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No.118                            酒 井 寿 紀                      2001/10/17


小泉構造改革で景気はよくなるか?

 

小泉首相は就任以来、「構造改革なくして景気回復なし」と言い続けてきた。そして9月21日には「改革工程表(案)」が発表され、改革の具体的内容と日程が明らかになった。しかし、この「構造改革」で景気は本当によくなるのだろうか?

 

不良債権問題は不良債務問題

現在の不況の最大の原因は銀行の不良債権問題だといわれる。確かに国の経済の根幹を支える銀行が不良債権のために軒並みに赤字決算になっては、日本株の評価は上がらないだろう。今回の「構造改革」でも、トップに不良債権問題を取り上げている。しかし、この問題が片付けばすべて解決するのだろうか?

銀行が不良債権を抱えているということは、企業が不良債務を抱えているということである。80年代のバブル経営のつけで過剰債務を抱えている企業が多い。さらに言えば、60年代以降の高度成長時代の借金経営が通用しなくなったのだ。現在は超低金利だからいいようなものの、まともな金利になったら持ちこたえられない企業が多いだろう。

この不良債務問題が解決しない限り、不良債権問題の根本的な解決はない。そしてこの問題の解決は企業の努力に待つしかない。

銀行にとっては、融資先の企業が破綻しない限り通常の債権である。しかし企業にとっては、破綻まで至らなくても、債務が多すぎるために収益が上がらなければ不良債務である。こういう企業が減らない限り景気はよくならない。従って、不良債権問題より不良債務問題の方がはるかに大きく、解決が難しい。

 

必要なのは民間企業の構造改革

景気がよくなるためには民間企業の収益が改善されなければならない。しかし、収益を圧迫しているのは過剰債務だけではない。債務上の問題がなくても、多くの企業が低収益にあえいでいる。

収益の改善のためには、収益力が低い事業から撤退し、他社より競争力が高い部門に経営資源を集中する必要がある。高度成長時代には、どんな分野にでもとにかく手を広げることが企業の発展に通じた。業界のトップクラスでなくてもほどほどの収益を上げることができた。しかしもうそういう「古きよき時代」は終わったのだ。これからの低成長時代には、他社の追随を許さないような特徴を持った事業しか生き残れない。みんながやるから俺もやってみよう、ということではとても食っていけない時代になったのだ。

そして、低成長時代に他社との競争に勝ち残るには、ITの活用等で他社より生産性を上げる必要がある。

こういう構造改革が必要なのは民間企業なのだ。政府にできるのは民間企業の構造改革を、規制緩和とか税制改革とかで側面から支援することだけである。今回の「構造改革」はこのことをもっと強調すべきだ。そうしないと、構造改革は政府がやってくれるので、政府に任せておけばそのうち景気はよくなるだろうと思われてしまう。

今回の「構造改革」と直接は関係ないが、現在の超低金利政策は、この民間企業の構造改革を遅らせる恐れがあるので注意が必要だ。通常の金利ではやっていけず、遅かれ早かれ市場から退場すべき企業が、いつまでも生き延びてしまうからである。

従って、民間企業の構造改革を促進し、不良債権問題に早く決着をつけるためには、できるだけ早く金利を正常な姿に近づけることが必要だ。デフレスパイラルに陥るのを避けるためにはさらなる金融緩和が必要だ、と言っている評論家や政治家が多いが、その弊害を軽んじるべきではない。

 

「構造改革」の構造改革が必要だ

駄洒落みたいな見出しで申し訳ないが、今回の「構造改革」は、それぞれの項目の目的や関連を明確にせずに、あまりにも多くの項目を並列に並べ上げ過ぎている。「不良債権処理」、「雇用対策、中小企業対策、セーフティーネット」、「IT」、「人材育成・教育」、「行政改革」、「税制改革」、「社会保障」等19項目を並列に扱っているのである。

全体としての目標と、それに対する各項目の位置づけをもっと明確にするべきである。

先ず第一に短期的な景気対策がある。これは上に記したようにあくまで民間企業が主役である。政府はそれを、「IT」の法整備とか、「税制改革」で側面から支援する立場であることを明確にするべきだ。そして、この民間企業の構造改革の結果として生じる、失業者と銀行の不良債権に対する対策として、「雇用対策」、「不良債権処理」がある。

次に、長期的な景気対策がある。「科学技術」の育成による新産業の創出がその中心だ。

そして、財政の健全化のための、「財政構造改革」等がある。これは経済を正常な姿に戻すために必要なものだが、これで景気が回復するわけではない。これは過去の景気対策の後始末である。

その他に今回の「構造改革」には、「循環型経済社会」、「社会保障」、「自立した国・地方関係の確立」等の項目があるが、これらが景気対策にどう関連するのか明確にするべきだ。

あまりにも多くの項目を並列に並べたため、本来の目的が何なのかが分かり難い。これからの遂行に当たって、焦点がぼけてしまわないように望みたい。

 

いずれにしても、もはや対症療法的な景気対策では問題が解決しないことは明らかである。そのため、構造改革が必須なのだが、その主役はあくまで民間企業なのである。

ということは、政府がいくら急いでも、改革には相当時間がかかるということでもある。


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