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title.gif (1997 バイト)

No.309                            酒 井 寿 紀                      2003/04/15


アメリカの「新帝国主義」

 

ブッシュ政権の政策に大きな影響を与えている「新保守主義」とはどういうものだろうか? その代表的な活動機関である「The Project for the New American Century (PNAC)」について見てみよう。

PNAC1997年に設立された非営利団体で、その「理念の声明(Statement of Principles)」は次のように言う。1) (以下「 」内は筆者による抄訳。太字は筆者による。)

「(現在のアメリカの)保守主義者は、世界におけるアメリカの役割の戦略的ビジョンを、信念を持って樹立することを怠った。・・・そして彼らは、21世紀にアメリカの安全保障を維持し、アメリカの利益を確保するための国防費の予算獲得の戦いをしなかった」

「われわれの目標はこれを変えることにある。われわれは世界におけるアメリカの主導権の確立を議論の的にし、それに対する支援を喚起することを目指す」

要するに、アメリカの安全保障と利益が重要で、そのためにはアメリカが全世界の主導権をにぎる必要があるというのだ。そしてこの「理念」に同意している人の名前が列挙されているが、その中には、ブッシュ政権で副大統領になったディック・チェイニー、国防長官になったドナルド・ラムズフェルド、国防副長官になったポール・ウォルフォウィッツ、副大統領首席補佐官になったルイス・リビーらの名前がある。

そしてこのPNAC20009月に「Rebuilding America’s Defenses」という政策提言をまとめた。これは、大統領選挙の最中に、ブッシュが当選して共和党政権が生まれることを期待して書かれたもので、協力者には上記のウォルフォウィッツやリビーが名を連ねており、本文だけで76ページに及ぶ。2)

まず、上記の理念の実現のためには軍事力の強化が不可欠だと説く。

「今日、アメリカの国防費は、GDP3%以下である。これは第2次大戦前の時代からの最低記録で、実質上冷戦後最初の予算である1992年の4.7%からさらに削られたものである」

1990年代は『国防軽視の10』だった。次期大統領は国防費を増額して地政学上の主導権を確立しなければならない」

そして、個々の軍事力について言う。

「核抑止力は今後も必須である。しかし、それについて再検討するときは、弾道ミサイルや大量破壊兵器の拡散に対する対抗処置としての意味を考慮する必要がある。今後は中小の国々が、この拡散によってアメリカの同盟国やアメリカ本土そのものをおびやかし、アメリカの軍事行動に歯止めをかける可能性があるからである」

「兵力については、前ブッシュ政権時代に言われた『基礎兵力』に戻し、現役兵力を現在の140万人から160万人に増やすべきである」

そして、新型の戦闘機、ヘリコプター、潜水艦などの開発・配備が必要だと、それぞれについて具体的に詳しく述べる。

また、新しい戦力として、宇宙とインターネットを支配することの重要性を強調する。

「アメリカの軍事力の圧倒的優位性を維持するためには宇宙の支配が軍事戦略上必須である。ここで宇宙の支配とは、宇宙へ行くこと、宇宙船などの中で自由に作業すること、ほかの国に宇宙を使わせないこと、などができる能力である」

「アメリカおよびその友好国の敵が軍用や民間のコンピュータ・ネットワークを不通にしたり麻痺させたりすることを防ぐ能力が不可欠である。逆に、これを攻撃に使えば、アメリカの軍や政府の幹部にとって、敵方に決定的な被害を加える貴重な道具になる」

そして、こういう軍事力の強化のため、「国防費を毎年150200億ドル増額し、段階的に、最低GDP3.53.8%のレベルまで増やす必要がある」と言う。

ブッシュ政権が誕生し、PNACの趣旨に対する賛同者が政府の中枢を占めた。しかし、反対意見を配慮して、この政策提言がただちに全面的に採用されることにはならなかった。彼らはチャンスを待っていた。そこに「911日」が起きた。彼らにとっては、彼らの理念を実現するまたとないチャンスの到来だった。PNACは早速920日に大統領宛に手紙を書いた。3)

「アメリカの政策はこの事件の犯人たちを見つけるだけでなく、『われわれに敵意を抱いていたり、過去にわれわれを攻撃したりした、ほかのグループ』も標的にするべきである」

そして、具体的には、オサマ・ビン・ラディンとイラクとヒズバラ(レバノンのテロ組織)をまず標的にするべきだと主張した。前々号に記したように、ここへ来てはじめてブッシュと新保守主義者の利害が完全に一致し、オサマ・ビン・ラディンの勢力の次にフセイン政権が倒された。

上に見てきたように、「新保守主義」の正体は、アメリカの軍事力の圧倒的な優位性を維持し続けることにより、アメリカの主導権のもとに、アメリカの安全保障と利益を守ろうとするものだ。ほかの国との対等な同盟関係とか、国連とかはまったく意識にない。

「新保守主義」などというとわけがわからないが、これはアメリカ中心の「新帝国主義」であり、「新軍国主義」であり、「新国粋主義」である。アメリカがこういう政策をとり続けるならば、ほかのすべての国は、極端に言えば、軍事的にはアメリカの50何番目かの州になる道を選ぶか、対米包囲網の一員に加わるか、二者択一を迫られることになる。日本もその例外ではない。

 

1) “Statement of Principles” The Project for the New American Century, June 3, 1997

( http://www.newamericancentury.org/statementofprinciples.htm )

2) “Rebuilding America’s Defenses” The Project for New American Century, September 2000

( http://www.newamericancentury.org/RebuildingAmericasDefenses.pdf )

3) “Toward a Comprehensive Strategy” The Project for New American Century, September 20, 2001

( http://www.nationalreview.com/document/document092101b.shtml )


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