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No.316                            酒 井 寿 紀                      2003/09/25


IPv6はいつ使われるようになる?

 

IP (Internet Protocol)とはインターネットで使われる規格の一つで、メールなどを送るときに、自分と相手のIPアドレスを送信データのどこにどういう形で置いておくかなどを決めたものである。いわば、手紙の宛先や差出人を封筒のどこにどう書くかを規定したようなものだ。

現在使われているIPIPv4 (IP version 4)で、そのIPアドレスは32ビットである。インターネットの普及によって、これでは将来アドレスが足りなくなると、1990年代のはじめに次世代のIPの規格の検討がはじまった。それがIPv6で、そのIPアドレスは128ビットである。IPv6ではIPアドレスの拡張のほか、セキュリティやQoS (Quality of Service: 通信品質)の面でも改善が図られた。

日本では、研究機関、メーカー、政府などがこのIPv6の実用化の推進に大変な力を入れてきた。例えば、200010月に総務省も参加して「IPv6普及・高度化推進協議会」というものが設立され、20037月現在328の団体および個人がその会員になっている。また、現在政府が推進しているe-Japan計画でも、IPv6が推進項目の一つとして取り上げられ、本年8月に決定した「e-Japan重点計画−2003」には「税制優遇措置、無利子・低金利融資の支援策を2003年度も引き続き実施するなど、IPv6ネットワークへの速やかな移行のため必要な措置を講ずる」と記載されている。

しかし、「IPv6への速やかな移行」は本当に必要で、経済的にも有効なのだろうか? 上に記したようにIPv6の新機能にはいろいろあるが、最大の特徴はIPアドレスの拡張である。IPアドレスがすぐにでも枯渇しそうなことを言っている人もいるが実態はどうなのだろうか?

IPv4IPアドレスは32ビットで、約40億の、インターネットに直接・常時接続されている機器を識別できる。この40億のIPアドレスは256のブロックに分れ、各ブロックは約1,600万のIPアドレスからなる。インターネットの初期にはこのブロックを惜しげもなく民間企業や大学に割り当てた。そのため、IBM、ヒューレット・パッカード、GE、フォード、MITなどは、現在でも1,600万のIPアドレスを1団体で占有している。中には、スタンフォード大学のように、IPアドレスの管理元であるIANA (Internet Assigned Numbers Authority)の要求に応じて割り当てられていたブロックを返上したところもあるが、これは例外である。

このようなIPアドレスの割り当て方は、1996年以降はなくなり、最近は、全世界に四つある、地域ごとのIPアドレス管理団体RIR (Regional Internet Registry)にブロック単位で割り当てている。ここがまた国ごとのIPアドレス管理団体に割り振ることになる。

こうしてIPアドレスはブロック単位で割り当てられるが、現在のところ256ブロック中の115ブロックがまるまる未使用である。つまりまだ40%以上が残っているのである。

そして最近の割り当て状況を見ると、98年が3ブロック、99年が2ブロック、2000年が4ブロック、01年が7ブロック、02年が4ブロックと、最近5年間の平均は年間4ブロックである。このペースが続けば、100ブロック以上残っているので、25年以上間に合う。たとえ今後ペースが2倍に上がっても10年以上持つことになる。

最近中国が、IPアドレスが足りなくなると騒いでいる。しかしこれは中国のインターネット人口が近年急激に増加したためで、IANAやアジアのRIRであるAPNIC (Asia Pacific Network Information Center)が各国を平等に扱う限り、中国だけがほかの国より先にIPアドレスの枯渇に遭遇するということはない。これは、日本や韓国についても同じである。

ブロードバンドを使ったインターネットの常時接続はIPアドレスを占有する。しかし、最近の一般家庭での常時接続の急増にもかかわらずIPアドレスの消費がそれほど増えてないのは、先進国でのインターネットのユーザーの増加の鈍化と相殺しているのではないかと思われる。

従って、現在のインターネットの使い方が大幅に変わらない限り、IPアドレスにはまだまだ余裕があり、すぐにIPv6が必要だということにはならない。

しかし、今後はインターネットが変わっていく。第3世代の携帯電話は、インターネットの常時接続が可能でIPアドレスを占有する。そして2002年に全世界で約10億台使われていた携帯電話が2007年には約20億台になるだろうという予想がある。1) これがもし全部インターネットの常時接続になれば、これだけで全IPアドレスの半分を使うことになる。従って、携帯電話でのインターネットの普及速度には今後よく注意を払う必要がある。しかし、例えその普及が進むとしても、それには相当な時間を要するだろう。

では、日本ではどうしてこうもIPv6が騒がれているのだろうか?

いつになるかは別にして、将来IPv6のようなものが必要になることは間違いない。従って、研究者がその研究に力を入れるのは当然である。ただし、もっと差し迫った課題、短期的に経済効果の大きい課題との力の配分を誤ってはならない。

メーカーが、他社差別化の材料として、製品に新技術の取り込みを図るのも当然である。しかし、一般論として、ユーザーのニーズがまだ高くない機能を取り込めば、それはユーザーに余計な負担を強いることになることを忘れてはならない。

そして、政治家や官僚が経済の活性化のための牽引車として、新技術を錦の御旗に掲げるのも当然である。しかし、e-Japan計画のように当面2005年を目標としている計画で、IPv6が経済の活性化や国民の生活にどれだけ貢献できるのかは疑問である。

また、ジャーナリズムが新しい話題に飛びつくのも当然である。しかし、本当のジャーナリストなら、ものごとを覚めた目で見ることも忘れてはならない。

目指す方向は正しくても、時間軸を誤るとカネと労力の無駄遣いになる。

 

1) “Wireless Subscribers to Reach Two Billion by 2007…”  August 6, 2003  In-Stat/MDR

 ( http://www.instat.com/newmk.asp?ID=714&SourceID=00000501000000000000 )


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