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title.gif (1997 バイト)

No.119                            酒 井 寿 紀                      2001/10/29


デフレはおさまるか?(1)

デフレ要因の検証

1999年の消費者物価指数は前年より0.3%下がり、2000年にはさらに0.7%下がった。2年連続して下がったのは戦後初めてで、今年に入っても前年比で下がり続けている。物価の下落はそのうちおさまるのだろうか?

デフレ下では構造改革が進まないので、思い切った金融の量的緩和でデフレスパイラルを断ち切るべきだという意見も多い。しかし、これ以上の量的緩和がはたして現在のデフレの抑制に効くのだろうか?

現在のデフレをもたらしている要因とその今後の見通しについて見てみよう。

 

先ず、低価格品の輸入による値下がりがある。人件費の安い国からの製品の輸入が近年どんどん増えている。「被服及び履物」の輸入浸透度(国内総供給に対する輸入の割合)は1997年には約38%だったが2000年の第2四半期には約57%になった。また、VTRやカラーテレビ等の電気製品を含む「教養・娯楽用耐久消費財」の輸入浸透度は同じ期間に約14%から約20%に上昇した。1)

中国等の製品の品質が最近非常に高くなったので、これらの製品の輸入浸透度はまだまだ上がるだろう。そして現在輸入浸透度が低い乗用車やパソコン等、高度な技術を要する製品についても今後輸入品の割合が増えていくだろう。

また、工業製品だけでなく、食料品についても輸入品による値下げの圧力が強い。日本の農家の保護のため、セーフガードを発動して、ネギや生シイタケに高関税をかけようとしている。しかしこういう対策は一時凌ぎで長くは続かないだろう。

最近の中国の人件費の上昇はめざましい。1993年から1999年の6年間に約2.5倍になっている。2) しかしまだ日本に比べればはるかに安いので、中国等からの輸入品の増加は今後も日本の物価を押し下げるだろう。

また、海外で作られたものを輸入するだけでなく、安い人件費を求めて生産拠点を海外に移す企業が多い。ユニクロの製品が安いのは中国で生産しているからだ。

製造業の海外生産比率(現地法人売上高/国内法人売上高)は1985年には3.0%だったが、99年には12.9%になった。3) 現在アジアでの海外生産比率が高いのは「電気機械」と「繊維」だが、今後中国での自動車の生産等が増えると思うので、海外生産比率はまだ増えるだろう。

そして、海外で安い労働力を使うだけでなく、国内の外国人労働者がどんどん増えている。私が昼食を食べている数軒の食堂の従業員は大半が中国人だ。

外国人労働者数は1993年には9万6千人だったが、2000年には20万7千人に増えた。そしてこれは50人未満の事業所については一部しか調査してなく、不法滞在者も含めると98年に既に67万人と推定されるという。4) 外国人労働者の増加は内外賃金格差が縮まるまでまだ続くだろう。そしてそれは今後も物価を押し下げるだろう。

外国人労働者は、直接企業の人件費の縮減に寄与しているだけではなく、間接的に日本人の賃金を低く押え込んでいる。外国人労働者と労働市場で競合することになり、日本人の労働者は失業か低賃金かの選択を迫られている。外国人と同じ仕事をしているのに外国人より多い賃金をもらうのはおかしいと思うようになるだろう。

また、外国人労働者の賃金に触発されてか、企業は安い賃金で人を使う方法を必死に捜しているようだ。先日テレビで店長まですべてパートタイマーの100円ショップのチェーンを紹介していた。

そして、地価はまだ下がるだろうと本誌No.24「地価は再上昇するか?」に書いた。

小泉構造改革は土地の有効活用を謳っているが、土地の利用効率を上げるということは、実質的に供給を増やすことになるので、地価の値下がりにつながる。

現在東京では、こんなに需要があるのか心配になるぐらい、ビルの建設が盛んである。森トラストの森 章社長は、「(5月の連休明けから)ビルを借りる動きが止まってしまったのです。東京では、オフィスビルが大量供給される2003年に賃料クラッシュが起きるのでは、と危惧されていました。…(これは)さらに前倒しされるかもしれません」と言っている。5) 今後需給関係がゆるんでオフィスの賃料はさらに下がるだろう。

 

日本の物価は先進諸国に比べてまだ高い。200年11月の購買力平価のよる内外価格差比較では、東京はニューヨークの1.22倍、ロンドンの1.21倍、パリの1.60倍である。6) インターネット等によるボーダーレス化の時代なので価格差解消の圧力は今後も続くだろう。

以上記したように、現在のデフレをもたらしている要因はどれもまだしばらくは続きそうだ。

しかし、世の中にはデフレ要因と同時にインフレ要因も常に存在する。現在のインフレ要因にはどんなものがあるのだろうか? 次号で見てみよう。

 

1) 通商産業省「平成12年4-6月 鉱工業生産活動分析」

2) 厚生労働省「2000〜2001年 海外情勢報告」、「1997年 海外労働情勢」

3) 経済産業省「海外事業活動基本調査 第30回調査結果」

4) 厚生労働省「外国人雇用状況報告」

5) 「日経ビジネス」2001.10.22号

6) 内閣府 「生計費調査(2000年)による購買力平価及び内外価格差の概況」


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