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No.306                            酒 井 寿 紀                      2003/03/29


SPAM先進国、中国?

 

SPAM(スパム)とは、ジャンク・メールともいわれ、大量に送りつけられる歓迎されないメールのことである。これはもともとアメリカで発達したもので、簡単にカネもうけをする話とか、カネを出しても簡単には買えない貴重な(?)写真とかを頼みもしないのにジャンジャン送りつけてくる。もう年を取ってあまりコーフンすることもなくなったのでいいが、メールを開いたとたんにとんでもない写真を目の前に突きつけられるとギョッとする。これが世界中の子供たちのところにも送りつけられているのだと思うとゾッとする。

このアメリカの文化が中国にも伝わった。私のところにも、英語と中国語のSPAMがそれぞれ毎月100件近く届く。中国語は簡体字なので中国本土向けである。中国語が読めない私のところに送ってもまったく意味がないのだが、それがSPAMSPAMたるところである。断片的に理解できるところから判断すると、その内容はアメリカのSPAMとはかなり違う。なかには美女のビデオの販売もあるが、ドイツの製品の販売代理店の募集とか、SOHOの創業の支援とか、海外勤務者の求人とか、実にかたい、まじめな話が多いのである。

中国はなぜこうなったのだろうか? まず、アメリカや日本の状況を見てみよう。

アメリカや日本ではSPAMの送信が法律で規制されるようになり、特に日本ではこれがかなりまじめに守られているようだ。私のところにも、日本語のSPAMは、合法的なものが月に数件来るぐらいで、違法なものが届くのはごくまれである。

そして、全世界のSPAMの発信者・支援者を監視し、撲滅するSPAMファイターの組織が、アメリカを中心に活発に活動している。例えば、MAPS (Mail Abuse Prevention System)という組織は、SPAMを発信したメール・サーバーのブラックリストを提供しており、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)はこの情報にもとづいて、ブラックリストに載っているサーバーからのメールの受信を拒否できる。1)

ISPは、自社がこういうリストに載ると、ほかのISPが接続してくれなくなるため、SPAMの発信者との契約を拒否するようになった。しかし、SPAMの発信者と分かるまでには時間がかかるので、完全にはSPAMを抑えられない。

SPAMの発信者は、発信元を隠すためと短時間に大量のメールを発信するために、第三者の送信サーバーを使うことが多い。使われた方もブラックリストに載るため、ISPは契約者以外によって送信サーバーを使われないよう対策を講じている。

学校関係のサーバーには、このように勝手に使われることに対して無防備だったものが多く、ブラックリストに載ってしまい、一時はメールが使えなくなってしまったところがあるようだ。

では中国はどうなっているのだろうか? 代表的ISPであるChina TelecomSPAMに対する問題意識がなく、SPAMファイターが警告を出しても、「それはわれわれの管理下にない」と無視されたそうだ。2)

そうなると、ほかの国は中国からのメールの受信を拒否するほか手がなく、例えばイギリスのUXNというISPChina Telecomの管理下のIPアドレスからのメールの受信をいっさい受けつけないという強行策をとった。これが広がると、中国からほかの国へはSPAM以外のメールも届かなくなり、中国はインターネットの世界で隔離されてしまう。2)

China Telecom2000年にはSPAM対策に取り組みだしたようだ。しかし、その後もあまりSPAMが減ってないところを見ると、どれくらい効果が出ているのか疑問である。そして、小さいISPのなかには積極的にSPAMの配信を収入源にしているところもあるという。3)

また、SPAM支援ソフトを販売しているところもある。例えば、深圳にある英文名がETOYI Technologyという会社は、ウェブの検索エンジンなどからメール・アドレスをかき集めてくるソフト、そのアドレスへかたっぱしからメールを送信するソフトを現在でも堂々と販売している。4)

これが中国のまともな企業(?)が、社員の写真入りの新年の挨拶状まで、インターネットで世界中にバラまいている背景である。インターネットの世界で無知・無邪気は恐ろしい。

また、中国発のSPAMが多いだけでなく、アメリカ発の英文のSPAMのなかには、中国のISPの送信サーバーを使って配信したものが相当あるようだ。

中国インターネット協会はSPAM対策に乗り出し、(1)法律の制定、(2)ISPによる対策の推進、(3)送信サーバーの部外者による使用の禁止、(4)SPAM配信者のブラックリストの作成と配布、などを進めると、実にまともなことを言っている。5) 従って、いずれは中国のSPAMもある程度はおさまるだろうが、それまでには相当な時間がかかるだろう。

中国のインターネットのユーザー数は、今年中には日本を抜いて、米国についで世界第2位になりそうだ。従って、早くSPAM対策を講じてもらわないと、世界中のインターネットが大変なことになる。インターネットの世界には国境がないのだ。

そしてこれから、中南米、中近東、アフリカなどの諸国がどんどんインターネットの世界に参入してくる。今後、SPAMファイターの仕事は、草の根的な民間団体に任せておくだけでは済まなくなるのではなかろうか?

 

1) “maps” ( http://mail-abuse.org/ )

2) Michelle Delio “Not All Asian E-Mail Is Spam” WIRED NEWS, Feb. 19, 2002

( http://www.wired.com/news/politics/0,1283,50455,00.html )

3) Dong An “Junk Email Addles China’s Local ISPs” Trends and Analysis, Sept. 7, 2000, e21times

( http://english1.e21times.com/asp/taad.asp?r=482 )  

4) “Targeted Email Marketing Software” ETOYI Technology Co., Ltd. ( http://www.email-tool.com/ )

5) “The Purpose of Anti-Spam E-mail by ISC” Internet Society of China

( http://www.isc.org.cn/20020417/ca56598.htm )


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