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title.gif (1997 バイト)

No.114                            酒 井 寿 紀                      2001/05/07


ITビジネスの勝者と敗者(3)

アプリケーション・ソフト

 

本号では、アプリケーション・ソフトの世界での勝者と敗者の分かれ目を見てみよう。

 

表計算ソフト

パソコン用に最初に作られた表計算ソフトはダン・ブリックリンによるVisiCalcだった。これは1979年に売り出され、急激に売上を伸ばした。

しかしVisiCalcは1981年に現れたIBMのパソコンへの対応が遅れた。アプリケーション・ソフトは、常に今後主流となるプラットフォームを見抜いて、それを乗り継いで行く必要がある。

ダン・ブリックリンは、「もし今私が表計算ソフトを発明したら、もちろん特許を取るが、当時はソフトウェアの特許が認められる時代ではなかった」と言っている。もしソフトウェアの特許が当時から認められていたら、表計算ソフトの歴史は変わっていただろう。

マイクロソフトは表計算ソフトの重要性に目をつけ、1980年から開発を始め、1982年にMultiplanとして発表した。しかし強敵が現れた。

一時VisiCalcのプロダクト・マネージャをしていたミッチ・ケイパーが1982年にロータスを設立し、表計算ソフトLotus 1-2-3を発表した。Multiplanはこれに負けた。何故か?

Lotus 1-2-3はメモリー容量256KBの最新のIBMのパソコンに焦点を絞り、その性能をフルに活用した。その為、他の表計算ソフトより圧倒的に速かったという。

マイクロソフトは表計算ソフトを再開発した。1985年にマッキントッシュ用に発表されたExcelである。これはマッキントッシュのプルダウン・メニューやマウスの機能をフルに活用したもので、使い勝手がよく大成功を収めた。Excelは87年にやっとWindowsでも使えるようになった。

そして90年代に入ると、ExcelはLotus 1-2-3のシェアを奪ってしまった。それは、アプリケーション・ソフトとOSとの連携、また、表計算、ワープロ、プレゼンテーション等のアプリケーション・ソフト相互の連携の上で、同一メーカーの方が圧倒的に有利だからである。マイクロソフトは「総合メーカーの強み」をフルに発揮した

そしてLotus 1-2-3のシェアは大幅に減少し、ロータスは1995年にIBMに買収された。

 

ワープロ・ソフト

パソコン用の最初の本格的なワープロ・ソフトは、1978年にマイクロプロが出したWordStarである。この会社はセイマー・ルビンステインがワープロ・ソフトを事業化するために設立したものだった。WordStarは大成功を収め、80年代の始めにはワープロ・ソフトのシェアの50%を占めていたという。

しかし、84年にルビンステインが心臓発作で倒れてマイクロプロの経営者が変った。そしてWordStarは後から出てきたWordPerfectに押されて苦戦を強いられた。その上、Windowsへの対応が92年まで遅れて、せっかく築いたカスタマー・ベースを大幅に減らしてしまった。

その後94年に、コーレルが一時WordStarを販売していたが、96年にコーレルがWordPerfectを買収すると、これも終わり、結局WordStarはこの世から消え去った。

 

ここでもトップバッターはトップの座を守れなかった。

1982年にWordPerfectが設立され、同名のワープロ・ソフトを出した。このソフトは使い勝手のよさが評判で、80年代の後半に大幅にシェアを伸ばした。

しかし次第にワープロ・ソフト単独での商売は難しくなり、WordPerfectは94年にノヴェルに買収された。ところが、ノヴェルはネットワークの分野に集中することになり、96年にはWordPerfectをコーレルに売却してしまった。

マイクロソフトのWordは83年に発表されたが、90年代の始めまではWordPerfectの方がはるかに優勢だった。しかしその後、Windowsの下で、ワープロ・ソフト、表計算ソフト、プレゼンテーション・ソフト等を連携させて使う使い方が一般的になると、これらすべてをまとめて提供するところが圧倒的に有利になった。個々のソフトの優秀さだけではとても太刀打ちできなくなってしまった。ここでもものを言ったのは「総合メーカーの強み」だった。

消え去った製品を懐かしみ、マイクロソフトの製品に不満を抱きながらも、それを使っているのが現在の多くの人の実態だろう。

アプリケーションを連携させることにより、デスクワーク全体としての効率を上げるためには、「まとめて提供するところが勝つ」のはやむを得ない。しかし、その為に市場が独占状態になり、競争がなくなって進歩が止まるのは困る。今後はやはり独占禁止法による牽制が必要になるだろう。


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