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No.205 酒 井 寿 紀 2002/03/30
PDAもWintelに?
現在、パソコンの世界ではMicrosoft社のWindowsとIntel社のマイクロプロセッサの組み合わせが事実上の標準になっている。いわゆるWintelの世界である。では、これから本格的に普及が始まろうとしているPDA(Personal Digital Assistant)の世界はどうなるだろうか?
従来PDAの世界ではPalm ComputingのPalm OSを使ったものが一番多かった。同社のPDAの他、Handspring、IBM、ソニー等がこのOSを使ってきた。
一方、Hewlett-Packard、Compaq、カシオ等はMicrosoftのWindows CEをベースにしたPocket PCを使っていて、昨年来、東芝、NEC、日立がこの陣営に加わった。
また日本で最も早くPDAに参入したシャープのZaurusは独自のOSを使ってきた。
これらは今後どうなって行くのだろうか?
PDAは、パソコンと違い、趣味や遊びのためでなく、仕事のために使う人が圧倒的に多いはずだ。そのため、オフィスで使っているパソコンとのデータの受け渡しのしやすさ、操作方法の統一性が非常に重要になる。現在オフィスで使われているワープロや表計算のソフトはMicrosoftのWordやExcelが圧倒的に多いので、PDAはこれらのソフトとの親和性のよさが決め手になるだろう。もちろん、PDAでパソコンと同じことができる必要はなく、PDAではワープロや表計算ソフトの基本機能だけ使えればいい。
MicrosoftのPocket PCはパソコンのWordやExcelと親和性の高いPocket WordやPocket Excelを用意しているので、この点非常に有利である。
また、PDAにとって重要なアプリケーションであるPIM(Personal Information Management)やブラウザやメール処理ソフトについてもパソコンと親和性が高いものが望まれる。そして、スケジュール管理やアドレス帳は相互に容易に同期化が図れること、つまり最新データをコピーできることが重要である。
この点からもWindows系のOSは有利である。しかし、市場の覇者になるためにはこの他にもいくつかの条件がある。
そのひとつは、パソコンの場合と同様に、アプリケーション・パケージの品揃えの豊富さである。品揃えを豊富にするためには、パソコンと同じようにアプリケーション・プログラムのインターフェイスを公開し、他社が自由にアプリケーション・ソフトを提供できるようになる必要がある。例えば、PIMやブラウザやメール処理ソフトには、いろいろ特徴のあるものが考えられるので、これらをすべてOSにくくりつけて、1社ですべて独占しようとしてもうまく行かないだろう。
もうひとつの条件は、PDAで見やすいウェブサイトが数多く揃うことである。PDAはウェブサイト閲覧の重要な道具のひとつになるが、現在のパソコン用のウェブのページは大きすぎてPDAでは見にくいため、今後PDAを主対象にしたサイトがどんどん作られるだろう。それが、例えばPalmの160x160ドットの画面を主対象にしたものになるか、Pocket PCの縦320x横240ドットの画面を主対象にしたものになるかが問題である。
さらにもうひとつの条件は携帯電話の機能を兼ね備えていることだろう。ポケットにPDAと携帯電話と両方入れて持ち歩くのは不便だし、両者の機能はオーバーラップするものが多いので、PDAを持ち歩けば携帯電話は要らないことが望ましい。
これらの問題があるので、まだどのPDAが事実上の標準になるかは分からない。しかし、現在のところPocket PCが一番いい位置づけにいるのは確かだ。もしこれが事実上の標準になるとCPUはIntelのStrongARMになる。またもやWintelである。
現在Pocket PC系のPDAの泣き所は使用時間が12時間程度と短いことである。単にPDAとして使うときは、一日中電源を入れっぱなしにして使うことはないので、これでも一応実用に耐えるだろうが、携帯電話兼用で電源を入れっぱなしにすると、これではいかにも短すぎる。しかし、半導体の技術が進歩すれば、いずれこの問題は解決するだろう。
どれが勝ち残るかは別にして、PDAの世界でも現在のパソコンと同じように、事実上の標準が決まっていくだろう。シェア競争に勝ったところが圧倒的に有利になるのはパソコンと同じだからだ。
OSとかCPUのLSIとか、キーになる製品の供給元が1社に絞られるのは、競争原理が働かなくなるという意味では好ましくない。しかし、仕様が統一されることにより、量産効果で価格が安くなり、技術的にも安定し、アプリケーション・ソフトや周辺機器の選択肢も広がるので、ユーザーにとってメリットも大きい。
そして、事実上の標準が決まれば、現在のパソコンと同じように、PDAのメーカー間の差はほとんどなくなり、台湾や中国の製品が市場を支配するようになるだろう。
では、PDAはパソコンと同じような巨大な市場を創出するだろうか?
たしかにビジネスマンは、従来手帳を背広のポケットに入れていたのと同じように、今後はPDAをポケットに入れて持ち歩くようになるだろう。しかし、ビジネスマンが全員PDAを持つようになったとしても、たかだか一人1台である。一方パソコンは、自宅のほか、いくつかの職場を兼務していれば、その職場ごとに1台持ち、さらに出張用にノート型のパソコンを持つようになるため、一人で3〜4台使うのは当たり前になるだろう。
そしてパソコンは、PDAを使わない主婦や子供も一人1台は使うようになる。
従って、PDAが普及しても、その生産台数はパソコンには到底かなわない。しかもPDAの価格はパソコンより安いので、市場の売り上げ規模としてはパソコンより1桁以上小さいものにしかならないだろう。PDAが普及すると言っても、この点は頭に入れておく必要がある。
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