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No.120                            酒 井 寿 紀                      2001/10/29


デフレはおさまるか?(2)

インフレ要因の検証

 

前号では現在のデフレをもたらしている要因について見た。本号では現在の潜在的なインフレ要因の状況を見てみよう。

 

先ず第1に為替レートが円安になる可能性がある。

貿易収支の黒字額は、98年度が14.1兆円、99年度が12.1兆円、2000年度が9.6兆円と、ここのところ毎年減り続け、2001年度の上半期は3.3兆円になってしまった。1) このペースで減り続ければ2〜3年後には日本は貿易赤字国になってしまう。

2001年度の上半期の貿易収支は前年同期の5.8兆円より2.5兆円悪化した。これを国別に見ると、一番影響が大きいのは台湾の4,430億円である。1) しかし、これはIT不況による一時的な輸出の減少のせいが大きいようで、いずれ回復するだろう。

次に影響が大きいのは中国の3,110億円である。これは輸入の増加のためで、商品としては衣類と音響映像機器の増加が最も寄与している。1) これらの輸入の増加は構造的なもので、ここ当分は続くだろう。

これらの状況から見て、現在のペースのまま貿易赤字国になってしまうことはないようだ。しかし、貿易収支が悪化の方向に進むことは間違いないと思われる。そして、それは円安の圧力をかけるだろう。しかし円安は、日本の輸出競争力の強化、輸出市場としての日本の購買力の縮小になるので、行き過ぎた円安に対しては海外から相当な反発があると思われる。

従って、円安によるインフレの圧力は強まるが、それは限定的なものになるだろう。

もうひとつのインフレ要因に、財政赤字がある。

普通なら、毎年50兆円しか収入のない政府が30兆円の借金を続ければ、世の中に金が出回りすぎて、とんでもないインフレを招いているだろう。それがそうならないのは、日本の経済が根本的におかしくなっているからだ。

国債の消化能力にも限度があるから、財政赤字からの脱却は急務である。しかし最近の実態から見て、現在666兆円になってしまった国と地方の累積債務がすぐインフレにつながることはないだろう。

また別のインフレ要因に、現在の超低金利政策がある。

日銀は、公定歩合やオーバーナイトのコールレートを限界まで下げてもまだ足りず、日銀当座預金残高を増やすという形で、さらに市場に資金を供給し続けている。

現在は国債の買い入れが中心だが、民間企業の社債等やCPもどんどん買い入れて、金融のさらなる量的緩和を図るべきだと言っている人もいる。また、インフレの目標値を定めて、金融政策によって何がなんでもその目標まで持ってゆくべきだという、いわゆるインフレ・ターゲティングの採用を主張している人もいる。

しかし、もう金融政策も限界のようだ。ガンやウィルスを体内に抱えて死にかけている病人の前に、いくらおいしい料理を並べても食べないのは当たり前だ。手術でガンを除去したり、抗生物質でウィルスを退治して、病人の食欲を回復させる方が先だ。

現在の超低金利政策もすぐインフレにつながることはないだろう。

 

実際にインフレになるかデフレになるかは、上に記したようなインフレ要因の強さと前号に記したようなデフレ要因の強さの力関係で決まる。インフレ要因を火とすれば、デフレ要因は水である。火の方が強ければ大火事になり、水の方が強ければ水浸しになる。

現状はどうか? 現在のデフレ要因は、日本の高度成長時代に蓄積された歪み、海外各国との間の歪みに根ざすため、根が深く、かなり長期間に渡って力を持続しそうだ。汲めども汲めども涸れない泉の水のようなものだ。

一方デフレ対策の、現在の財政政策や金融政策は、何とか火をつけようと必死になってマッチを擦っているようなものだ。マッチを擦る度に少しくすぶるだけで、圧倒的に強い水の力にとても太刀打ちできない。小渕内閣の景気対策のように、無理矢理火勢を煽ろうとしても、長続きはしないで元に戻ってしまう。

当分水勢の方が優勢のようだ。しばらくの間はデフレ基調が続くだろう。

 

では、どうすればいいのだろうか?

自然の理に逆らって無理をしてもだめだ。デフレ環境を受け入れ、その中で最善をつくすしかない。

アメリかでは1927年から33年の7年間に消費者物価指数が27%も下がってしまった。これに比べれば、今の日本のデフレ等たいしたものではない。

そして、現在のデフレは需給関係の悪化だけから生じたものではないので、いい面もある。デフレ要因を逆手にとって、海外の安い材料、人件費等を積極的に活用するべきだ。

「災いを転じて福となす」知恵を出した企業が今後の競争に勝つことができる。デフレを活かしてコストダウンを図る企業が増えれば、価格低減により、一時的にはさらにデフレを招くだろう。しかし、こうして各企業が収益を改善していけば、景気は回復し、最終的にはデフレもおさまるだろう。いや、それしか現在のデフレから脱出する方法はないだろう。

高度成長時代のインフレ・マインドから早く脱却し、デフレ環境に早く順応する必要がある。

 

1) 財務省「貿易統計 平成13年上半期分(速報)」


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