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No.228                            酒 井 寿 紀                      2002/12/19


 

百科事典は電子出版になる!

 

従来百科事典というと何十巻もあり、居間の飾りとしてはともかく、関連事項をいろいろ探したりするのは大変だった。しかし、近年CD-ROMDVD-ROMなどの記憶媒体を使うものが現れ、ステイタス・シンボルとして見せびらかしことはできなくなったが、取り扱いは非常に便利になった。

またEncyclopedia Britannicaのようにウェブで利用できるものも現れた。

これらは今後どうなっていくのだろうか? 

記憶媒体を使うものにしてもウェブ版にしても電子出版の一種である。まず、百科事典についての電子出版のメリットを見てみよう。

例えば、「ネアンデルタール人」について調べたい時に、「ネアンデルタール人」を引けばいいのか、「旧人」、「人類」、「化石人類」、「人間」などを引いた方がいいのか、なかなか分からない。何回か引き直してやっと希望する項目にたどり着くことが多い。

そのために索引の巻が用意されているのだが、いちいちこれを引くのも面倒だし、索引を引いても、探している言葉が複数の項目に出てくる時は、どの項目を見れば自分が知りたいことが出ているのか分らない。

その点電子出版だと、調べたい言葉を入力すれば、その言葉が出てくる全項目が分かるし、その各項目へ行くのも、クリックひとつで行けるから極めて便利だ。

また、基礎知識がない分野の言葉を調べる時にも便利だ。

例えば「脳梗塞」について調べたいとき、これを引くと、「血栓」「塞栓」「失行」「失認」など、聞き慣れない言葉が多数出てきて、それぞれの言葉の詳細についてはそれぞれの項目を参照せよ、ということになっている。それぞれの項目を参照すると、そこでもまた知らない言葉が出てきて、別の項目を参照しなければならない。

これらをちゃんと調べることによって、「梗塞」と「血栓」と「塞栓」の違いが分るのだが、これを印刷物で真面目にたどって行こうとすると、机の上は開いた百科事典の山になってしまう。

電子出版なら、クリックひとつで関連する項目へ飛んで行け、また戻って来ることができるので極めて便利だ。

そして、印刷物では絶対にできないことだが、音も出てくる。

例えば、マイクロソフトが発行している百科事典であるEncartaで音楽家を引くとその人が作曲した曲のさわりの部分を聞くことができる。また楽器を引くと、その楽器の音色を聞くこともできる。また、例えば「カノン」を調べると、いくつかのメロディーが重なってカノンになる様子を実例で聞かせてくれる。

またライオンやナイチンゲールの鳴き声も聞くことができる。日本のウグイスのことを英語でナイチンゲール(nightingale)と言うが、ヨーロッパのナイチンゲールの鳴き声は日本のウグイスとはまったく違うことが分る。

「ドプラー効果」も実際に音を聞かせて説明してくれるので分かりやすい。

音楽や動物の鳴き声など、音についての説明は、文章で読んでもなかなか分るものではないが、実際に音を聞けばすぐ分かる。「百文は一聞にしかず」である。

また必要に応じ、アニメーションとナレーションで分かりやすい説明を聞くこともできる。

例えば、Encartaでは「日食」や「月食」について、それがなぜ起きるのかを、月が地球のまわりを回るアニメを使って分かりやすく説明してくれる。

また、「パナマ運河」の項目では、太平洋と大西洋の一方から他方へ、水門を開いたり閉じたりして、山を越えて船を運ぶ方法をアニメで説明してくれる。

これらは文章だけではなかなか分りにくいが、アニメを見ながら説明を聞けばよく分かる。

さらに動画を使えば、鳥の飛び方、動物の走り方など非常に分かりやすい。

例えば、Encyclopedia Britannicaでは、「ゴリラ」の項でコンゴでのゴリラ探しの様子を見ることができる。また、「ゴルフ」の項で、ジャック・ニクラウスによるスイングの説明を、動画を見ながら聞くことができる。そして、「ジョン・F・ケネディ」の項では就任演説のさわりを聞くことができる。現在は回線速度を考慮して情報量を抑えているため、静止画に近い画面だが、今後回線速度が上がれば、もっと質の高い動画を見られるようになるだろう。

そして、もうひとつのメリットは何と言っても印刷物に比べて安いことだ。印刷物よりほぼ1桁安く手に入る。

電子出版は紙代も印刷・製本のコストもかからない。CD-ROMの製作費は、1,000円もしない雑誌に付録でついていることからも、展示会等で、無料で配布していることからも、およそどの程度のものか見当がつく。印刷物に比べれば、製作費だけでなく、物流費も、倉庫代も、そして棚卸資産の金利も格段に安い。

さらに、ウェブで提供すれば、記憶媒体の製作費や物流費も不要になる。

また、必要な個所を印刷したり、パソコンで資料を作成する際に貼り付けたりすることも容易にできる。

このように百科事典については電子出版のメリットが大きい。印刷物に対するデメリットは、従来は、情報量の制約上、美術関係の項目などで画像の数が限られていたことだが、記憶媒体の大容量化と回線速度の高速化により、その制約はどんどん減りつつある。

従って、いずれ印刷物の百科事典はなくなり、百科事典はすべて電子出版になるだろう。

ではそれはCD-ROMDVD-ROMなどの記憶媒体になるのだろうか? それともウェブになるのだろうか? 次号で考えてみよう。

 

(注) 本稿はウェブサイト「Tosky World」に掲載されていた「21世紀の百科事典」をベースにしたものである。


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