home > Tosky's MONEY >
No.314 酒 井 寿 紀 2003/08/22
「専門用語解説サイト」の成立条件
例えば、「whatis.com」という、IT関係の用語の意味を無料で調べられるサイトがある。1) Blue Tooth 、802.11gなどのネットワークの用語、CRM、ERPなどのソフトウェアの用語、JPEG、MP3など画像や音声の圧縮技術の用語などの意味を調べ、関連する記事を読むことができる。
また、ネットワーク関係の用語に限定されるが、「Linktionary」という同様のサイトもある。2)
分野はまったく違うが、例えば「Investopedia」という、投資関係の用語の意味を無料で調べられるサイトもある。「limit order」、「diluted PER」などの用語の説明がある。3)
これらは、いわば「専門用語解説サイト」(以下「用語サイト」と略称)とでもいうようなものである。無料でいろいろな言葉の意味が調べられるので、多くの人が利用していることと思う。
日本にもこれに類するサイトはあるが、現状は米国のものとはだいぶレベルに差があるようだ。今後日本にも米国並みのレベルのものができることが期待される。
では、この「用語サイト」が、その利用者に便利で、かつその提供者にも利益をもたらすためには、つまりビジネスとして成立するためにはどういう条件が必要だろうか? ここではIT関係の「用語サイト」を中心に考えてみよう。
先ず第1の条件は、サイトの提供者が自社で用語解説のいいコンテンツを持っていることである。例えば、whatis.comを運営しているテックターゲット(TechTarget)は185名の専門家を抱え、独自の解説記事をウェブおよび雑誌で発行している。また、Linktionaryを運営しているトマス・シェルドン(Thomas Sheldon)は「Encyclopedia of Networking & Telecommunications」という14,000項目のネットワーク用語の解説書の著者でもある。
こういう「用語サイト」は、同類のものがいくつもある必要はないから、ほかにまさるコンテンツを持っているサイトだけが生き残ることになるだろう。
第2の条件は、そのサイトが属する言語圏のウェブに、有益な関連情報が多数登録されていることである。例えば、whatis.comでは用語の解説自体は1項目当たり10数行からせいぜい数10行だが、自社の関連記事へのリンクのほか、他社の関連情報へのリンクが用意されていて、貴重な情報を提供してくれる。つまり、「用語サイト」はひとつの専門分野のポータルサイトとしての役割もはたしているのである。
その言語圏で、関連情報が雑誌などに多数掲載されていても、ウェブ化されていなければリンクを張るわけにいかず、「用語サイト」の有用性ははるかに低くなる。現状は、この点で日米の差は大きい。
第3の条件は、ビジネスとして成り立つように、広告主が確保できることである。広告主は「用語サイト」の特徴を生かして、各項目について、関連する自社のページへのリンクを張っている。例を挙げよう。
(1) 製品や部品の項目について、それを生産している企業へのリンクや、それを販売しているB2C(オンライン・ショッピング)やB2Bのページへのリンク
(2) システムの項目(例えばRFID)について、それを扱っているインテグレータやコンサルタントへのリンク
(3) その項目に関連するイベントやツアーの企画へのリンク
(4) その項目に関連する、広告主による解説記事へのリンク
「用語サイト」を使えば、その項目に関心がある閲覧者に的を絞って売り込み情報を提供できるため、効率のいい宣伝ができる。(4)は直接の売り込みではないが、技術の優位性をPRすることによって、間接的に販売を支援しようとするものである。
「用語サイト」としては、閲覧者に有益な情報を提供する必要があるので、例えば(4)のような解説記事の充実が期待される。ただ「買ってくれ」というだけのサイトにしかリンクを張ってないような「用語サイト」は敬遠されるだろう。
現在市場で脚光を浴びている製品やシステムの項目にはリンクを希望する広告主がつくが、例えば「量子コンピュータ」のように新しすぎてまだ商売にならないものや、例えば「COBOL」のように古くなってしまったものにはなかなか広告主がつかない。しかし、「用語サイト」としてはこういう用語も掲載する必要があるので、そのための費用は、ほかの項目でカバーしなければならない。
そして第4に、ビジネスとして成立するためには、その言語圏のウェブでIT情報を閲覧する人がある程度以上多い必要がある。例えば、上記の条件をすべて満足したとしても、スウェーデン語、デンマーク語のような、使う人が1,000万人に満たない言語で「用語サイト」をビジネス化することは難しいだろう。そしてこれは、ただその言語を使う人口が多ければいいという話ではない。例えば、ヒンディー語を使う人口は3.7億人いるというが、彼らがコンピュータやインターネットについて調べるときは英語を使うと思われるからである。
そしてITの世界では、自国語のサイトと同時に英語のサイトも活用している人が多い。日本人もそうだ。従って、英語を第1言語とする人口は3.4億人で、日本語は1.3億人だといっても、ITの情報をウェブで閲覧している人の数は、英語と日本語では10倍以上違うだろう。
日本で情報のウェブ化が遅れているのは努力すれば回復できるが、この英語と日本語の環境条件の違いはいかんともし難い。従って、米国で成り立ったビジネス・モデルがそのまま日本でも成り立つとは限らないことは、よく頭に置いておく必要がある。
1) “whatis.com” ( http://whatis.techtarget.com/ )
2) “Linktionary” ( http://www.linktionary.com/linktionary.html )
3) “Investopedia” ( http://www.investopedia.com/dictionary/ )
E-Mail : ご意見・ご感想をお寄せ下さい。
発行通知サービス : 新しく発行された際メールでご連絡します。
Copyright (C) 2003, Toshinori Sakai, All rights reserved