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title.gif (1997 バイト)

No.106                            酒 井 寿 紀                      2001/03/08


何故ITか?(半導体の進歩から)

 

ここで取り上げるITとは、最近騒がれているインターネット関連の技術だけでなく、言葉通り「情報技術」に関係するものすべてである。言い換えれば「情報産業」と言ってもいい。最近のインターネットの重要性を考えると、「情報通信産業」と言った方がより適切かも知れない。

このIT産業は1960年頃にはまだ影も形もなかったが、今や10兆円を超える産業になった。この間に、自動車も飛行機も家電製品も確かにある程度は進歩した。しかしIT産業の進歩は、他のものの進歩に比べ比較にならないほど大きかった。

このITのすさまじい進歩をもたらしたものはいったい何だったのだろうか? そしてそれは今後どうなるのだろうか?

この進歩の源泉となった主なものを三つあげるとすれば、半導体と磁気ディスクと通信の技術の飛躍的進歩であろう。

本号では半導体の進歩を取り上げる。なかでもメモリの進歩が最も著しい。

1970年頃、コンピュータのメモリが磁気コアから半導体に切り替わった。その頃1メガバイトのメモリは1億円した。装置も幅が2メートル以上もある大きいものだった。

現在パソコンショップで1メガバイト当たり100円台でパソコン用の増設メモリが買える。100円とするとこの30年間に値段が100万分の1になったことになる。10年間に100分の1になる値下がりが30年間続いたということだ。こんな製品は他にないだろう。

何故こんなことが可能だったのだろうか?

この間、半導体の微細加工技術が進歩し続け、だいたい3年毎に1/1.3の微細化が実現された。この微細化により、3年毎にほぼ同じコストで4倍の容量の半導体メモリを作ることができた。1970年頃に最初に現れたメモリ・チップは1キロビットだった。その後ほぼ3年毎に、4キロビット、16キロビットというふうに、4倍の容量のメモリが現れた。

3年で4倍ということは1.5年で2倍ということで、30年では220倍になる。210がだいたい1,000なので、220は1,0002、すなわち百万である。このペースで半導体の技術が進歩すれば、2000年には0.1μmの加工精度で、1キロビットの百万倍に当たる1ギガビットのメモリが出現するはずだった。実際には90年代の前半までこのペースで進歩したが、その後進歩が鈍ってしまい、現在量産されているのはまだ0.2μm程度の技術による64メガビットのメモリである。しかし価格の方は熾烈な価格競争の結果、すでに1メガバイト当たり100円に近い価格になってしまった。

半導体の進歩はメモリ・チップの他、プロセッサ・チップにも大変な飛躍をもたらした。

70年代の始めにインテル社が出した8008という8ビットのマイクロプロセッサの動作周波数は1メガヘルツだった。

最近の高速のプロセッサ・チップの動作周波数はこの1,000倍の1ギガヘルツに近い。そして1サイクルで64ビットの浮動小数点演算をやってしまう。メモリと違い単純な比較は難しいが、演算能力はこの30年間に10万倍以上にはなっているだろう。

メモリ・チップやプロセッサ・チップのこのすさまじい進歩の結果何が起きたか?

1970年頃には、大企業で使われる何億円もする大型コンピュータのメモリが1メガバイトだった。現在は10万円台の普通のパソコンのメモリが64メガバイトである。

昔はいかにメモリ容量を節約するかがプログラマの腕の見せどころで、凝りに凝ったプログラムを作っていた。そしてメモリが安くなることを切望すると同時に、メモリ容量が100倍にも1,000倍にもなったらどうやって使ったらいいんだろうと悩んでいた。それが今やメモリを湯水のように使うのが当たり前になり、何百キロバイトもの写真をパソコンの画面に壁紙として表示して楽しんでいる。

昔は大型コンピュータでないとできなかったことが、今やパソコンでもできるようになった。そして昔は、大型コンピュータでも、扱えるのは数値か文字情報だけだったが、今やパソコンでも静止画像はもちろん、動画や音楽まで扱えるようになった。

こうしてコンピュータの市場はどんどん広がり、それに伴いソフトウェアが一大産業になった。そして小型のコンピュータがいたるところに散らばると、お互いに情報をやり取りしたいという要求が強まり、インターネットが現れた。

では、今後この半導体の技術はさらに発展するのだろうか? それとももうそろそろ限界なのだろうか?

従来、0.1μmの加工精度までは実現しそうだが、その先は難しいと言われていた。ところが昨年12月にサンフランシスコで開催された国際電子デバイス学会でインテルが0.03μmの技術を発表した。この技術により、2005年から2010年の間に、現在のほぼ10倍の4億トランジスタで、動作周波数も約10倍の10ギガヘルツのマイクロプロセッサができるという。

0.03μmというのは、従来の加工精度とメモリ容量の関係が今後も成り立てば、64ギガビットのメモリができるものである。これは現在のメモリ容量の1,000倍である。

従って、まだ5年から10年は半導体技術が進歩しそうだ。現在デスクトップのパソコンでしかできないことが、少なくとも処理能力やメモリ容量上は、PDAや携帯電話で充分できるようになるだろう。いわゆるウェアラブル・コンピュータの時代になるのである。

しかし、今回インテルが発表した半導体の絶縁膜の厚さは1ナノメートル(百万分の1ミリメートル)以下で、原子3個分の厚さだという。ということは、今迄の延長線での技術の進歩はそろそろ限界に近づいているということだ。

半導体の進歩が止まればコンピュータの進歩も終わる。そして、現在の車と同じように、デザインや色が売れゆきの決め手になる日がそのうち来るだろう。


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