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No.304                            酒 井 寿 紀                      2003/02/27


究極のユビキタス!?

 

「無線タグ」とか「RFID (Radio Frequency Identification)」とか呼ばれるものがある。半導体のチップに情報を書き込んだものをヒトやモノにつけておき、その情報を電波で読み取ることによって、そのヒトやモノを識別するものである。

この無線タグには、電池を内蔵する「能動型」のものと、外から当てられた電波のエネルギーを使って電波を発信する「受動型」ものがある。能動型のものは、列車の車両など大物の識別にはいいが、高価なので、現在は受動型のものが主流である。また無線タグには「読み出しのみ」のものと「読み書き可能」のものがある。例えば、定期券は読み出しのみでいいが、回数券やプリペイドカードに使おうとすると書き込みができる必要がある。

この無線タグは10年以上前から、牛や豚などの家畜の識別、列車の車両の識別などに使われてきた。これらはモノの識別だが、当時はタグが11,000円以上したので、モノでも安いものの識別にはとても使えなかった。そのため、無線タグはその後、オフィスの入退室管理など、主としてヒトの識別に使われてきた。

現在JR東日本で定期券やプリペイドカードとして使われている「Suica」もヒトの識別の一種である。これは200111月にサービスを開始したが、200210月には利用者が500万人を突破したという。これにはソニーのFeliCaという無線タグが使われている。FeliCaは香港やシンガポールでも交通機関の支払手段として使われ、香港では1,200万枚(20026月現在)の出荷実績があるという。

このように、無線タグは、ヒトの識別用としては普及したが、安くなっても数百円したため、モノの識別用としてはあまり普及しなかった。ところが最近安いものが現れだした。

米国のエイリアン・テクノロジが開発した技術は、エッチングで半導体のウェイファ上のチップを切り離すことによって、8インチのウェイファ1枚から150マイクロメートル角のチップを25万個取り、このチップをfluidic self-assemblyというプロセスで、液体を使ってプラスチックのフィルムに搭載するものである。この会社の設備がフル稼働すれば年間800億個のチップが生産できるという。800億というと途方もない数と思うかもしれないが、コカコーラだけでも年間2,000億個の需要があるという。この技術で作られた無線タグは2004年には15セント(約6円)になるだろうという。1), 2)

また日立製作所は20016月に、ミューチップという、128ビットの情報を0.4ミリメートル角のチップに入れた無線タグを発表した。これは現在150円前後だが、この214日に発表した0.3ミリメートル角のものはさらに大幅に価格が下がるという。3)

このような安価な無線タグを商品につけて物流や在庫を管理するためには、標準規格の制定が必要になる。そのため、プロクター・アンド・ギャンブル、ウォルマート、コカコーラ、ジョンソン・アンド・ジョンソンなど87社(20032月現在)がスポンサーになって、MITのなかにAuto ID Centerという組織を作り、現在標準化活動を進めている。

その標準化の対象には次のようなものがある。商品を識別するEPC (Electronic Product Code)というコード、無線タグや読取り機の仕様、商品に関する情報を記述するPML (Physical Mark-up Language)という言語、PMLで記述した商品の情報が格納されているウェブサーバーの場所を、EPCを使って検索するONS (Object Naming Service)という仕組みなどである。

上記のエイリアン・テクノロジの無線タグはこのAuto ID Centerの規格に適合した最初の無線タグである。

このAuto ID Centerのしかけを商品に適用することにより、物流、在庫管理の費用が大幅に削減できるという。

例えば、プロクター・アンド・ギャンブルは、期待通りにいけば、これによって在庫を半分に減らせ、年間4億ドルの経費節減ができるという。そして、これを使うことにより、在庫切れを事前に察知して補充できるメリットも大きい。また流通コストの35%を占めるという盗難、破損、誤配、紛失などによるロスの低減効果も大きいという。4)

ジレットは16日に、米国市場向けの一部の商品にAuto ID Centerの無線タグを適用する試験を開始すると発表した。今後数年間に最大5億個の無線タグをエイリアン・テクノロジから買う計画とのことである。5)

エイリアン・テクノロジで本格的生産が始まるのはこれからなので、まだ完全に見通しがついたわけではないが、遅れてはならじと、ジレットに続いて試行を開始する企業が多いだろう。

無線タグは、現在のバーコードのように、大多数の商品や小売店に普及してはじめて本格的に効果を発揮するものなので、それまでにはまだ相当な年月を要するだろう。しかし、安価な無線タグを生産する技術の手がかりは得られたようなので、遅かれ早かれそういう日が来ることは間違いなかろう。

無線タグはコンピュータではないが、情報を記憶した半導体のチップである。これが世の中のほとんどの商品につけば、それは究極のユビキタスと言えるだろう。

 

1) “Auto ID Center – About the Technology” ( http://www.autoidcenter.org/aboutthetech.asp )

2) “An alien technology for assembling ICs” ( http://www.alientechnology.com/news/sst.htm )

3) 日本経済新聞 2003214

4) “RFID: From Just-In-Time to Real Time” CIO INSIGHT, April 12, 2002 ( http://www.cioinsight.com/article2/0,3959,1515,00.asp )

5) “Gillette Pioneers Breakthrough Technology” Mass eComm ( http://www.massecomm.org/news/news.asp?NiID=538 )


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