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title.gif (1997 バイト)

No.203                            酒 井 寿 紀                      2002/02/12


モバイル時代が来るが…

 

今年は街中での無線LANによるインターネット接続が日本でもいよいよ始まりそうだ。

アメリカでは1996年に設立されたMobileStarがサービスを提供しており、2月10日現在、全米の687個所で使えるようになったという。例えば、スターバックスのコーヒー店、空港のアメリカン航空のラウンジ、いくつかのホテル等で使えるようになっている。

日本でも、モバイル・インターネット・サービス(MIS)が三軒茶屋等で実験システムを運行中であり、またNTTコミュニケーションズもモスバーガーやミニストップと組んで実験中で、これらのシステムは近々本格稼動に入ると言われている。

これらの場所に、802.11bという規格の無線LANのカードをつけたノートパソコンやPDAを持ち込めば、インターネットに接続してメールの送受信やウェブサイトの閲覧ができる。これらの場所はホットスポットと呼ばれている。

現在、世界中のホテル等で、ノートパソコンを電話回線につないで、インターネットに接続してメールの処理等ができる。私も、アメリカの他、インドネシアやブルネイでもこれを利用したことがある。こういうことが、無線LANを使うと、電話回線につないだり、モデムの設定をしたりしなくても簡単にでき、しかも電話回線よりはるかに高速なのである。

また今年は各社のPDAの新製品が揃い、PDAの本格的な普及が始まろうとしている。そしてこれはインターネットのモバイル端末でもある。

こうして、本格的なモバイル時代を迎えつつあるが、現在のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)のサービスや企業のイントラネットはモバイルでの使用を充分考慮してないため、いろいろ問題がある。おもな問題を取り上げてみよう。

先ず、自分がいつも使っているメールサーバーに、インターネットを介してアクセスでき、世界中どこからでもメールの処理ができることが必要である。これは何も無線LANに限った話ではなく、ローミングサービスで電話回線を使ってメールを処理する時も同じである。現在はインターネットを介してメールサーバーにアクセスするのを禁じているISPもあるようだが、今後モバイルでのメールの処理が普通になるとこれは困る。

また、出張先で会社宛のメールを処理したり、社内のウェブを閲覧したりできるよう、企業のイントラネットにインターネット経由で入ることができ、社内のメールサーバーにもアクセスできるようになっている必要がある。現在、特別に設けられたアクセスポイントに電話でつながないとイントラネットに入れない企業があるようだが、これでは今後世界中に設けられるモバイル用の高速なインターネットのアクセスポイントが使えないので効率が悪い。セキュリティーの問題は他の方法で解決すべきである。

こうして、私用のアドレス宛のメール、関係している企業や団体のアドレス宛のメール等、複数のメールアドレスを使い分けるようになると、最近のメール処理ソフトがサポートしだした、複数のメールサーバーに順次アクセスしてメールを処理し、メールアドレス毎に送受信したメールを整理しておく機能が必須になる。

携帯電話のメールアドレスに届いたメールは、インターネットに接続されたパソコン等から処理できず、逆に、インターネット上のメールサーバーのメールを携帯電話で処理することができないのも困る。自分宛のメールを処理するのに、必要に応じて、デスクトップ・パソコン、ノートパソコン、PDA、携帯電話等を使い分けられるようにするべきである。携帯電話にもインターネットの標準のメール処理機能(POP機能)を持たせるべきだ。

このようにしてモバイル接続が一般化すると、現在一般に同じISPが行っている「インターネットの接続業」と「(メールサーバー、ウェブサーバー等の)サーバーの提供業」は分かれる必要がある。ホットスポットやローミングサービスの事業者は、このうちの「インターネットの接続業」になる。携帯電話の事業者にも、携帯電話専用のメールやウェブから切り離した、「インターネットの接続業」だけのサービスの提供が要求される。

何故分かれる必要があるかというと、モバイル接続の選択肢が増えるため、ユーザーの要求に応じられなくなるからである。例えば、市街地では高速の無線LANを使い、それがないホテル等では電話回線を使い、山や海では携帯電話を使うというように、必要に応じた使い分けが要求される。携帯電話の回線を使う時は、携帯電話だけでも使え、携帯電話回線用のアダプタ・カードをつけたPDAやノートパソコンでも使える必要がある。

この分離は、モバイルの世界だけでなく、ADSLやCATVを使った固定的なインターネット接続にも要求される。現在は分離してない事業者が多いため、高速で安い、新しいインターネット接続に切り替えようとすると、サーバーまで切り替えないといけないケースが多く不便である。「インターネットの接続業」と「サーバーの提供業」は、個々のユーザーのニーズによってそれぞれ独立にベストの業者を選択できるようにするべきだ。

こうして両事業が分かれると、サーバーの提供を伴わない、インターネットの接続だけのサービスの課金が要求される。それには、使用頻度に応じて、「定額制」と「従量制」が要求されるだろう。いずれの場合も、契約を一つ結べば1都市内とか1か国内とか全世界のすべての業者のアクセスポイントが使えることが望ましい。

そしてもう一つの大きい問題は無線LANのセキュリティーである。現在の標準規格である802.11bだけでは不充分なため、ホットスポット業者によっては独自のセキュリティー強化策を売り物にしようとしているところがあるようだ。しかし、こういうことをすると、同じノートパソコンやPDAでどこでもインターネットに接続できる、というわけにいかなくなってしまう。従ってセキュリティーの標準規格を早く決める必要がある。

モバイル環境でのインターネットの利用は最近始まったばかりなので、現状はまだ問題が多い。モバイルの発展のためにはこれらの問題を早急に解決する必要がある。そして、問題が多いということはビジネスチャンスが多いということでもある。


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