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title.gif (1997 バイト)

No.103                            酒 井 寿 紀                      2001/01/01


「通貨が堕落するとき」…財政赤字編

 

前号に引き続き、本号では「通貨が堕落するとき」から、財政赤字関係の話を紹介する。

「1990年代の景気対策は合計9回、規模にしてじつに125兆円に達している。(略) その結果、国債残高は(90年度末の)166兆円から(99年度末には)327兆円と倍増している。このままでいけば、国家財政が破綻することは誰の目にも明らかであった」

「すでに長期国債のマーケットは、(略)売り込まれがちとなっている。長期金利は上昇気味だ。こんな脆弱な景気の状況で長期金利が上昇したら、銀行も、ゼネコンも、中小企業も、全部やられる」

その為、民主自由党(自由民主党)の大半は、「こうなったら日銀による国債の直接引き受けも致し方ないのではないか」と思っている。

民主自由党の元幹事長鹿島龍三(加藤紘一みたいな人(以下“みたいな…”は省略))は同じ派閥の若手議員石崎慶一郎(塩崎恭久)に深夜電話をし、「今度、その(日銀による国債の直接引き受けの)件について、党で小委員会を設立することになりましてね。あなたにぜひ座長を務めてほしいんですよ」と依頼する。

一方日銀の早野総裁(速水総裁)は、「万が一、国債の直接引き受けなんてことになったら、日本銀行は世界のさらしものだ」と言って、それを断固阻止する為の方策の検討を部下に指示する。その為、石崎慶一郎は、「日銀の顔を立て、彼らのプライドを傷つけずに自然に呑めるような形を作らねばならない」と苦慮する。

その結果、2000年4月以降の2年間に集中して満期を迎える郵便貯金の、払い戻し資金調達のための例外措置として、「資金運用部が保有する国債を3ヶ月以内に買い戻すことを条件に、日本銀行に売却する」という道を作る。

こうして、「本当は実質的な国債の直接引き受けが始まっているのだが、あたかも始まっていないかのようにみせかけておく」ことに成功する。

しかし、「中央銀行による国債の実質的な引き受けは通貨の発行量を増大させ、通貨の価値を堕落させる。理論的に考えれば、堕落した通貨はいつか必ずインフレを巻き起こすはずであった」

一方、世に中にはMITのポール・クレージュ教授(ポール・クルーグマン教授)のように、「日本は恐慌前夜のごとき状況であるにもかかわらず、日本政府の対応は全くもって生温い。量的緩和を実現するためには、日銀に直接国債を引き受けさせてでも、市中にマネーを大量供給させなければならないことがわかっていない」と主張する人もいた。

また、北嶋総研(野村総研)のジェイソン・ダニエル(リチャード・クー)も、「日本は未曾有の危機にある。(略) できることはすべて実行する必要があります。財政ももっと出動すべきだ。財政赤字など気にする場面ではないのです」と同調した。

しかし、その結果日本はどうなったか?

2003年の始めには、「円安が止まらない。(略) 160円を軽々と突破した為替相場は、170円をめざす動きに入っている」

「振り返ってみれば、大量の円資金が余っている。円安が円安を呼び、ドル運用が高いパフォーマンスを示し始めると、国内でうごめいていたマネーは、一挙に海外へと向かった」

「そんなとき、中東地域で大規模戦争が起こった」

「円は200円を越えて暴落。(略) 原油価格は一挙に50ドルを超える急騰を示した」

「消費者物価は年率10%を超えて、ピークには前年比18%まで上昇する」

「ついその前まではデフレ・スパイラルを心配していたのが信じられないようなインフレーションがやってきた」

そして、2004年の末に、総理大臣になっている鹿島龍三は、死の床で、大蔵大臣の石崎慶一郎に述懐する。

「1997年1月に財政構造改革会議を立ち上げて、わたしは財政再建をぶち上げた。(略) 着実な財政再建のめどをつけることは後世代に対する責務だとわたしは思った」

「少しばかり景気が上向かなかったからと言って、マスコミや経営者たちは大騒ぎだ。まるであの財政改革が過ちであったかのように騒ぎ立てた。橋山(橋本龍太郎)とわたしは犯罪者扱いだった」

「あのとき、わたしが橋山とやろうとした財政再建をスタートさせていたら、財政が破綻して、日本がここまで落ちぶれることはなかっただろう」

「……しかし、日本の国民はそこまで成熟していなかった」

「そこでわたしは決めたんだ。ショック療法しかないとね。(略) そこで、小野内閣(小渕恵三内閣)のバラマキ財政を積極的に支援し、(略)金融機関に巨額の公的資金を注ぎ込んだ。日本経済は一挙に膨張し、最終的には思惑通りものすごいインフレーションになった」

「われわれが残せたものはインフレの後の廃虚にすぎん。しかし、財政赤字や年金問題という過去の重荷は消え去った。(略) きみたちの能力があれば、必ず日本は復活できる」

 

昨年末の、ドルやユーロに対する円の値下がりは、この通貨の堕落の第一歩かも知れない。そうであるかどうかは今年中には見えてくるだろう。

今年は、資金をどこの国で運用するべきかの判断が難しい年になりそうである。


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