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No.102 酒 井 寿 紀 2001/01/01
前号に引き続き、本号では「通貨が堕落するとき」から、日米関係の話を紹介する。
ここでの日米関係とは、日本経済の問題についての日米政府間の折衝のことである。
1997年に東北拓殖銀行(北海道拓殖銀行みたいな銀行(以下“みたいな…”は省略))が破綻した。その直後、米国財務省の次官ラルフ・フィシャー(ローレンス・サマーズ)が大蔵省の銀行局長高田喜美夫(山口公生)に電話をかけてきて言う。
「1995年10月の約束はどうなっているのかね」
約束とは、「1995年10月、(略)大蔵省と日本銀行は、(略)『国際的に活動している銀行については救うための万全の準備をする』と言明した」ことである。
ラルフは言う。「つぶさないと言っておきながら、どうして事前に断りもなく、東北拓殖銀行を破綻させたのかね」
高田は反論する。「東北拓殖銀行は、すでに国際業務から撤退する方針を決めておりましてね。(略) インターナショナリー・アクティブ・バンクではなくなっていたわけです」
ラルフは言う。「そんな言葉遊びをするために、わたしがはるばる米国から電話をかけてきたと思っているのかね。(略) きみは嘘つきなのか。どうなんだ」
そして電話が終わるや否や、ラルフは次官補に怒りをぶちまける。
「ああ、あいつらは嘘つきのチャンピョンだ」「ここ数年間毎年毎年、『不良債権はございません。(略) 処理は終わっています』としれっと言い続けておきながら、不良債権の定義が変わっていく」「俺たちのことを馬鹿な日本国民と同じレベルで考えていやがる」
これには下地があった。
「やまと銀行(大和銀行)ニューヨーク支店は、巨額の損失を組織的に隠蔽して虚偽報告していたとして、米国金融当局から1995年11月に米国撤退という厳しい行政措置をくらっていた」
それにかかわっていた次官補はラルフに言う。
「日本は金融行政に関しては、発展途上国並かそれ以下です。銀行に対する検査がまったく機能してないんですから。銀行と示し合わせて、不良債権隠しに荷担するような検査官がいるのは、世界広しといえども先進国では日本だけでしょう」
そして98年6月にはこの次官が日本に乗り込んでくる。乗り込むに当たって、財務長官のウィリアム・ルース(ロバート・ルービン)は叱咤激励して言う。
「このまま何も変わらないようであれば、国際マーケットから邦銀を1行残らず締め出す用意がある――というくらいはぶちかましてきてもいい。とにかく、日本に思い知らせてやってほしい」
そしてフィッシャー次官は「民主自由党(自由民主党)幹事長を務める鹿島龍三(加藤紘一)」に会って言う。
「佐伯(佐々波楊子)委員会による、あの1兆8200億円を評価している者は海外には誰一人としておりません。(略) あんなものは、不良債権問題を解決する手術とは呼べません。金融危機の本質を一時期覆い隠すバンソウコウぐらいのものでしょう」
そして三つの要求を突きつける。
「まず、破綻銀行は即時閉鎖して下さい。マーケットから退出させていただきたいのです。そうでなければ、われわれが退出させることになるでしょう。次に、銀行に貸倒引当金を十分積ませてください。不良債権問題が発覚してから、もう7、8年になるにもかかわらず、邦銀は大幅な引き当て不足の状態にあります。(略) 最後に、銀行監督を強化していただきたい。大蔵省の銀行監督はもはや信じられません。彼らはわれわれに長年ウソをついてきました。護送船団行政ではない、厳しい銀行監督がすぐに実施されなければなりません」
米国の財務長官や次官の発言がどこまでこの小説に近いのか、私には知る由もない。
しかし95年の大和銀行の事件以来、大蔵省が信用を失墜したのは疑いもなかろう。米国政府から見れば、日本人がアメリカで犯罪を犯したのを知りながら、日本の警察がアメリカの警察に連絡して来なかったのと同じことであろう。
大和銀行事件では大蔵省は責任を免れないと思うが、金融危機の処理についてはどうだろうか?
本書では、財務省はもっぱら大蔵省を非難しているが、根本的外科手術を先送りして、目先の景気回復を最優先してきたのには、政治家の責任が大きいと思う。
しかし、彼らはそうしないと、政権を維持できず、次回の選挙で当選できないからそうしたまでなのだろう。そういう意味では、彼らにそういう政策を要求した、一般国民、企業経営者、評論家、ジャーナリズムに最終的には責任があると思う。
「私が当選した暁には来年の景気回復に全力を尽くします」等と言う政治家に投票するのはやめよう。来年だけに全力を尽くされたら困るのだ。
米国政府は、単に大蔵省だけに対してでなく、日本全体に対し、どうしようもない困った国だ、と思っているのではなかろうか?
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