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No.115 酒 井 寿 紀 2001/06/23
今年の1〜3月期のYahoo!の売上は1億8022万ドルで、前年同期に比べ22%減少した。そして純利益は1149万ドルの赤字で、前年の6760万ドルから激減してしまった。対策として12%の人員削減等を計画している。
株価も、2000年の始めには237ドル(株式分割後の株価に換算)だったが、今年の4月3日には11ドル迄下がってしまった。
同社の2000年の売上11億ドルのうち、広告料収入が10億ドルで、全体の90%を占めている。米国のハイテク産業の不況でこの広告料収入が減少したのが、Yahoo!の収益が急速に悪化した原因と言われている。
Yahoo!は2000年のAnnual Reportで、「広告主が今後も広告を発注し続けてくれる保証はないし、競争によって広告料が下がらないという保証もない」と、インターネット広告業の将来を厳しく見て、ビジネスの多角化に力を入れている。
他のインターネット広告業者の業績も同じように厳しいようだ。インターネット広告はこれからどうなるのだろうか? 景気がよくなれば業績は回復するのだろうか?
現在のインターネット広告の主流はウェブのバナー広告である。これははたしてウェブという情報提供メディアの性格にあっているのだろうか?
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等は、情報提供者が、提供する情報の内容を一方的に決めて、視聴者や読者に押しつける。いわば「プッシュ型メディア」である。
「プッシュ型メディア」では、目や耳に入ってくる情報の中から必要なものを読み取ったり、聞き取ったりするので、その中に広告が混ざっていてもそれほど抵抗がない。テレビのコマーシャルがうるさいと思ったら、できるだけ見ないようにするか、その間にトイレに行けばいい。それでも、読者や視聴者は一応は全体を眺めてくれることが多いので、この種のメディアを使った広告は企業名や商品名の知名度を高めるのに有効である。
一方ウェブは、ある特定の目的を持って情報を捜すものである。いわば「プル型メディア」である。「プル型メディア」では、目的とする情報にできるだけ早くたどり着けることが重要である。それ以外の情報は少なければ少ないほど、目的とする情報を捜しやすいし、インターネットでページを取り込む時間も短い。
ウェブで情報を捜す人は、目的の情報以外の情報を見ることはほとんどない。画面の片隅にバナーがあれば、目に入り、多少記憶には残るかも知れないが、広告主が期待するように、わざわざ寄り道をしてバナーをクリックしてくれることは、あまり期待できない。ウェブを始めて使う人や、暇にまかせていろいろなページを渡り歩いている人は少しはクリックしてくれるかも知れないが、忙しい日常生活の中で、仕事や生活の道具として頻繁に使う人は、バナー広告等には見向きもしないだろう。原色のバナーがチャカチャカ踊っているのは、わずらわしくて反感を買うだけだ。
従ってバナー広告は、企業名や商品名の知名度向上や、広告主のサイトへ呼び込む手段として適さない。知名度向上には別のメディアを使うべきだ。
では、「プル型メディア」はどのように使うべきなのだろうか? 利用者が捜している情報を、速く、正確に伝えることが重要だ。余計な情報は少ないほどいい。実例を挙げよう。
あるヨーロッパの自動車会社のサイトの1ページ目は、車の写真が延々とスクロールして現れ、それが終わるまでは次に進むこともできなかった。こんなサイトは二度と再び訪れる気がしない。
これは極端にしても、アメリカの自動車会社のサイトも不必要に大きい写真が多い。先日ある車の外形寸法を知りたいと思ったが、諸元表迄たどり着く間に何ページも車の写真を見せつけられ、やっとたどり着いた諸元表には外形寸法は載ってなかった。
車の他にも、電気製品やカメラ等の情報を捜している人には、諸元表が一番重要だと思うのだが、諸元表迄たどり着くのに手間がかかり、その間、不必要に大きい写真や宣伝文句が延々と続くサイトが多い。
アメリカのおもな航空会社のサイトは、1ページ目で出発地と目的地、出発日時を指定すれば、フライト名を検索できるようになっている。これは一番多い利用目的を最優先しているのだ。それに比べると日本の航空会社のサイトの1ページ目は、見たくもない宣伝文句がぎっしり埋まっていてうんざりする。
ザルツブルクの音楽祭のサイトでは、日時、会場、曲目、演奏者、座席の配置と価格、予約状況等がすべて分かり、そこですぐ切符を買うことができた。これからは、どのコンサートホールもこうなって行くだろう。
イタリアの国鉄のサイトには、列車の発着時刻の他、等級、指定席の有無、食堂車の有無、自転車の持ち込み可否等も載っている。Thomas Cookの時刻表に載ってない列車も分かり、それを利用することができた。印刷物の時刻表はもう不要だ。
先日行ったサンフランシスコ近郊のレストランのサイトでは、メニューに、付け合わせ、味付け、価格まで全部書いてあり、価格付きのワイン・リスト、シェフの経歴まで載っていた。画面いっぱいに料理の写真を載せているサイトより、この方がよっぽど役に立つ。
先日、マイアミ空港でレンタカーを返す場所が分からず、さんざん苦労したが、あとでその会社のサイトを調べたら、各方面からの行き方の詳しい説明が掲載されていた。これもレンタカーの利用者には非常に貴重な情報だ。
今後は、「プル型メディア」の特徴を活かして、ウェブの利用者に適切に情報を提供し、自社の商品を選ばせる技術が重要になるだろう。上に記したように、この技術はまだまだ未熟で改善の余地が大きい。今後はバナー広告に金を使うよりも、自社サイトの充実に力を入れるようになるだろう。
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