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   (2005)

コロナの恩恵(4) ・・・オンライン授業

    

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2020/7/22

コロナでオンライン授業が急増!

コロナの流行以来オンライン授業が急増している。文部科学省の4月下旬の調査によると、全国の大学の60%がオンライン授業を「実施する」と答え、39%が「検討中」と回答したという。合計すると99%だ(1)

森上教育研究所が4月上旬、首都圏の1都3県の私立高校について調べたところ、全体の約2/3がICTを授業に活用すると答えたそうだ。ただ、公立の小中高では5%の実施にとどまるという。そのため、政府による環境整備が急務だとしている(2)

まだ、情報機器や通信回線の整備が充分でなく、教える方も教わる方も習熟度が足りないようで、どこまで実効を上げているのか分からないが、休校による遅れをオンライン授業で少しでも取り戻そうと努力しているようだ。

米国の大学での講義公開の試み

では、今までのオンライン授業の状況を振り返ってみよう。この分野で先進国であり、情報も豊富な米国の状況を中心に記す。今世紀に入って米国の大学では、インターネットを使った講義の公開がいくつか試みられてきた。

その一つは、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)が2001年に始めたMIT OpenCourceWare (OCW)と呼ばれるものである。これは同大学の講義を、誰でも、いつでも、どこからでも自由にインターネットで見られるようにしたものである。現在2,400以上の講座が用意されているという(3)

また、2008年にはMOOC (Massive Open Online Cource :ムーク)と呼ばれる運動が始まった。これはカナダの僻地や南アフリカの離島等、交通が不便でオンライン授業に頼らざるを得ないところにある 大学の関係者によって始められたものである。

2012年には、MITとハーバード大学によってMOOCを提供する非営利団体としてedX(デックス)が作られた。現在2,800以上の講座が用意され、全世界で2,500万人以上の学生がを受講するまでになったという。米国の大学では、ボストン大学、コロンビア大学、コーネル大学等も参画し、他国では、東京大学、京都大学、ソルボンヌ大学、オックスフォード大学、北京大学、精華大学等も名を連ねている。その後、大阪大学、東京工業大学、早稲田大学等も参画し、大学以外の組織では、IMF、IBM、マイクロソフト等も加わり、現在は120以上の組織が登録されている(4)

MOOCに対応したものとしては、この他にスタンフォード大学の2人の教授によって2012年に設立されたCousera(コーセーラ)という組織もある。この組織には当初、プリンストン大学、スタンフォード大学、ミシガン大学、ペンシルベニア大学が講座を提供した(5)。その後その数は増え、現在は50か国の212の組織が協力しているという(6)

この組織がedXと違うのは、edXが非営利団体なのに対して、Couseraは民間企業であることだ。そのため、edXは無料を基本にしているが、Couseraは基本的に有料である。そして、大学によっては修士の学位を取得できるところもあるという。

MOOCに対応している組織はこの他にも全世界に多数あるようだがここでは省略する。 

道具立てはどうなっている?

では、小中高、大学を含めて、授業の映像や補助教材をインターネットで受講者に伝える道具立てはどうなっているのだろうか? 「コロナの恩恵(1) ・・・ビデオ会議」でご紹介した"Zoom"だけでもできないことはないが、過去に作成したワープロの文書やスプレッドシート、スライドや動画等を駆使して講義を分かりやすくし、質疑応答やテストを容易にするためには、教育用専門に用意された道具立てが必要である。

ここでは、GoogleとMicrosoftによる道具をご紹介しよう。

"Google Classroom"

Google Classroomは2014年にリリースされたウェッブ上の無料のソフトで、これを使って教師と学生が学生の"Drive "上のファイルを共有し、その共有ファイルを通じて、教師が学生に課題を与え、学生はそれに対して回答を書き込んで教師に返送し、教師はそれを見てコメントを記入したり採点したりして再び学生に送り返す。

教師と学生が共有するファイルとしては、Googleのワープロ文書、スプレッドシート、スライド等があるが、これらはそれぞれMicrosoftの"Office"の対応するファイルを、一部制約はあるが、読み込めるようになっているので、Microsoftのソフトで作成済みのファイルが手元にあれば、教師はそれを活用できるようになっている。

Google Classroomのソフトは無料だが、他のGoogleのソフトと違い、広告が表示されない。Googleは、これを使って教育を受けた学生を将来自陣営に取り込めることを狙っているのだと思われる。

Google Classroomを使っている学生数は、コロナの流行のせいかこの3月に倍増し、1億人以上になったという(7)

"Microsoft Teams"

Microsftは、Word、Excel、PowerPoint等の文書を作成するソフトをSaaS (Software as a Service)で提供し、作成した文書を保管するサービスを"Office 365"という定額のクラウド・サービスで提供している。そしてこのクラウド・サービスのユーザーに対してさまざまな教育用の機能を、"Micosoft Teams"という名称で無料で提供するようになった。例えば、学生に課題を与え、それを採点する機能、教師と学生間で連絡を取り合う機能、ビデオ会議の機能等である。

Microsoft系の文書をそのまま扱えるので、過去に作成したMicrosoft系の文書を活用したい教師には便利だと思われる。

全世界の1日の平均ユーザー数は今年3月12日から4月30日の8週間で、3,200万人から7,500万人へと約2.3倍に増えた。これはコロナの流行のためもあるだろうと言われている(8)

学校が変わる?

コロナの流行で最近急増しているオンライン授業の一端をご紹介した。ごく限られた事例で、ここでは触れなかったものも多い。特に、最近の日本での活用状況については情報が少なく、あまりご紹介できなかった。

オンライン授業は、コロナで突然始まったわけではなく、今世紀に入ってからいろいろな試みがなされてきたものだ。しかし、日が浅いことには違いないので、これからもまだ当分試行錯誤が続くだろう。また、今まで3回にわたって本稿でご紹介してきた「コロナの恩恵」と違い、関連企業がどれだけ経済的恩恵にあずかっているのかもよく分からない。

しかし、これは何百年と続いたきた教育に対する考えを根底から覆す可能性があると考えている。以下、いくつかの面からそれを説明する。

(1) 受動的学習から能動的学習へ

従来の学校は、決められた場所に、決められた時間に、決められた期間通えば、決められた教育内容を教えてくれ、その内容を習得できているか試す試験に合格すれば、卒業証書をくれた。

ところが、従来の講義をそのままインターネットで流しているものは別にして、オンデマンドのオンライン授業はまったく違い、好きな時に、好きな場所で、好きな講義を聴けばいい。よく聞き取れなかった時は、そこだけ何回でも聞き直せる。これは、外国人の留学生には有難いだろう。

また、知らない言葉にでくわした時は、再生を一時停止して、使っている端末で、インターネットの辞書や百科事典を調べれば、よく理解できないまま後の話を聴いて、帰宅後調べるという非効率的なことをしなくても済む。

この他にも、知らない地名については、その場ですぐ地図で調べ、知らない動植物については、即座に図鑑で調べることができる。

そして、単に言葉や地名を知らない時だけでなく、その講義内容について前提となる基礎知識が足りず理解が困難と感じた時は、受講をいったん中断し、知識不足と思われる点を百科事典等で調べてから受講した方がはるかに効率よく学習できる。

これは重要なことで、基礎知識が不足している状態で聴いた話は、頭の中で体系化されていないため、断片的にはしばらく覚えていてもすぐ忘れてしまい、応用もできない。

このように、従来「受け身」一方であった学習に、学生側からの「働きかけ」が要求されるようになり、その結果、学生の習得レベルに大きな格差が生じる。

(2) 問題提起能力が問われるようになる

受動的学習では、教師から与えられた問題を解く力が付いていれば合格できた。しかし、能動的学習を生かすためためには、自ら問題を発見しそれを解決していかなければ、充分な成果は得られない。教師の話に、知らない言葉や人名が出てきても、それを放置しておけば知識は深まらない。

学校を卒業し社会に出れば、誰も問題を与えてくれなくなる。疑問点は自ら見つけて解決しなければ、いつまでも不明のままだ。「問題解決能力」の前に、「問題提起能力」の有無がまず必要になる。これは分からない言葉についてだけでなく、関連するすべての事項について同じである。

ニュートンが「なぜリンゴは木から落ちるのか?」という疑問を真剣に考えたことによって力学の基本が解明されたと言われている。あらゆる学問は「疑問の発見」、言い換えれば「問題提起」から始まったのだと思う。

オンライン授業は「問題提起能力」を要求し、そのトレーニングをさせる点で、従来の一方通行的教育より優れているように思う。 

(3) 「飛び級」の議論が復活し、「通信教育」は死語になり、「留学」の意義が変わる

第二次大戦以前の日本には「飛び級」という制度があったそうだが、現在は、通常決められた期間学校に通わないと卒業できない。しかし、オンライン授業になると、学生によって学習の効率に大きな差が付くのが当たり前になると思われる。そのため、一定の期間在学しなければ卒業証書をもらえないという制度は見直すことになるかもしれない。「飛び級」には功罪があると思うが、少なくとも議論の対象になるのではないだろうか?

オンライン授業により通学の必要性がなくなれば「通信教育」はなくなると思われる。オンライン授業は通信教育の一つだからだ。しかし、通学には社会性の涵養等の意義もあるので、オンライン授業と大学内での授業を混在せる試みもなされているようだ。

そして、オンライン授業は世界のどこからでも受講できるので、留学のために外国に行く必要はなくなる。ただ、他の国の社会生活や文化に直に触れて肌で感じることはできないので、別の方法でそれを解決する必要はある。

(4) バーチャルな寺子屋が実現できる?

オンライン授業の最大の問題は、ナマの人間同士の接触の欠如だと言われている。しかし、先日新聞で、「(授業の)オンライン化で思わぬメリットも見えてきた。・・・休みがちだった生徒がオンライン授業には参加した」という記事を目にして驚いた(9)。東京都内の中学校の話で、ここではコロナのため学級を半分に分け、教室とオンラインの授業を同時に並行して進めていたのだそうだ。他校の取材でも類似の事例に出会ったという。

詳しい状況はよく分からないが、ビデオ会議の画面で教師と話す時は1対1で先生と向かい合い、同級生の目を気にすることなく、あたかも個人指導を受けているような感じを受ける点がよかったのではないだろうか? 教育の原点は1対1だと思う。吉田松陰の松下村塾が大きな成果を挙げることができたのは、畳敷きの一間で先生と生徒が膝を突き合わせて座っていたのがよかったのではなかろうか?

大講堂でのマスプロ教育はその対極である。オンライン化の有無に関係なく、充分な成果は期待できない。数十人規模のクラスの場合でも、オンライン授業が成果を挙げるためには、教師と学生の中間に指導員のような役割の人がいて、学生一人一人と会話を交わしながら講義が進められるといいかもしれない。

オンライン授業には、テレビ会議システムを使ってバーチャルな寺子屋を実現できる可能性があるように思う。

 

[関連記事]

(1) 「オンライン授業 手探り」、2020年5月13日、日本経済新聞

(2) 「遠隔授業 教師も在宅」、2020年4月27日、日本経済新聞

(3) "MIT OpenCourseWare", Massachusetts Institute of Technology

(4) "eDX", eDX

(5) "Coursera, the Other Stanford MOOC Startup, Officially Launches with More Poetry Classes, Fewer Robo-Graders", 18 Apr 2012, Hack Education

(6) "Meet our Partners", Coursera Inc.

(7) "Google Classroom Users Doubled as Quarantines Spread", 2020年4月9日, Bloomberg

(8) "Number of daily active users (DAU) of Microsoft Teams worldwide as of April 30. 2020",

(9) 「オンラインなら出席できた・・・学校を休みがちな生徒 変化の兆し」、2020年6月8日、朝日新聞


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