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title.gif (1997 バイト)

No.217                            酒 井 寿 紀                      2002/08/17


プロセッサはどうなる?

 

前号に書いたように、Mooreの法則はまだ当分続きそうである。では、プロセッサは今後どうなるのだろうか?

以前のプロセッサ、いわゆるメインフレームは何千個というICを使い、大きな箱に収まっていた。半導体の集積度の向上によって、それはやがてバックボード1枚になり、小型のカード1枚になり、そしてLSI 1個になった。

一方、Intel1971年に4004を出してから、マイクロプロセッサの時代が始まった。40042,250トランジスタだったが、2000年に出たPentium 4はキャッシュ・メモリを含めると4,200万トランジスタだという。この間、ほぼ2年で2倍、つまり10年で約30倍、20年で約1,000倍のペースでチップ当りのトランジスタ数が増大した。1)

80年代後半に各社が始めたRISCもマイクロプロセッサと同じように1チップのプロセッサである。

当初のマイクロプロセッサやRISCは性能が低く、メインフレームと競合することはなかった。しかし、性能が向上すると、それはやがてメインフレームの市場を下の方から蚕食していった。

プロセッサが多数のチップを使っていた頃は、プロセッサの開発・製造はプロセッサ屋の仕事だった。しかし、プロセッサが1チップになり、半導体部品として販売されるようになると、その開発・製造は半導体屋の仕事になった。そして多くのプロセッサ屋は失業してしまった。

マイクロプロセッサやRISCと言っても、最近のものは、パイプライン制御とか、キャッシュ・メモリとか、以前の大型プロセッサと同じような技術を使っているので、以前のプロセッサ設計者のうち運のいい人は、今もマイクロプロセッサやRISCの開発に腕を振るっているのだろう。

昨年11月のIntelの発表では、2007年には10億個のトランジスタを持ったプロセッサ用LSIができる見通しだという。こういう時代が来たとき、プロセッサはどういうものになるのだろうか?

前号にも書いたように、あまり性能を必要としない分野では、プロセッサはチップの一部のエリアだけを使えばよくなる。そうなると、プロセッサの回路だけをプロセッサ・コアとして販売するビジネスが出現する。プロセッサの開発は半導体屋の手を離れ、再びプロセッサ屋の手に戻ってくるわけだ。現在のARMMIPS Technologiesはそのはしりだが、今後さらに集積度が上がれば、マイクロプロセッサやRISCをプロセッサ・コアとして販売するところが増えるだろう。

では、いくらでも性能がほしい分野のプロセッサはどうなるだろうか?

マイクロプロセッサは1970年代以来、演算回路やバスの幅を増やしたり、先行制御を高度化したり、キャッシュ機構を取り込んだりして性能向上を図ってきた。しかし今までの延長線上でさらに性能を上げることはだんだん難しくなるだろう。10億トランジスタ以上を有効に使って性能向上を図るには、今までとは異なるアプローチが必要になると思われる。

現在IBMは、1億ドルをかけて、Blue Geneというスーパーコンピュータを開発している。これはIBMRISCであるPowerを単純化した1 gigaflops (giga109)のプロセッサを100万個並べて1 petaflops (peta1015)の性能を実現しようというものである。この性能はチェスの世界チャンピョンを打ち負かしたIBMDeep Blue1,000倍だという。これはたんぱく質の研究に使うために開発するのだそうだ。2)

このスーパーコンピュータには将来の高性能プロセッサに対するヒントがいくつか含まれているように思われる。

先ず、100万個のプロセッサはそれぞれ512KB (4Mbit)DRAMを内蔵している。演算速度に比べ、メモリからのデータ転送は遅いので、メモリが同一チップ内にあることは性能向上に大きく貢献するという。

現在の技術でもチップの半分程度のエリアをメイン・メモリ用のDRAMに使えば、16MB (128Mbit)程度のメイン・メモリをプロセッサのチップ上に搭載できそうだ。2010年までにはこの何百倍かのメモリを搭載できるようになるだろう。メイン・メモリをプロセッサのチップ上に搭載できるようになれば、何段階もの複雑なキャッシュ制御を単純化できるというメリットもある。

従って、今後はDRAM混載のプロセス技術が非常に重要になるだろう。

またこのBlue Geneは、1 gigaflopsのプロセッサを30個程度1チップに搭載する計画である。チップ上でマルチプロセッサを構成しようというわけである。

アプリケーションにもよるが、チップの集積度が非常に高くなったとき、これは高性能を実現するひとつの方法になると思われる。集積度が上がればチップ上のプロセッサ数はいくらでも増やすことができる。

もうひとつの重要な技術は、「autonomic computing」と呼ばれるもので、いくつかのプロセッサが誤動作をしても、自動的に回復することによって、システム・ダウンを回避するものである。マルチプロセッサのプロセッサ数が増えればこういう技術が不可欠になるだろう。

Blue Geneは今のところ1億ドルの大道楽かも知れない。しかし、ここに10年後のIBMの大ビジネスの種が潜んでいるかも知れない。1955年にスタートした「Stretch計画」に、1964年に発表されたシステム/360の重要な技術の多くが含まれていたのである。

そして今回は「Stretch計画」と違い、政府の予算に頼らず自前で始めたのだ。IBMは一見システム・インテグレータになってしまったようで、実はそうではないようだ。

 

1)  http://www.intel.com/research/silicon/mooreslaw.htm

2)  http://www.research.ibm.com/bluegene/comsci.html


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