home > Tosky's MONEY >

title.gif (1997 バイト)

No.121                            酒 井 寿 紀                      2001/12/09


日本政府がマイクロソフトを支援!?

 

最近は日本の政府もインターネットを使っていろいろな情報を公開するようになった。各種統計データや審議会の資料をウェブで簡単に見ることができ、大変便利だ。

しかし、日本の政府の公開方法には若干問題がある。マイクロソフト社の有料ソフトであるEXCELを使わないと見ることができない統計データが多いのだ。

例えば、経済産業省の「鉱工業出荷内訳表」、「鉱工業総供給表」、「全産業供給指数」等は97年版のEXCELファイルで提供されている。

総務省統計局統計センターが提供している、「消費者物価指数」の詳細データ、「労働力調査」、「家計調査」等もEXCELファイルである。

また日銀のデータも、「資金循環勘定」、「短観調査全容」等、EXCELで提供されているものが多い。

では、例えばアメリカはどうだろうか? もちろん全部調べたわけではないが、連邦政府の国務省、商務省、財務省、労働省やFRBが公開しているデータの大部分はPDF (Portable Document Format)ファイルである。FRB等のサイトで、一部テキストデータで提供しているケースはあるが、EXCELファイルは見たことがない。

 

EXCELで提供すると何故問題なのだろうか?

PDFもAdobe社という一民間企業が作ったファイル形式だが、PDFファイルを閲覧するソフトはAdobe社のサイトから無料で入手できる。一方、EXCELファイルの場合はマイクロソフト社のEXCELを購入しないと閲覧できない。日本政府の公開資料を見ようと思ったら金を出してマイクロソフトの製品を買わざるを得ないのだ。

さらに、上記の経済産業省のデータのように97年版のEXCELファイルで提供されると、私のようにまだ95年版を使っている人は見ることができない。日常の業務にはまだ95年版で充分なので、今でも95年版を使っている人がかなりいると思うが、この人達はサービスの対象外なのだ。

マイクロソフトは何とかしてユーザーに新バージョンを買わそうと手をつくしている。そして、97年版以降のEXCELで普通に作ったファイルは95年版以前のEXCELでは読めないようになっている。

マイクロソフトの阿多社長は言っている、「ユーザー企業が定期的にバージョンアップしてくれなければ、当社のビジネスは成り立たない。…新版が出たら2回に1度の頻度でバージョンアップしていただきたいと考えている」 (「日経コンピュータ」 2000年9月11日号)

社長が声を大にして頼んでも、バージョンアップしてくれるユーザーが少ないのが現実なのだ。こういう状況の下で、政府が公開する情報が新バージョンでしか読めないということは、マイクロソフトにとって実に有り難い話なのである。

もうひとつの問題は、もともとEXCELのファイル形式は、不特定多数の人に情報を配布するために作られたものではないことである。そのため、パソコンの環境が異なると、細かいところで情報が正確に伝わらないことがある。ひとつのパソコンで1ページの情報が、他のパソコンでは2ページや4ページになってしまうことは、日常よく経験することである。

それに引き換えPDFは、・/FONT>Portable Document Format狽ニいう名前が示すように、もともと情報を伝えるために作られたファイル形式なので、こういう問題は起きない。

 

では、どうするべきなのだろうか?

確かにEXCELファイルでデータを公開してくれれば、EXCELを持っている人は自由に加工して使えるので便利だ。現在多くの個人や企業がEXCELを使っているので、多くの人に便宜を供与することができる。

しかし、だからと言って、特定の民間企業の有料ソフトを買わないと政府の公開情報を見られないというのはやはりおかしい。基本的には、PDF、HTML(HyperText Markup Language : ウェブのページの記述言語)、テキストデータ等、汎用性があり、無料のソフトで閲覧できるファイル形式で提供するべきである。たとえEXCELファイルで提供するにしても、これらの汎用性のあるファイル形式で提供した上で、さらにEXCELでも提供するようにするべきだ。

そして、EXCELで提供する際は、当分の間、95年版以前のEXCELでも閲覧できるようにするべきである。97年版以降のEXCELでファイルを作った時も、ファイルを格納する時にファイル形式を指定すればそれは可能である。

いずれにしても、政府は情報の提供方法にもっと神経を使うべきだ。そしてある程度原則を決めておくべきだ。

現状はHTML、テキストデータ、各種バージョンのEXCELファイル等が入り乱れている。経済産業省の一部のデータのように、EXCELだけでは気が引けたのか、同じデータをLotus 1-2-3 (ロータス社の表計算ソフト)でも提供しているものまであり、まさに無原則、不統一である。

悪いのはマイクロソフトではない。マイクロソフトが政府にEXCELを使ってくれと頼んだわけではないだろうし、ユーザーにバージョンアップを推奨するのや、バージョンアップ時にある程度互換性を犠牲にするのはどのソフトウェアハウスもやっていることである。

問題なのは日本の政府である。インターネット後進国と言われないためにも早急に改善してもらいたいものである。


Copyright (C) 2001, Toshinori Sakai, All rights reserved