなのである。それにもかかわらず、ティクリット周辺というイラクでも一番危険なところを、護衛もなく車1台で移動し、途中で写真撮影や買物をしていたのだという。

川口外相の言が、外務省の責任が問われるのを防ぎ、自らの政治生命をまっとうするための政治的発言なら致し方ないが、もし本心からそう思っているとしたら、そして、外務省のほかの幹部もそう思っているとしたら、こういう事件は今後いくらでも起きるだろう。

国民にどう言うかは別にして、小泉首相や石破防衛庁長官が自衛隊の安全性についてどう考えているかが問題である。

日本はなぜ自衛隊を派遣するのか?

では、なぜこのような危険を冒してまで日本は自衛隊を派遣することにしたのだろうか? 思っていることをそのまま口にするようでは政治家にはなれない。従って、表向き言っていることを聞いただけでは、政治家が本心で何を考えているのかは分らない。言葉の裏から本心を読み取るほかない。

日本は1950年の警察予備隊の創設以来、なし崩し的に一歩一歩実質的な軍隊の設立を進めてきた。その裏には、日本も将来正式な軍隊を持つべきだという考えがあったに違いない。それは、言い方を変えれば、普通の国になるべきだということである。そうすることは、首脳会議で日本の総理大臣が肩身の狭い思いをしなくて済むだけでなく、現実の国際政治の駆け引き、取り引きの世界で、国益を守るためには必要だと考えるのは自然なことだ。

日本の自衛隊は、規模、装備ともかなり充実した。しかし、普通の国の普通の軍隊になるためにはまだ足りない点が多い。普通の軍隊なら、国土の防衛だけでなく、国益の防衛のために、場合によっては他国に出向くことも必要だ。そして何よりも実際に戦える人の育成が必要である。それには実戦経験が一番だ。

そういうときに「911日」が起きた。その後の「テロとの戦い」を、自衛隊を普通の軍隊により近づけるための絶好のチャンスと考える政治家がいても不思議ではない。これなら海外へ派兵しても、国民も中国も韓国も了承させられるだろう。

政治家が何を考えているのかは分らない。以上は一つの可能性である。

小泉政権はどうなる?

小泉政権はブッシュ政権のイラク政策を全面的に支持してきた。しかし、前号で触れたように、アメリカ人の半分はブッシュのイラク政策に反対なのである。と言うことは、小泉首相の選択は、極端にいえば、アラブ諸国や、フランス、ドイツ、ロシア、中国だけでなく、アメリカ人の半分を敵に回したことになる。小泉首相はブッシュと心中する道を選んだわけだ。これが日本の国益にかなった選択だったかは疑問である。

確かに日本の自衛隊は、兵器の開発も情報網も全面的に米国頼みで、「テロとの戦い」に関しては米中央軍の連合部隊(coalition)の一員である。従って、米国と足並みをそろえざるを得ない面もある。しかし、連合部隊には、フランス、ドイツ、ロシアなどのイラク攻撃に反対した国を含め、70カ国が参加しており、連合部隊の一員であるがために何も言えないということはない。たとえ結果的にはイラクに自衛隊を派遣することになったにしても、日本政府独自の考えを伝えることはできたはずだ。

日本の自衛隊を普通の国の普通の軍隊にするべきだというのは一つの考えである。そのために「911日」から始まった「テロとの戦い」を絶好のチャンスとして生かそうとするのも自然である。国民や近隣アジア諸国の反対を抑えて、海外で実戦訓練が積める機会はそうあるものではない。

たとえそこまではよかったとしても、イラク攻撃はスジが悪すぎた。小泉政権の今後の選択肢は限られたものになるが、民間人としては、今後の展開についていろいろな可能性を考えておく必要がある。イラクは長期的に内戦状態になるかも知れない。それによりブッシュ政権は再選に失敗するか、苦戦してより弱体化するかも知れない。自衛隊は相当な被害をこうむるかも知れない。そして小泉政権は窮地に陥るかも知れない。そうなれば経済問題などにかかわっていられなくなる恐れがある。


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