(2003)
コロナの恩恵(2) ・・・ネット通販
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2020/5/17
コロナの影響でAmazonの売上が30%増?
世界最大のネット通販事業者であるAmazonの四半期ごとの売上高を上の表に示す(1),(2)。
2019年第1四半期には約597億ドルだったが、2020年第1四半期には約755億ドルになり、この1年間で26%増加した(2)。これにはコロナウィルス流行のための外出禁止の影響も含まれていると思われる。
コロナの流行前の2018年第4四半期から2019年第4四半期の1年間の増加は上表から21%で、これはコロナの影響を含まない数値である(1)。もし、2019年第1四半期から2020年第1四半期の1年間についても、コロナ以外の要因による売上増加率が同程度なら、両者の差の5%程度がコロナの流行のための売上増と考えられる。
ニューヨークやサンフランシスコが外出禁止になったのは今年3月半ばからなので、実店舗での買い物がネット通販に大幅に切り替わったのは、第1四半期中の最後の半月程度だろう。だとすれば、この四半期の1/6の期間の売上増が四半期全体の売上を5%程度押し上げたことになる。やや乱暴な推定だが、コロナの影響期間だけについては、30%程度売上を押し上げたと見ることができる。
実店舗からネット通販へ
純粋にコロナによる売上増だけを抜き出すことは不可能なので、私の個人的経験について見てみよう。
従来から私は電気製品や情報機器をほとんどネット通販で買っていた。そのため、1990年代までよく行った秋葉原の電気店には、2000年以降はまったく行かなくなった。最近は郊外の家電量販店にもほとんど行かない。行くのは工事が必要なエアコンの買い替え時ぐらいである。
通信会社との契約が必要なスマートフォンもネット通販でSIMフリーの機器を買い、SIMカードはネットで購入するので、街の通信会社の店舗にも近年はまったく行ってない。
本屋にもほとんど行かなくなった。読みたい本があると、電子書籍で読むか、ネット通販で印刷物を買うかしている。
その他、日用雑貨、園芸用品、旅行用品等で、ネット通販を利用しているものは多かった。
食料品は、わが家では宅配サービスを使っているので、生鮮食品を除いて実店舗で買うものは限られていたが、それでも多少は実店舗を利用していた。
しかし、今年のコロナ騒ぎで実店舗での買い物を極力減らすようにしたため、購買方法が一変した。
従来近所の食品スーパーで買っていた、酒類、スナック、調味料等をネット通販で買うようになった。従来実店舗で買っていた食料品がもっと多かったら、ネット通販に切り替えたものはもっと増えただろう。
また、従来近所のドラッグストアで買っていた、整髪料、カミソリの替刃等もネットで買うようにした。
このようにして、世界中で多くの人が実店舗の利用を減らし、ネット通販に切り替えたと思われる。
Amazonの今年第1四半期の売上増はそれを物語っていると思う。
ネット通販のさらなる拡大を妨げているものは?
品揃え不足
実店舗での買い物を減らすため、ネット通販に切り替えようとしても、うまくいかなかったものがいくつかある。一例を挙げよう。
例えば、チーズの切り売りである。これは、切り売りといっても計量して梱包してあり、商品ごとの売価も決まっている。また、消費期限があるといっても何週間かあり、魚や野菜とは違う。ネット通販で充分扱えそうだ。
また、アイスクリームについても、選択の自由度がなく、売り手が勝手に組み合わせたセット商品を無理やり押し付けようとしているものがある。
最近は一部の生鮮食品もネットで買えるようになった。しかし、魚や野菜を全部ネットで買うのは難しいとしても、上記の例のように販売者側にもネット通販の品揃え拡充の余地はまだまだあるようだ。
行政の問題
コロナで外出自粛中は病院へ行くのは避け、持病の薬については処方箋を郵送してもらったが、処方箋の薬を手に入れるには薬局まで出かける必要があった。薬局へ行っても、処方箋を渡して薬を受け取り、費用はクレジットカードで支払うだけだ。これならインターネットで充分可能なはずだ。
一方で外出自粛と言い、他方で無理やり実店舗に足を運ばせる行政に矛盾を感じた。政府及び医薬品業界の頭の切り替えが期待される。行政の改善には、業界団体の圧力等で平時にはなかなか難しいものもあると思われる。今回のコロナ騒ぎを奇貨としてこれらの改善が実現されることを期待したい。
後戻りはあるか?
コロナ騒ぎはウィルスの伝染によるものなのでいずれ収束するだろう。ではその後、買い物はネット通販から実店舗へ戻るだろうか? もちろん中にはそういうものもあるだろうが、全体としてはそうはならないと思う。売り手にとっても、買い手にとっても、ネット通販にはメリットがあるからだ。
売り手にとっては次のようなメリットがある。
(1) 実店舗より少ない費用で販路を獲得できる。
(2) 物流がシンプルになり、1ルートの量が増えるので、物流経費が低減する。
一方、買い手にとっては次のようなメリットがある。
(1) 買い物の時間を節約でき、交通費やガソリン代も不要になる。
(2) 他の商品との比較が容易にできる。
(3) 商品を自宅まで届けてくれる。
但し、実店舗での買い物は適当な運動と気晴らしになり、心身の健康の維持に貢献している。そのため実店舗がなくなることはないだろう。しかし、ネット通販の上記のようなメリットはコロナ騒ぎの収束後も続くので、今回ネット通販に切り替わった買い物の多くはネット通販にとどまるだろう。
AmazonのCEOのジェフ・ベゾスは「現在は、今年第2四半期が赤字になるのも覚悟して、コロナで急増した需要に応えるための商品の確保と従業員の安全の改善に力を入れている。われわれは目先の利益だけにこだわるものではない」と言っている(3)。今回の非常事態を、将来のさらなる大きい飛躍のための踏み台として活用しようと考えているようだ。
Resilientな社会の実現を!
現在の社会では、政府がいくら外出の自粛・禁止を唱えても、それを実行するのが困難なことが多いことが分かった。
今回の新型コロナは今後何年にもわたり何回も繰り返される恐れが大きいので、それに耐えられるだけの社会インフラの改革が必要である。それには、政府、流通業者、消費者が力を合わせて協力する必要がある。
英語には"resilient"という言葉がある。日本語にすれば「(災害等に対して)回復力がある」、「(逆境に)しぶとい」、「(負け戦に)へこたれない」というような意味である。われわれには"resilient"な社会の実現が強く求められている。
[関連記事]
(1) "Amazon.com Announces Fourth Quarter Sales up 21% to $87.4 Billion", January 30, 2020, Amazon
(2) "Amazon.com Announces First Quarter Results", April 30, 2020, Amazon
(3) "Amazon Says It Will Risk Loss to Cover Jump in Pandemic Spending", 2020年5月1日, Bloomberg