home > Tosky's MONEY >

title.gif (1997 バイト)

No.305                            酒 井 寿 紀                      2003/03/07


バーコードの教訓を生かせ!

 

前号に、現在ほとんどすべての商品についているバーコードが、今後無線タグに変わるだろうと書いた。ということは、バーコードが今までに直面してきた問題、現在も抱えている問題の多くを今後は無線タグが引き継ぐことになる。

では、どんな問題があったのだろうか? バーコードの過去を振り返ってみよう。

現在のバーコードの特許が出願されたのは1949年である。しかし当時は安価に実現する技術がなかったため、小売業界では長いこと実用にならなかった。

はじめてチューインガムにつけられたバーコードがスーパーマーケットで読み取られたのは1974年である。その後70年代の末から80年代前半にかけてバーコードは急速に普及した。米国の雑貨店での普及率は1978年には1%以下だったが、1984年には33%になったという。1) 日本でも80年代前半にスーパーマーケットや生協の店舗で導入が進んだ。

バーコードの仕様については、米国では、U.P.C. (Universal Product Code)という、IBMが提案した12桁のコードが1973年に標準として採用され、今日に至っている。ところがヨーロッパでは1977年に設立されたEAN (European Article Numbering system)U.P.C.を拡張した13桁のコードを標準に採用した。これが現在米国、カナダ以外の全世界で使われている。日本で使われているJAN (Japanese Article Number)コードはEANコードの日本での名称である。

従って、米国(カナダを含む、以下同じ)以外の国の間では、生産国でつけたバーコードがそのまま通用するが、米国以外の国が米国に製品を輸出するときは、あらためてU.P.C.を取得する必要がある。つまり、米国市場で流通する全世界の製品にU.P.C.コードを割り当てる必要があり、登録を申請する方も受理する方も手間がかかり、コードも足りなくなった。

貿易自由化の時代にこれでは不便なので、米国のすべての小売店は200511日までにバーコード・スキャナとバーコードを処理するプログラムを13桁に改造することになっている。子供が育ちすぎて、生みの親の方が子供に合わせざるを得なくなったのだ。

そして13桁でも量り売りの農産物などへの適用は難しいので、14桁に拡張しようという動きがあり、U.P.C.の管理元であるUCC (Uniform Code Council)2005年までにシステムを14桁に改造することを推奨している。

一方で、前号に記したように、エイリアン・テクノロジは2004年には無線タグが大量に生産されるようになり、15セントになるという。従って、不統一だったバーコードの規格が30年経ってやっと世界中で統一されるとき、バーコードの役割は終わっているのかも知れない。

ローマ帝国も、あらゆる技術も、円熟したときには衰退が始まっているのだ。

それはともかく、バーコードの歴史はわれわれにいろいろ教訓を残してくれたように思う。

そのひとつは、「全世界での統一が必要だ」ということである。

統一されてなければ、バーコードや無線タグを、メーカーが輸出先ごとにつけかえるか、輸入業者が自国の規格にあわせてつけかえる必要がある。そして、バーコードや無線タグの読み取り機のメーカーは何種類もの規格に対応した製品を作る必要がある。それらを個別に作れば量産効果が上がらず、共通化を図ればコストアップにつながる。そしてその費用は結局すべて消費者の負担になる。EANU.P.C.の二通りになってしまったバーコードの規格の苦い経験を忘れてはならない。

無線タグのコードの規格を決めようとしているAuto ID CenterEANUCCに協力を要請し、EANCEOのブライアン・スミス(Brian Smith)氏が昨年のEANの総会で快諾を表明しているのは、そういう意味で大変結構なことだ。2)

それにひきかえ、ユビキタスIDセンターという、Auto ID Centerと似たような組織を昨年12月に発表した坂村健氏が、「みんな同じじゃあ、つまらないでしょ」、「国ごとや業界ごとに別々のシステムでもいいじゃない」と言っているのは大変気になる。3) 下手をすると、日本だけ国際標準語が通用しない世界の片田舎になってしまう。仕様の多少のよしあしより標準化の方がはるかに重要だ。

もうひとつの教訓は、「情報量に対する要求はどんどん膨らむ」ということである。

もともと13桁のEANコードではメーカーコードは5桁だった。しかし日本のJANコードでは途中で足りなくなり、7桁のものも作った。また合計13桁では足りないので14桁に増やす話があることは上述した。このように情報量に対する要求は増えていくが、バーコードで増やせるのはせいぜい1桁か2桁である。

無線タグではこれが一気に増える。Auto ID Centerの案は64ビットと96ビットで、96ビットは10進数にすれば28桁に相当する。そのメーカーコードは28ビットで2億社以上が識別できるので、当分は充分な情報量だろう。しかし、無線タグの情報量には別の問題がある。

同じチップサイズ、同じ価格の半導体の記憶容量は、ほぼ5年で10倍、10年で100倍のペースで増え続けてきて、今後もまだそれに近いペースで増加することが見込まれている。

従って、当初の無線タグの容量が64ビットでも96ビットでも、あるいはユビキタスIDセンターが提案している128ビットでも、その差にたいした意味はない。それより、その後数年経つごとに数倍に増え続けるビット数を活用できるようなしかけの方がはるかに重要である。そのうちメモリーだけでなくプロセッサも内蔵した無線タグが商品につけられる日が来るかも知れない。

バーコードはいずれ消え去るだろう。しかしそれが残した教訓は永い間生き続けるだろう。

 

1) Tony Seideman “The History of Barcodes” ( http://www.basics.ie/History.htm )

2) “General Assembly” EAN Review, June 2002 ( http://www.ean-int.org/EANReview-June.htm )

3) 「ゴマ粒チップをめぐる2つの『センター』がもたらすもの」 日経エレクトロニクス 2003217日号 p.65 


E-Mail : ご意見・ご感想をお寄せ下さい。

発行通知サービス : 新しく発行された際メールでご連絡します。


Copyright (C) 2003, Toshinori Sakai, All rights reserved