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No.210 酒 井 寿 紀 2002/07/09
米国のIT株は激安か?
7月5日のSun Microsystemsの株は5.39ドル(以下すべて終値)だった。7月2日にはバブル崩壊後の最安値4.39ドルで取引を終えた。これは2000年9月1日の最高値64.31ドル(株式分割調整済み)の約15分の1である。
同じく7月5日のCisco Systemsは14.05ドルだった。7月2日には最近の最安値12.56ドルを記録した。これは2000年3月27日の最高値80.06ドルの6分の1以下である。
かつてのITビジネスの花形にも、このように現在数ドルから10数ドルの株価のところが多い。アメリカの株価といえば、まともな企業はだいたい数十ドルから100ドル前後である。1ドルを切れば上場取り消しになる。これらの元花形の株価は回復するのだろうか?
アメリカの企業の株価で注意を要するのは、株価が100ドル近辺になると株式分割をして株の単価を抑えるところが多い点である。
例えばSun Microsystemsは1999年から2000年にかけて2:1の株式分割を3回実施した。従って、もしこの分割がなければ、1株には現在の8倍の値打ちがあり、7月5日の株価は43ドルになる。
またCisco Systemsは1997年から2000年にかけて、2:1の分割を2回、3:2の分割を2回実施した。従って、分割前の1株には現在の9株分の値打ちがあり、分割がなければ7月5日の終値は126ドルになる。
また例えばMicrosoftは1987年から1999年の間に8回株式分割を実施し、分割前の1株が現在の144株になっている。
この株式分割が企業の業績の伸びによるものなら問題ないが、バブルによる株価の上昇のために株式分割を繰り返したときは問題が大きい。バブルがはじけた途端、業績の低下以上に株価がどんどん下がり、下手をすると1ドルを切って上場の取り消しを迫られる。
現在NASDAQには1ドルを切る、いわゆる “penny stock”が約400社あるという。従って、今後は上場取り消し回避のための株式統合(株式分割の逆、 “reverse stock split”)が増えるだろう。
日本でも、アメリカにならって株式分割が盛んになってきたが、株式分割にはこういう悪い面もあることを承知しておく必要がある。
このように、株の単価自身では株価が高いとか安いとかまったく判断できない。時価総額をその会社の売上げで割ったPSR (Price Sales Ratio)、それを純利益で割ったPER (Price Earnings Ratio)、それを純資産で割ったPBR (Price Book-value Ratio)等で評価する必要がある。
7月5日のSun MicrosystemsのPSRは1.34で、Cisco SystemsのPSRは5.69である。PSRは成熟した企業では1〜3程度が普通で、例えば同じ7月5日のIBMは1.55、General Electricは2.37である。従って、Sun Microsystemsの値も異常に低いとは言えず、Cisco Systemsの値はまだ平均的なものより高い。例はよくないかも知れないが、同日のGeneral MotorsのPSRは0.16、FordのPSRは0.18である。
同日のSun MicrosystemsのPBRは1.80、Cisco SystemsのPBRは3.61である。その日のIBMは5.46、General Electricは5.34なので、Sun MicrosystemsやCisco Systemsの値はこれらに比べれば低い。しかしPBRが1以下という、資産を売却して山分けしたほうが株主にとっては得、というレベルにはまだ距離がある。ちなみに同日のLucent TechnologiesのPBRは0.62である。
このように、一見激安に見える株価も、バブルで急増した株数を考慮すれば普通の企業並みなので、短期間に株価の急落からの急反発を期待することは難しいだろう。
では市場全体ではどうだろうか?
NASDAQは7月2日に1,380まで下がった。2000年3月10日の最高値5,049の約4分の1である。
ダウ平均は、昨年のテロ直後の値は別にして、7月2日に9,008ドルまで下がった。2000年1月13日の最高値11,582ドルに対し22%下がったことになる。またS&P 500も同じ7月2日に948まで下がった。これは2000年3月24日の最高値1,527より38%低い。
米国の株価については、まだ下値が見えないと言う人と、そろそろ底値圏だと言う人とがいるようだが、これらの株価指数は今後どうなるだろうか?
昨年3月の本誌「米国の株価は回復するか?」に当時の米国の株価は歴史的に見ると、実体経済の活動規模に対し大変な高値だと書いた。1) その後の値下がりでかなり実体経済に近づいたがまだ割高の状況は変わらない。従って今後も株価下落の圧力は続くだろう。最近の値下がりをEnronやWorldComの粉飾決算のせいだと言っている人がいるが、これらは株価下落のきっかけを与えたに過ぎず、底流にはバブルの歪を解消しようとする圧力がかかり続けていることを忘れてはならない。
2000年5月に、まだNASDAQが3,000以上だった時、いずれこれは1,000以下になるだろうと言っていた人を本誌「『熊』の出番来たる?」で紹介した。2) 現在のNASDAQはこのDavid Tice氏の2年前の予想実現まであと一歩というところまで近づいた。同氏はこの7月の「On Wall Street」で言っている。
「長期的投資対象として市場の魅力が回復するまで、株価はまだ下がり続けるだろう」3)
1) http://www.toskyworld.com/money/2001/money108.htm
2) http://www.toskyworld.com/money/money16.htm
3) http://www.prudentbear.com/bc_library_RR_onwallstreet.asp?stage=3&content_idx=12540
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