home > Tosky's MONEY >
No.207 酒 井 寿 紀 2002/04/16
ICANN曰く、"I
CANNOT!"
ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)とは、インターネットで使われるIPアドレス、ドメイン名等についての全世界の総元締めで、各国のIPアドレスやドメイン名の管理団体はその配下にある。この団体は、米国政府からIPアドレスやドメイン名の管理の移管を受ける団体として、1998年に設立された。
このICANNには、本誌No.151) に記したように、いろいろ問題があった。
まずこの団体は、機能的には国際機関であるにもかかわらず、米国のカリフォルニア州法にもとづく民間の団体である。そして、この団体の権限は米国商務省から与えられたもので、商務省がICANNへの移管がうまくいかないと判断したときは、いつでもその権限を取り戻せる契約になっていた。
そしてこの団体の母体は、米国を中心として、ボランティアが手弁当で集まって始めた草の根的な活動だった。従って、当初は、全世界のインターネットをしっかりと管理するしかけになっているとはとても言えないものだった。
このICANNはその後どうなっただろうか?
1998年11月に商務省とICANNが結んだ契約では、2000年9月までに移管が完了し、契約は終了することになっていた。しかし、当初の計画通りには行かず、その後1年間の期間延長が2度に渡って行われ、現在は今年の9月に契約が終了することになっている。残業務も少なくなったようなので、当初計画した移管作業は遅かれ早かれ終わるだろう。しかし、当初の予定のように、商務省が完全に手を引くことになるかどうかは疑問である。
というのは、最近ふたつの問題が発生したからだ。
そのひとつは、2000年に選挙で理事(Board Director)を5名増員したところ、Karl Auerbachという現在のICANNに批判的な意見の持ち主が北米代表として当選し、同氏は最近、情報開示を不当に拒まれたとICANNをカリフォルニア上級裁判所に訴えた。国際機関であるICANNが米国のカリフォルニア州の裁判所で裁かれることになる可能性がある、というのが私の危惧のひとつだったが、今回それが現実の問題になってしまった。
もうひとつの問題は、より重大で深刻である。この2月に、ICANNの理事長(President)でありCEOであるStuart Lynn氏が現在のICANNの組織を抜本的に改革する必要があると突然言い出したのである。現状では、 "I CANNOT!" だと。
同氏は言う。2) (以下「 」内は筆者による同氏の主張の抜粋)
「ICANNはまだ完全な組織と言えず、全世界のIPアドレスやドメイン名の管理の全責任を負えるものになってない。また問題を手際よく、速やかに処理する能力を持ってない。ICANNは手続きが煩雑すぎ、また予算と人員が足りない。
現在のICANNは、その創設者が描いたようなドメイン名とIPアドレスのサービス提供機関にはなってない。そして、より重要なことは、時間が経過しても、当初の期待や希望を実現できるという確信がいっこうに高まらないことである。
ICANNは現在岐路にさしかかっている。米国政府からICANNへの機能の移管は頓挫した。ICANNの機構的な弱さのため、これ以上の進展は望めない。端的に言って、現在のコースをたどって行っても与えられた使命を果たせない。機構の改革が必須である。」
ではどうしたらいいのか? Stuart Lynn氏は言う。
「当初考えられた、純粋に民間の、コンセンサスをベースにした団体は実際的ではない。しかし、インターネットのように変化の激しい世界で、伝統的な政府のやり方がよくないことも確かだ。従って、民間が主体になり、政府の積極的な支援と参画を得て、官民協力して対応することが必須である。」
そして、15人の理事のうちの5人は世界各地域からの政府の代表にする、等の具体的な提案をしている。
本提案は、政府の介入を嫌い、ボランティアによる草の根運動で現在のインターネットを育ててきた人達からは猛反発を食らうだろう。だが現状に問題があることも確かだ。
インターネットのIPアドレスやドメイン名は、電話で言えば電話番号に当たる。従って、ICANNは電話会社のような仕事もしているわけだ。実務を自分自身で行っているか、外部の機関に委託しているかは問題ではない。そのため、例えばISOのような標準を決めるだけの機関とか、WTOのような各国間の調整をするだけの機関とはまったく違う。
従って、ICANNの理事(board)は、電話会社の取締役と同じように、ひとつの目標の実現に向かって努力する、組織運営のプロでなければならない。
そして、ICANNは、前述したように、機能的にはれっきとした国際機関なので、米国政府から権限を委譲された、米国の法律にもとづく民間団体であるのはおかしい。これから本格的に組織化される南米やアフリカの国々の扱いとか、イラクや北朝鮮のような問題国家やテロ組織の扱い等も含めて、世界経済の共通基盤の維持運営ができるものでなければならない。
従って、各国政府の直接、間接の関与と支援が今後不可欠になるだろう。
いずれにしても、ICANNの機構改革は避けて通れない。そしてICANNに、 "I CANNOT!" でなく、 "I CAN!" と言ってもらわないと、インターネットの将来はない。
1)
Tosky’s MONEY No.15(2000/05/14)
「日本のインターネットは米国に追いつくか?」
URL :
http://www.toskyworld.com/money/money15.htm
2) President’s Report : ICANN - The Case for Reform
URL : http://www.icann.org/general/lynn-reform-proposal-24feb02.htm
Copyright (C) 2002, Toshinori Sakai, All rights reserved (1)