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No.112 酒 井 寿 紀 2001/05/07
ITビジネスの勝者と敗者は何によって決まるのだろうか? これが分かれば投資先を選ぶのも苦労しない。歴史を振り返ってみよう。
メインフレーム
1951年に当時のレミントン・ランド(現在のユニシスの前身)が世界初の商用のコンピュータであるユニバックを世に出した。当時は、特に大型機では、レミントン・ランドが最も進んでおり、日本でも多くの電力会社や証券会社がユニバックを使っていた。
しかしその後、IBMがコンピュータに本格的に力を入れ始めると、トップの座はIBMに奪われてしまった。特に1964年の360シリーズの発表後はIBMが圧倒的な強さを発揮した。
技術の進歩が速い世界では、先行者は非常に有利なはずである。しかし先行者はトップの座を守りぬけなかった。後から走ってきたIBMにあっという間に追い抜かれてしまった。強大な資金力がある者が、市場の将来性を見抜き、資金力にものを言わせて先行者を追い抜いてしまうのがこの世界なのだ。
60年代には、コンピュータの世界は「白雪姫と7人の小人」と言われた。白雪姫がIBMで、7人の小人とは、バローズ、ユニバック(レミントン・ランドの後身、スペリー・ランドの製品名)、NCR、CDC、ハネウェル、GE、RCAの7社だった。
その後、1970年にGEがコンピュータから撤退し、71年にはRCAが撤退した。残った5社は、上記の順に、頭文字を取ってBUNCH(バンチ、英語で「束」の意)と呼ばれた。
しかし、束になってもIBMとの戦いは難しく、一社ずつ戦列から外れ、最後にはメインフレームの世界はIBM1社だけになってしまった。
コンピュータのように開発費が高い製品の商売では、シェアが高いメーカーがコスト競争上圧倒的に有利である。その上、シェアの高い製品にはソフトウェア・ハウスやシステム・ハウス等が群がってくるので、放っておいてもますます強くなる。
1位と2位以下の差がある程度以上開くと、強い者はますます強くなり、弱い者はますます弱くなるのがこの世界だ。そして最後に1社だけ残ることになる。
例えば、バローズは非常に先進的なアーキテクチャを採用していて、そのOSのMCPはその後も長期間に渡って使われた。しかし、一部の技術の優秀さは「数の論理」の前にはひとたまりもなかった。
パソコン
1970年代後半になると、ラジオ・シャック、アップル他、多くのメーカーがパソコンの商売を始めた。そして、それらに遅れて、1981年にIBMがこの市場に参入してきた。
IBMは短期間に開発するため、CPUはインテルから調達し、OSはマイクロソフトから調達した。その他、ディスク等も他社から買い、徹底した「他人の褌作戦」で市場参入を急いだ。
そして、他社を仲間に引きずり込んでビジネスを早く立ち上げるため、オプション・ボードのメーカーにバスの仕様を公開し、アプリケーション・ソフトのメーカーにアプリケーションのインターフェースを公開した。いわば「この指とまれ作戦」である。
これらの作戦と強力な販売力によって、IBMはあっという間に他社を市場から駆逐してしまった。パソコンの世界では、自分が技術を持っていないことは問題ではなく、いかに他人の褌をうまく使うかが問題だった。そしてここでも、メインフレームの世界と同様に、「数の論理」が勝敗の決め手だった。
しかし、IBMの「この指とまれ作戦」はうまく行き過ぎてしまった。1983年にはコンパックがIBMのパソコンの互換製品の出荷を始めた。そしてデル他がそれに続いた。
今やIBMのパソコンの仕様は世界の事実上の標準(デ・ファクト・スタンダード)になってしまった。そしてIBMのシェアは互換製品にどんどん食われていった。自分が産んだ子供が育ちすぎてしまい、もはや自分自身の手に負えなくなってしまったのだ。
IBMはその対策として、87年にPS/2というパソコンとOS/2というOSを発表し、IBM独自の別の世界を作ろうと試みた。これらは技術的には進んだ点を持っていたが、それにもかかわらずIBMの試みは成功しなかった。そしてIBMはこの試みを放棄した。
いったんデ・ファクト・スタンダードが成立してしまったら、部分的に進んだ技術でそれに対抗しようとしても太刀打ちできないのだ。
現在全世界のパソコンの90%以上がIBMの互換製品であるが、ガートナー・グループの統計によると、2000年に全世界で出荷されたパソコンについて、IBMのシェアは、コンパック、デル、ヒューレット・パッカードに次いで第4位で、わずかに6.8%にすぎない。
パソコンはもはや完全にコモディティーと化し、製品そのものではなく、デルの直販方式のような、販売方法の優劣等が勝敗の決め手になってしまった。
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