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No.312 酒 井 寿 紀 2003/07/29
アドレス帳が一つになる日
前号では、全米をカバーするディレクトリ・サービスを取り上げた。いつの日か、これは全世界をカバーするものになるかもしれない。
一方、企業内でのディレクトリ・サービスも普及しつつある。
例えば、ルフトハンザ航空はノベル(Novell)のeDirectoryというディレクトリ管理ソフトを使って、7万人の従業員の情報を管理している。 eDirectoryは、90年代の代表的なディレクトリ管理ソフトの一つであったNDS (Novell Directory Service)を母体にして、1999年にリリースされたものである。
またマイクロソフトは、全世界の8万人あまりの従業員の人事情報を同社のActive Directoryというディレクトリ管理ソフトで閲覧できるようにしている。もちろん見ることができる情報は、部署や職位によって制限されている。
では個人用のディレクトリ・サービスはどうだろうか?
よく使うメールの発信先はメール処理ソフトのアドレス帳に登録しておくと便利だ。これは、もともとはメール・アドレスを登録しておくものだが、最近のものは、自宅の電話・住所、勤務先の会社名・部署・役職・電話・住所、性別、配偶者や子供の名前、誕生日などまで登録できる。(マイクロソフトの「Outlook Express 6」の例)
年賀状などを印刷するときに使う、はがき印刷ソフトの住所録は、もともとは住所を登録しておくものだ。しかし最近のものには、自宅と勤務先の住所や役職のほか、メール・アドレス、電話、生年月日、性別、旧姓などを登録できるものもある。(「筆王」バージョン7の例)
また携帯電話の、「メモリダイヤル」などと呼ばれている電話帳にも、よく使う電話番号やメール・アドレスを登録しておくことができる。
このほか、PIM (Personal Information Manager)と呼ばれる、個人の情報を管理するパソコン用のソフトにも住所録の機能がある。
これらはみんな個人用のディレクトリ管理機能である。この個人用のディレクトリ管理についてはいくつかの問題がある。
その一つは、データの内容には上記のように同じものが多いが、ファイル形式が違うため、メール処理ソフト用、はがき印刷ソフト用、携帯電話用など、それぞれ別々に入力する必要があることである。一つのアドレス帳を作ればすべてに使えるようになっていれば便利なのだが、現在はそうはなっていない。
現在でも、例えばロータスのPIMであるオーガナイザー(Organizer)の住所録は各社の携帯電話の電話帳と相互にデータを転送できるようになっている。しかし、携帯電話の電話帳のファイル形式にはいろいろあるため、すべての機種がサポートされているわけではない。
こういう、相互にデータを転送する機能が、メール処理ソフトやはがき印刷ソフトにもあるといいのだが、現在の製品にはそういう機能はほとんど用意されてない。
もう一つの、もっと単純な問題は、例えば同じメール処理ソフトを、自宅のパソコン、勤務先のパソコン、外出先で使うモバイルのパソコンで使うとき、アドレス帳を一つ作れば、どのパソコンでも使えるようになっている必要があるのだが、これが必ずしもできない。
例えば、Netscape 6のメール処理ソフトのアドレス帳は、ほかのアドレス帳からデータを取り込む(インポートする)ことはできるが、ほかのアドレス帳にデータを吐き出す(エクスポートする)ことはできない。一人で何台かのパソコンを使うのが普通になった時代にこれでは使いものにならない。(Netscape 4およびNetscape 7にはエクスポート機能が用意されている)
さらにもう一つの問題は、他社製品との間でのアドレス帳の転送である。各社とも、他社製品から自社製品へ移行するためのインポート機能の充実には熱心だが、自社製品から他社製品へ移行するためのエクスポート機能はきわめて貧弱である。
例えば、Netscapeのメール処理ソフトは、マイクロソフトのOutlookのアドレス帳からのインポート機能を用意しているが、Outlookへのエクスポート機能は用意してない。逆にOutlookは、Netscapeからのインポート機能を用意しているが、Netscapeへのエクスポート機能は用意してない。
また、例えば「筆王」というはがき印刷ソフトは、「筆まめ」、「筆自慢」など多数の他社の同類のソフトの住所録からのインポート機能を用意しているが、他社の住所録へのエクスポート機能はまったく用意してない。
どの製品の世界でも、「インポートは易く、エクスポートは難し」が現実である。これは市場シェアの競争上やむを得ない面もあるが、事情があって他社製品に切り替えたいユーザーにとってはまことに不便極まりない。
こういう問題を解決するため、LDAP (Lightweight Directory Access Protocol)というディレクトリ・サービスの標準プロトコル、LDAPのファイル間でデータを交換するLDIF (LDAP Data Interchange Format)というファイル形式が制定されている。
大規模なディレクトリを扱うノベルのeDirectoryやマイクロソフトのActive DirectoryなどではこのLDIFでのデータ交換が可能である。しかし、個人用のディレクトリの世界でLDIFでのデータ交換が可能なのは、現在はまだNetscape 7 (インポートおよびエクスポート)、Outlook Express 5以降(インポートのみ)など、ごく一部に限られる。
いずれ個人用のディレクトリのファイルについてもLDIFを媒介にして自由にデータを交換できる日が来るだろう。シェアの増大を願い、シェアの減少を食い止めたいソフトウェア・ハウスはLDIFからのインポートはサポートしても、LDIFへのエクスポートはサポートしたくないかもしれない。しかし、そういうソフトは、一度そこに入ったら抜け出せない蟻地獄のようなものなので、そういうソフトには誰も寄りつかなくなるだろう。
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