YouTubeで外国語の固有名詞の読み方を調べよう
言葉のメモ帳(5)
酒 井 寿 紀
[YouTubeになじみがない方に]
これは「YouTube」というインターネットのサイトを利用する話である。
YouTubeにはテレビのような動画の断片が山のように登録されている。内容は、テレビ番組や映画の一部から、個人が撮影したビデオまでさまざまだ。時間は数分のものから1時間を超えるものまである。 そして、見たいものをキーワードで検索できる。いくつかのキーワードを並べて、検索範囲を絞り込むこともできる。
外国語の固有名詞のカタカナ表記がマチマチ
最近新聞などに登場した外国人の名前のカタカナ表記に、マチマチなものがあったので、元の音はどうなっているのかと思ってYouTubeで調べてみた。
最近CIAのPatraeus長官が不倫で辞職した。日本の報道機関には、この人の名前を「ペトレイアス」と表記しているところと「ペトレアス」と表記しているところがある。YouTubeで検索して、本事件に関連するニュースを聞いてみると、「ペトレイアス」と言っている。
米国のYahoo!の新CEOに元GoogleのMarissa
Mayerという女性が就任した。日本には、彼女の姓を「マイヤー」と表記した記事と「メイヤー」と表記した記事がある。YouTubeで検索して、彼女が出演するインタビューなどを聞いてみると、「マイヤー」だ。
振り返ると、今までにも一つの名前に対して異なるカタカナ表記が使われていたことがあった。
元サン・マイクロシステムズのCEOだったScott
McNealyの姓は、「マクニーリ」、「マクナリ」、「マクネリ」などと表記されていた。YouTubeで聞いてみると、「ニー」にアクセントがあって「マクニーリ」が近い。
ゴルフの帝王Jack
Niclausの姓に対しては、「二クラス」、「ニクラウス」の両方が使われている。YouTubeで聞くと、これは「二クラス」だ。
歴史上の人名にも表記がマチマチなものがある。
イギリス国王ヘンリー8世の王妃の一人Anne
Boleynの姓は、昔は「ボレイン」と書かれていたのが多かったように思うが、最近は「ブリン」、「ブーリン」と書かれている。
YouTubeで聞くと、「ブリン」が近いようだ。「ブ」にアクセントがあるのは確かだが、「ブーリン」とは聞こえない。
それにしても、英語のスペルはどうしてこんなに発音と違うのだろうか? 外国人にとっては、この上なく不便な言語だ。いや、英語国民にとっても不便さは同じはずだ。
人名だけではない、地名の表記にも統一されていないものがある。
カリフォルニア州のSan
Joseは、一般に「サンノゼ」と書かれていることが多いが、なかには「サンホゼ」と書いているものもある。YouTubeで聞いてみると、「サンホゼ」の方が近い。「ゼ」にアクセントがあって、音をそのまま文字にすれば、「サンホゼー」という感じだが、所詮外国語をカナで忠実に表記するのには限界があるので、「サンホゼ」で十分だろう。しかし、現在の日本では「サンノゼ」が定着してしまっているので、今からの変更は難しいかもしれない。
昔、このSan
Joseの近くの町で育ち、日本の大学の先生をしている米国人に、San
Joseの正しい発音を聞いたことがある。その人は、何の躊躇もなく即座に「サンホセ」だと断言した。San
Joseがあるカリフォルニアは1848年まではメキシコ領で、スペイン語が使われていたので、少なくともそれまでは、みんなスペイン語で「サンホセ」と言っていたのだろう。支配者が変わっても、住民の言葉が急に変わるわけではないので、その後もしばらくは「サンホセ」と呼ばれていたのだと思う。それがいつの間にか訛って、現在では「サンホゼ(-)」が普通になってしまったのではないだろうか?
イギリスの港町Southamptonは「サザンプトン」、「サウザンプトン」などと表記することが多いように思う。ところが最近英語のテレビ番組で「サウスハンプトン」と言っているのを聞いて驚き、YouTubeで聞いてみると、確かにそう言っている。調べると、最近は日本でも「サウスハンプトン」と書いているものもあるようだ。
YouTubeでカタカナ表記を改善しよう
どうしてこのようにさまざまなカタカナ表記が使われるようになったのだろうか?
普通名詞の発音は、辞書で調べれば分かる。しかし、固有名詞が現地でどう発音されているかを調べるのは困難なためだろう。そして、新聞雑誌などで一度不適当なカタカナ表記が使われると、みんながそれを使いだし、日本語に定着してしまうことになる。
最近は、Wikipediaなどに発音記号が載っていることもある。例えば、上記のAnne
Boleynは発音記号が記載されているが、これは英語国民にとっても容易に読めないからだろう。百科辞典類にこの問題の解決をすべて求めるのは困難だ。
ところが、上記の例が示すように、YouTubeで調べれば、どう発音されているか知ることができることが分かった。たしかに、YouTubeは、内容が玉石混淆で、また発音を調べるために作られたものではないので、調べるのに手間がかかることもある。しかし、何の方法もなかった時代に比べれば大違いだ。
今後は、新しく接した外国の固有名詞をカタカナ表記にするときは、YouTubeで調べて、できるだけ現地の音に合わせるべきだ。また、現在日本で定着してしまっているものも、疑問に思ったらYouTubeで調べ、不適当なカタカナ表記は直すべきだ。
外国語のカタカナ表記には限界があるが、上記の「アン・ボレイン」のように似ても似つかない音が日本の中だけで通用しているのは、外国人と交流するとき混乱を招くのでよくない。日本の中でもできるだけ国際的に通用する音を使うようにすることが、今後の国際化時代には必要である。
固有名詞の正しい読み方を調べよう
YouTubeが固有名詞の発音を知る上で有用なのは、何もカタカナ表記するときだけではない。
先日、インターネットで米国の西部開拓の記事を読んでいたら、「Chisholm
Trail」という言葉が出てきた。テキサスのカウボーイが牛の群を食肉市場がある北の方に運んだときに使ったルートである。「赤い河」など、多くの西部劇の舞台になったものだ。しかし、「Chisholm
Trail」は一体何と読むのだろうか?
YouTubeを調べると、このChisholm
Trailが出てくる歌がたくさん登録されている。それを聴くと、カタカナで書けば「チズム」だ。スペルからは思いもよらない。
特に英語のように、スペルと読みがあまり対応してない言語では、固有名詞の読み方が分からないことが多い。そういう時、YouTubeは強力な道具になることが分かった。
YouTubeの明日に期待しよう
現在のYouTubeはこういう目的のために作られたものではない。そのため、検索してその言葉が出現する動画をつきとめても、どこで出てくるのか分からない。一つの言葉を聞くために、何十分も視聴させられることもある。動画によっては、関連する映像とBGMだけで、言葉は皆無のものもある。
グーグルは地球上の全情報を収集、体系化、公開することを会社の目標にしている。書籍については、これを実行しつつあり、収録した文献の全文検索ができるようになっている。
動画についてもこれに相当することができ、指定した言葉が出現する部分だけをピンポイントで視聴できたら便利だ。不必要な部分を長時間視聴しなくても済む。
現在の音声認識技術をもってすれば、それほど夢のような話ではないだろう。
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