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No.208                            酒 井 寿 紀                      2002/06/13


垂直分割から水平分割へ

 

コンピュータの初期には、コンピュータのメーカーはそれぞれ自社独自のCPU、周辺装置、OS等を販売していた。そして顧客からシステムを受注すると、各メーカー固有の製品を組み合わせてシステムを構築していた。こうして、コンピュータの市場はメーカーごとに垂直に分割されていた。

アメリカでは60年代には「白雪姫と7人の小人」と言われ、IBMの他7社のコンピュータ・メーカーがそれぞれ独自の世界を築いていた。しかし、小人たちは70年以降順次消え去り、80年代末には、メインフレーム・コンピュータのメーカーはIBMだけになってしまった。

そして70年代にIBMの世界が巨大になると、その世界で使われるIBM互換のCPUやディスクを提供するメーカーが現れた。また、このIBMの世界で使われるアプリケーション・ソフトを開発・販売する企業が数多く出現した。

この世界は、あくまでIBM固有の、いわゆるProprietaryな世界だった。従って、基本的には垂直分割の市場だったが、その中で製品ごとの水平な市場分割が始まっていった。

パソコンも、70年代にはメーカーごとにCPUOSが違い、それぞれ独自の世界を築いていた。そのため、パソコンの市場もメーカーごとに垂直に分割されていた。

しかし、81年にIBMIntelCPUMicrosoftOSを使ったパソコンを発売し、オプション・ボードやアプリケーション・ソフトの接続仕様を公開すると、これが事実上の世界標準になった。そして、この標準仕様に基づいたCPU、オプション・ボード、拡張メモリ、外付けディスク、各種アプリケーション・ソフト等の市場が出現した。市場はこうして製品ごとに水平に分割され、各社はそれぞれの市場で覇を競うようになった。

UNIXの世界は、Sun MicrosystemsHewlett-PackardIBM等で少しずつ違う。従って、基本的には垂直分割の市場だが、お互いに極めて似ているので、各社のUNIXに共通に使えるハード、ソフトも多く、それらは水平分割の市場を構成している。

なぜこのように水平に分割された市場が出現してくるのだろうか?

半導体技術等の進歩でコンピュータが複雑になると、開発費の負担が増し、1社で全製品を開発するのは困難になっていった。また競争力の低い製品を無理して販売するより、それは他社に任せ、競争力の強い製品に経営資源を集中したほうが経営上得策である。これがメーカー側の理由である。

またユーザー側から見ると、CPU、ディスク、OS、アプリケーション・ソフト等、それぞれの製品について、自社にとって最もいいものを使いたいのであって、それらすべてが1社から供給される必要はない。

この事情はメインフレームやパソコンだけに限らない。最近日本で問題になっている例をふたつ挙げよう。

そのひとつは携帯電話である。日本では電話会社が機器の販売からサービスの提供、インターネット接続からポータルサイトの運営、コンテンツの認定から料金徴収まですべて行ってきた。これは携帯電話でのインターネットの立ち上げには大きく貢献した。しかし前にも本誌に書いたように1)、今後さらに発展させるためには、これらのビジネスはいくつかに分けて、各ビジネスについて企業間で競争させる必要がある。ここでも市場の水平分割化が要求され、NTTドコモも、総務省の要求に応えてある程度それを実現しつつある。

もうひとつはテレビ放送である。従来はテレビ会社ごとに番組の制作と配信の両方を行ってきた。つまりテレビ放送の市場は垂直に分割されていた。

ところが配信方法として、従来からの地上波のほか、近年、CATVや衛星放送やインターネットによる配信が始まった。この実態を踏まえ、昨年126日の政府のIT戦略本部の会合でIT関連規制改革専門調査会が、番組制作とその配信用のインフラのそれぞれについて自由な競争を促進する提案をした。2) ところがこれは放送業界から猛 反発を食らった。

311日の会合でNHKの海老沢会長は、三宅島の噴火の際の放送網の早期復旧はNHK自身が体を張って徹夜をして頑張ったのでできたのだと主張している。3)

しかし、通信インフラ専業だと災害復旧に充分力を入れないということがあるだろうか? 専業であれば、インフラの維持が商売なので、より力を入れるはずである。そして、地上波、衛星、CATV、インターネット等を競わせた方がより高品質のサービスが期待でき、また多数の選択肢があることは災害時のインフラ確保に有効なはずである。

また同じ会合で日本民間放送連盟(民放連)の氏家会長は、昨年9月のニューヨークのテロの時、CATVはだめで、役に立ったのは自社で放送網を持っている3大ネットワークだけだったと言っている。3)

しかし3大ネットワークをCATVで見ていた人も多いはずだ。私もその時日本のCATVCNNの 現場中継を見ていた。細切れの時間帯しか確保してないCATVのニュースチャネルは論外だが、自社で放送網を持っているかどうかは決め手ではない。

複雑なシステムの市場は、当初はそのシステムを提供する企業ごとに垂直に分割されているが、やがてシステムの構成要素ごとに水平に分割された市場が出現するようになる。その方がユーザーにとってもメーカーにとってもメリットが大きいからだ。それを無視していつまでも垂直分割の市場に固執しても決してうまくいかないだろう。

 

1)    iモード開国!?(コンテンツ)」  http://www.toskyworld.com/money/2001/money104.htm

      「iモード開国!?(電話機)」  http://www.toskyworld.com/money/2001/money105.htm

2)   IT戦略本部(第8回)資料1  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai8/8siryou1.html

3)  第10IT戦略本部議事録  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai10/10gijiroku.html 


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