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title.gif (1997 バイト)

No.107                            酒 井 寿 紀                      2001/03/11


続・何故ITか? (磁気ディスクの進歩から)

 

前号でIT産業の進歩の最大の源泉は半導体の進歩だと記した。本号ではもうひとつの源泉である磁気ディスクの進歩について触れたい。

1980年頃、磁気ディスクは1メガバイトが1万円と言われていた。1990年頃にはこれが1,000円になった。10年間に10分の1である。1970年頃の磁気ディスクはいわゆる "removable" 型といわれる、記憶媒体が取り外せるものだったので、単純な比較は難しいが、70年代の値下がりもやはり10年間に10分の1程度である。

前号に記したように、70年代から80年代にかけて、半導体は10年間に100分の1になる値下がりが続いた。その為80年代には、2000年になると半導体メモリの値段が1メガバイト100円になり、磁気ディスクに追いついてしまうと予想されていた。そうなれば、21世紀には磁気ディスクはなくなってしまうだろうと思っていた。

ところが90年代になって磁気ディスクの進歩が急に速まった。現在パソコンショップで20ギガバイトの磁気ディスクが2万円程度で買える。1メガバイト当たり1円ということになる。90年代の10年間に、何と1,000分の1になってしまったのだ。

磁気ディスクの値段は1980年頃には半導体メモリの100分の1だったのが、1990年頃には10分の1迄追いつめられた。しかし、その後また引き離して現在は1980年頃と同じ100分の1程度になっている。両者の関係は元に戻った。

この磁気ディスクの価格低減をもたらしたものは、記録密度の向上である。1980年に1平方インチ当たり10メガビット程度だったのが、90年には10倍の100メガビット程度になった。そして現在はさらにその100倍の10ギガビット程度になっている。

この磁気ディスクの価格低減の結果何が起こったか?

70年代の始めには大銀行のオンラインシステムで1台100メガバイトの磁気ディスクを使っていた。最近、趣味でビデオの編集をやっている人がパソコンショップにディスクを買いに行ったら、「20ギガバイトは必要でしょう」と言われたという。今や1枚が何百キロバイトもあるディジタルカメラの写真を何百枚も磁気ディスクにぶち込んでおくのが普通の使い方だ。

では、今後もこの磁気ディスクの進歩は続くのだろうか?

富士通と日立製作所が50ギガビット/(インチ)2程度の磁気ディスクの技術を実証したという記事が「日経エレクトロニクス」の2000年9月25日号に出ていた。その記事によると、今後2〜3年のうちに50〜100ギガビット/(インチ)2の磁気ディスクが出てきそうだとのことだ。さらに、垂直記録方式というのを使えば1テラビット/(インチ)2を実現する可能性もあるという。

従って、少なくともあと数年の間は磁気ディスクの進歩も続きそうだ。

磁気ディスクの大容量化、低価格化により今後さらに何が起きるだろうか?

記憶容量を一番必要とするのは動画の記録だ。4.5メガビット/秒で符号化したディジタルテレビの2時間の映画を記録しておくには約4ギガバイト要る。従って、1日20時間のテレビ放送を全部記録しておくには1チャネル当たり40ギガバイト必要だ。10チャネル全部記録しておくには400ギガバイトだ。

現在1ギガバイトがだいたい1,000円だが、これが10分の1の100円になれば、400ギガバイトといっても4万円だ。1日のテレビ放送を、とにかく全部磁気ディスクに溜め込んでおいて、帰宅後見たい時に見たいものだけ見るというような使い方が考えられるだろう。

しかし、前掲の富士通の記事によると、100ギガビット/(インチ)2の磁気ディスクでは、ヘッドの浮上量が7ナノメートル程度になるという。これは、原子が30個程度しか入らない距離だとのことである。

従って、磁気ディスクの進歩も、今迄の延長線では、この辺がそろそろ限界のようだ。

ITとは「情報技術」だが、分解すれば、情報を「蓄える技術」と「処理する技術」と「伝える技術」の三つになると思う。前号の半導体の進歩と本号の磁気ディスクの進歩は、このうち「蓄える技術」と「処理する技術」を支えてきたものである。

ITの発展のためにはどうしてももうひとつの「伝える技術」の進歩が必要であった。

「伝える技術」については今回は詳しく触れないが、この進歩も著しい。

現在、DSLやCATVを使えば、毎月4,000円から5,000円程度の費用で、数百キロビット/秒から1.5メガビット/秒のスピードで、世界中のサーバーといつでも情報のやり取りができる。これは今後さらに安く速くなるだろう。

またWDM(Wavelength Division Multiplexing)という方式によって1本の光ファイバーで3テラビット/秒程度の通信を行う技術が実用になりつつある。

いずれも前には考えられなかったことだ。

前号及び本号に記した半導体、磁気ディスク、通信の技術の進歩に支えられて、IT産業はまだ今後5〜10年は成長が続くだろう。

しかしすべての技術の進歩には限界があることを忘れてはならない。そして、限界が近づきつつあることも事実だろう。


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