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No.201                            酒 井 寿 紀                      2002/01/14


消費税はどうなる?

 

現在の日本経済の大問題のひとつは増え続ける国債の残高である。2002年度末には国と地方をあわせた長期債務残高が693兆円になるという。これはGDPの140%に当たる。

1月18日にまとめる予定の政府の経済財政諮問会議の中期財政経済展望で、2010年代初頭にプライマリーバランスの黒字化を図ることになったという。1) 気の長い話だが、これだって実現できるかどうか分らない。

そして、たとえプライマリーバランスがゼロになっても、累積債務の増加は止まらない。

プライマリーバランスの赤字額とは、歳入不足を国債発行で補う分から、歳出中の国債費を引いたものなので、2001年度当初予算では、国債発行額28兆円から、国債費17兆円を引いた11兆円である。しかし、国債費は利払い費と償還費とからなり、17兆円のうち10兆円は利払い費なので、たとえプライマリーバランスの赤字がなくなっても累積債務は増え続ける。利子を払うために借金をしていたら、借金が増え続けるのは当たり前だ。

累積債務の増加を防止するためには、国債発行額から、国債の償還費だけ引いた金額がゼロにならないといけない。2001年度予算では、国債発行額28兆円から償還費7兆円を引いた21兆円である。これがゼロになってはじめて累積債務の増加が止まるのだ。

GDPの名目増加率が国債の利子率以上なら、プライマリーバランスがゼロになれば、累積債務の対GDP比は増えない。そういう意味ではプライマリーバランスにも意味がないわけではない。しかし、GDPの名目増加率は1991年以来ずっと利子率を下回っていて2)、今後も当分逆転は難しいだろう。従って、2010年代にプライマリーバランスの黒字化がたとえ実現したとしても、累積債務の対GDP比はその後も増え続けることになるだろう。

従って、現在のようなやり方だと、累積債務の解消には相当な時間が必要になる。

今迄のところ、この湯水のような国債の発行はそれほど日本経済に実害を及ぼしてないようだ。しかし今後もそれが続くだろうか?

現在、外国人が日本の国債を保有している割合は6%に過ぎない。この割合は、米国では35%、ドイツでは31%である。3) これは日本の国債が、国際的に見た時、いかに金融商品としての魅力に乏しいかを示すものではなかろうか?

そして、日本の国債の34%は日本の金融機関が保有している。3) 日本の銀行は金の使い道に困って、国際的には魅力のない日本の国債を大量に買い込んでいるのだ。 しかし今後、海外の銀行も含めて資金の運用の競争が厳しくなれば、こういう安易な運用は許されなくなるだろう。

そして、日本の国債の最大の保有者は政府と日銀である。両者で全体の55%を保有している。そのうちの23%は郵便貯金を原資とするものだという。3) 現在郵便貯金の民営化が議論されているが、民営化されれば、資金の運用効率の競争にさらされ、国債の保有率は下がるだろう。国民の資金の運用効率を上げるためにも郵便貯金の民営化は望ましい。

こうして、民営化された郵便貯金も含め、日本の金融機関による国債の引受けが減れば、政府は国債をさばくために、国債の利率を上げ、保有者の多角化を図って流動性を高め、金融商品としての競争力を向上させる必要に迫られるだろう。

そうなれば、外国人保有者の比率が上がるだろう。日本の国債はほとんど日本人が保有しているので、どんなに国債の発行高が増えても、日本人の間で一時的に資産の所有者が移るだけだからたいした問題ではない、という意見があるが、今後外国人保有者の率が上がれば、こういう意見は通用しなくなる。

従って、これ以上の国債残高の増加は極力押さえなければならない。

それには、歳出を押さえるか、歳入の増加を図るかしかない。

今後の高齢化で、年金の国家負担が増え続けるので、行政機構の簡素化等ではとうてい財政赤字を解消するだけの歳出抑制は無理だ。従って、歳入の増加を図るしかない。

80年代末のバブルのピーク時でも税収は60兆円だったので、今後の低成長を考えると、景気回復による税収の自然増だけでは財政赤字の解消は無理だ。そうすると、残る手は増税しかない。

日本の租税負担と社会保障負担の合計の国民所得に対する比率は37%で、フランスの65%、ドイツの56%、イギリスの49%等にくらべはるかに低い。その大きい原因は、消費税がフランスの19.6%、ドイツの16%、イギリスの17.5%等にくらべてはるかに低いためである。4)

仮に日本の消費税を現在の5%から15%に上げれば、その税収は10兆円から30兆円に増え、累積債務のこれ以上の増大はほぼ押さえることができる。

下手に口にすると政治生命に関わるので、現在は黙っているが、内心その必要性を感じている政治家も多いだろう。

橋本元首相は消費税を3%から5%に上げ、その結果不況を招いたと散々たたかれ、本人も昨年の総裁選の時は反省の意を示した。しかしこの税率アップがなかったら、財政赤字はもっとひどくなっていたのだ。そしてその後の不況の根本原因はこの税率アップとは思えない。政治的な演技としての意味は別にして、何も謝ることはなかったように思う。

高福祉国家を望むなら、少なくとも15%程度の消費税に耐える経済力が必要だということである。

 

1) 日本経済新聞 1月12日朝刊

2) 「財政の現状と今後のあり方」 財務省 ( http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htm )

3) 白川方明 「日本の国際市場改革」 日本銀行 ( http://www.boj.or.jp/ronbun/kwp00j06.htm )

4) 「TAXひとくちメモ……税金の国際比較」 財務省 ( http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/memo.htm )


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