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title.gif (1997 バイト)

No.108                            酒 井 寿 紀                      2001/03/25


米国の株価は回復するか?

 

NASDAQの指数は3月21日にここ1年で最低の1,830迄下がった。昨年3月10日につけた今迄の最高値5,049から63.7%下がったことになる。その後、先週末の3月23日には1,929迄持ち直した。

ダウ平均は3月22日に9,389ドル迄下がった。昨年1月10日につけた最高値11,723ドルに対して19.9%の値下がりである。その後3月23日には9,504ドル迄回復した。

S&P 500も3月22日に最安値の1,118を記録した。昨年3月24日の最高値1,527に対し26.8%の値下がりである。これも週末には1,140迄回復した。

今後の米国の株価は、先週つけた安値を底に、回復に向かうのだろうか? それともまだまだ値下がりする可能性があるのだろうか?

一国の金融資産の総額は、長期的には、経済活動の規模にだいたい比例して変動するはずである。そして代表的な金融資産のひとつである株式の時価総額についても同じはずである。

Wilshire

5000 (B$)

a

GDP

(B$)

b

S&P 500

 

c

 

 

a/b

 

 

a/c

1980

1,229.61

2,795.6

119.58

0.44

10.28

1981

1,340.83

3,131.3

127.84

0.43

10.49

1982

1,239.63

3,259.2

120.28

0.38

10.31

1983

1,691.62

3,534.9

160.72

0.48

10.53

1984

1,640.78

3,932.7

160.32

0.42

10.23

1985

1,945.07

4,213.0

188.97

0.46

10.29

1986

2,441.72

4,452.9

238.92

0.55

10.22

1987

2,831.14

4,742.5

285.99

0.60

9.90

1988

2,656.66

5,108.3

268.05

0.52

9.91

1989

3,199.64

5,489.1

326.31

0.58

9.81

1990

3,162.57

5,803.2

332.68

0.54

9.51

1991

3,659.14

5,986.2

381.53

0.61

9.59

1992

4,057.94

6,318.9

417.12

0.64

9.73

1993

4,490.78

6,642.3

453.45

0.68

9.90

1994

4,573.88

7,054.3

460.66

0.65

9.93

1995

5,389.34

7,400.5

546.88

0.73

9.85

1996

6,623.19

7,813.2

674.85

0.85

9.81

1997

8,375.07

8,318.4

875.86

1.01

9.56

1998

10,165.18

8,790.2

1,087.86

1.16

9.34

1999

12,216.51

9,299.2

1,330.60

1.31

9.18

もちろん、国営企業の民営化、つまり株式会社化が大規模に行われた国とか、株式市場が開設されたばかりの国では当てはまらないが、米国のように長期間に渡って経済体制があまり変ってない国については、ほぼそういうことが言えるのではないかと思う。

米国の株式の時価総額を近似的に表すものとして、Wilshire 5000という指標がある。現在はニューヨーク市場、NASDAQを含めて6,649社の株価を反映したものになっている。1980年12月31日の価格1,405十億ドルを基準にしたものである。

この指標も、例えば外国籍の企業の株価は含んでいない等、正確な時価総額とは言えない点もあるようだが、だいたい時価総額に近いものと考えてよさそうだ。

この指標を、経済活動の規模を表すGDPと対比させてみよう。(表 参照)

この表を見ると、1980年から1992年頃迄は、Wilshire 5000はGDPの0.4〜0.6倍の範囲を変動している。つまり、おおまかに言うと、時価総額の伸びはGDPの伸びにほぼ比例している。しかし、90年代の半ば以降はWilshire 5000がどんどん伸びてGDPを追い越し、1999年にはGDPの1.3倍になっている。2000年3月24日につけたWilshire 5000の最高値14,752を仮に1999年のGDPで割ると1.6倍になる。

別の見方をすると、1990年から1999年迄の10年間にGDPは1.60倍にしかなっていないのに、Wilshire 5000は3.86倍になっている。

長期的には、時価総額はGDPに見合うところまで戻らざるを得ないだろう。控えめに見て、Wilshire 5000がGDPの0.7倍に戻るとすると、GDPが10兆ドルになるとして、Wishire 5000は7,000である。Wilshire 5000は昨年3月24日に最高値の14,752をつけた後、先週の3月22日には10,262迄下がった。最高値に比べれば30.4%の値下がりだが、7,000迄下がるとすればさらに約30%の値下がりが必要である。

Wilshire 5000が7,000になるということは、だいたい1996年の水準に戻ることである。当時ダウ平均は6,000前後、NASDAQは1,200前後だった。ニューヨーク市場とNSADAQの比重が変わってきているので、必ずしもそれぞれがこうなるわけではないが、これに近いレベルになる可能性はあると見るべきだろう。現在のWilshire 5000の77%がニューヨーク市場の株で、ダウ平均はまだ最高値から20%も下がっていないことを考えると、特にダウ平均の本格的調整はこれからだと思われる。

さて、Wilshire 5000とS&P 500の相関関係を調べると、表に示す通り、両者の比の最大値(1983年の10.53)と最小値(1999年の9.18)の比は1.15で、他の年はその間にあり、大雑把に言えば両者は比例関係にあると言えよう。比例関係を逸脱してもせいぜいプラス・マイナス10%の範囲内である。

従って、Wilshire 5000がGDPに比例するということは、S&P 500がGDPに比例するということと同じである。つまり、本号に記したことは、実は昨年8月の本誌20号「今の米国株はバブルか?」に記したS&P 500とGDPの関係と本質的には同じことである。そしてS&P 500については1950年以来この比例関係が継続していることは前に記した通りである。

Wilshire 5000はWilshire社のウェブサイト( http://www.wilshire.com/index.htm )でいつでも調べられるが、S&P 500の方がどの新聞やウェブサイトにも出ているので便利であり、日常はこれをチェックしていれば充分だろう。

もちろん、株価は理屈通りに動くわけではないから、上記のような「大調整」がいつどのような形でやって来るのかの予想は難しい。しかし、GDPの成長も鈍化したので、この「大調整」の圧力が今後米国経済を脅かし続けることを念頭に置いておく必要がある。そしてその脅威は米国だけでなく今後の全世界の経済の最大の問題である。


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