(2001)
脱Mozillaに四苦八苦!・・・その結果は?
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2020/3/14
1995年からNetscape系ソフトを使い続けてきた
1994年に米国のNetscapeがウェブの閲覧と電子メールのための端末用ソフト"Netscape"の販売を始め、本格的なインターネットの時代が始まった。
私は「これは世界に大変革をもたらす」と感じ、1995年に私用のパソコンにこのソフトをインストールして使い出した。そして、その可能性を探るため、1996年にウェブサイト「Tosky World」を開設して、雑文や趣味の水彩画の掲載を始め、今日に至るまで続いている。
企業としてのNetscapeは1999年になくなったが、Netscape系の製品の提供はその後も続いていた。しかし、2003年にMozillaという非営利団体が跡を継ぎ、ブラウザは"Firefox"として提供し、電子メール・クライアントは"Thunderbird"として提供するようになった。
その後、製品名や提供者は変わったが、Netscape系の技術は今日に至るまで延々と生き続けている。
私は、途中で何回か他の製品に乗り換えたこともあったが、結局このNetscape系に戻り、この25年間これをインターネットの主要な道具として使ってきた。私の製品選択基準である、(a)ユーザーが多いこと、(b)仕様がオープンで、他製品の取り扱いが平等であること、(c)使い勝手がいいこと、の3点で他の製品より圧倒的に優れていると感じたからだ。
(a)の「ユーザーが多いこと」は、ソフトウェアが関係する製品には特に重要である。原価の大半が人件費で、ユーザーが多ければ1ユーザー当たりの原価の負担が軽くなり、その結果、高品質、高信頼性が実現できるからだ。
ところが、この点でMozillaの製品が近年変調をきたしていることを昨年知って驚いた。
Firefox、Thunderbirdのシェアが激減!
1990年代の中頃には、ブラウザの市場でNetscapeのシェアが90%以上だった。まだ他社の製品が遅れていたからだ。
しかし、 その後Microsoftの"Internet Explorer"やGoogleの"Chrome"等にどんどんシェアを奪われ、2020年2月にはシェアは4.6%にまで落ちた(1)。
一方、メール・クライアントの世界でのThunderbirdの利用状況は最近1%にも満たない(2)。
こういう状況でFirefoxやThunderbirdを使い続けることは製品品質の維持、将来の機能拡張が困難になり、私の製品選択基準(a)に大きく反する。
そこで昨年(2019年)9月、まずブラウザをChromeに切り替えてみた。図1のように、近年はChromeがシェアを急速に伸ばし、2016年以降60%を越えているからだ(3)。
5か月間Chromeを使ってみたが・・・
ところがどうも使い勝手が悪い。どれも使い勝手の小さな問題なので、使っているうちに慣れるだろうと思っていたが、5か月経ってもなじめない。例えば次のような点である。
・ タブの固定
FirefoxにもChromeにも、よく閲覧するページのタブを小型にして常時決まった位置に表示しておく機能がある。これを使えば、いちいちブックマークを捜さなくてもいいので便利だ。ところがChromeではタブのページから外部のページにリンクすると、そのタブが書き換えられてしまって二度と使えない。Firefoxでは、外部のページにリンクすると、元のタブはそのままにして別のタブを作るのでこのような不都合は起きない。
・ ブックマーク
Chromeでは、Firefoxのブックマークが「Firefoxブックマーク」と表示されて、そのまま使うことができるので便利だ。Googleもその優れた点を認めたのだろう。ところがこの「Firefoxブックマーク」は、常時表示しておくことができず、必要な時に毎回開かなかければならない。私は、デスクトップPCではFirefoxのブックマークをページの左端に開きっぱなしにしていたので、いつでもすぐ使えた。
私は元々自分で作成したウェブページが各種のブラウザで問題なく表示されることを確認するため、Firefoxの他、Chrome、Internet Explorer等、複数のブラウザを使っていた。また、ウェブページの印刷などで、一つのブラウザでうまくいかない時は他のブラウザを使っていた。 今回通常使うブラウザをFirefoxからChromeに切り替えてみたが、上記のような問題があるため、再度Firefoxに戻ることにした。
Thunderbirdが突然使用不能に・・・
Thunderbirdのシェアの低下はFirefoxよりもひどく、最近は1%を切り、ベスト10にも入らなくなってしまった(2)。さらに困ったことに、昨年の自動更新以来、アカウントの設定変更の画面が変わってしまい、アカウントの設定変更ができなくなってしまった。いろいろ試行錯誤してみても、ウェブ情報を捜しまわっても、手がかりが得られない。同一設定で使い続けている分には問題ないのだが、何かあった時にこれではどうしようもない。
Thunderbirdの代替品としてはMicrosoftのOutlookとGoogleのGmailが考えられた。
Gmailは元々電子メールシステムとしてのGmailの端末側ソフトとして開発されたものなので、電子メール・クライアントとしては問題があるのはないかと思っていた。そして、ユーザーのメールをサーバー側で蓄え、広告配信に活用しようというGoogleのやり方に抵抗を感じていた。
そこで、まずOutlookの採用を試みた。しかし、アカウント設定の途中で問題が起きて先へ進めず、断念した。
そして、現在のGmailには電子メール・クライアントとしての機能が一応揃っているようなので、これを使ってみることにした。ところが、これが一筋縄ではいかなかった。
Gmailに悪戦苦闘
電子メール・クライアントに要求される基本的な機能に「複数のメール・アドレスを平等に扱えること」がある。
私の場合は、友人・知人にだけ知らせているアドレス、小売業/金融機関/メディア等に公開しているアドレス、私のウェブページの読者との連絡用のアドレス(以上には独自ドメインを使用)、インターネット・サービス事業者との連絡用のアドレス(2種・・・その一つはGmail)、女房の設定支援のためのアドレス3種(その一つはGmail)の計8種だ。
友人・ 知人用と一般公開用を分けているのは迷惑メールの混在を減らし、受信メールボックスを見やすくするためだ。インターネット・サービス事業者用は、私が持っている一般公開用アドレスを使ってくれれば不要なのだが、事業者にとってはこれを使わせることが商売なので致し方ない。
そして重要なことは、これらのアドレスごとに、受信メール、下書き、送信済みメール、テンプレート、迷惑メール、ごみ箱等の入れ物が用意されていることだ。また、アドレス帳も複数使い分けられることが望ましい。
Gmailは、これらの点について開発当初から考慮されていないので、現在のGmailの機能でこれを実現するのは大変だ。Thunderbird等でメール・アドレスごとに用意される「フォルダー」を、Gmailでは「ラベル」を使って人手で作る必要がある。また、フォルダーごとに自動的に作成される「受信メール」、「送信済みメール」等の「サブフォルダー」を各ラベルの下に「下位ラベル」として人手で作る必要がある。そして、どのメールをどのラベル/下位ラベルの下に入れるかを「フィルタ」として定義しなければならない。
少しやってみたが、大変な手間なので諦めた。これをやれば送受信がちゃんとできるのかどうかも分からない。
脱Thunderbirdに挑戦した理由の一つは、上に記したようにアカウントの設定変更ができなくなってしまったためだった。しかし、この問題がある日突然解決した。表示された「アカウント設定」のウィンドウの右下の隅を下に引っ張ったら、必要な情報がすべて表示されたのだ。まったくバカバカしい話だが、こんなことはどこにも書いてないようだ。
こうして、電子メール・クライアントの切り替えに約1.5か月挑戦したが諦め、結局Thunderbirdを使い続けることにした。
Mozillaはどうなる?
当面FirefoxとThunderbirdを使い続けることにしたが、これらは今後どうなるのだろうか? シェア激減の背景など、今までろくに知らずに使ってきたが、これまでのNetscapeからFirefox/Thunderbirdに至る推移を調べてみた。
1995年にNetscapeの提供が始まった。
1998年にNetscape社の中にmozilla.orgという、Netscapeの開発を取りまとめ、ソースコードを無料で提供する組織が作られた。
1999年にAOLがNetscape社を買収した。
2003年にMozilla Foundation(非営利団体)がAOLから独立して設立され、mozilla.orgの業務を引き継いだ。
2004年に、ブラウザはFirefoxという名前で提供され、電子メール・クライアントはThunderbirdという名前で提供されるようになった。
2005年にMozilla Foundationの小会社Mozilla Corporation(営利企業)が設立され、技術供与業務等を担当することになった。
2012年に、Mozillaが、「(Firefoxは別にして)Thundrebirdの今後の強化からは手を引く」と表明し大騒ぎになった。
2017年に、Mozilla Foundationが今後もThunderbird関連業務の推進役をつとめると表明した。
2020年に入って、今後Thunderbirdは(Mozilla Corporationから離れ)新設の子会社MZLA Technologies Corporationが担当すると発表した。
1996年~2009年のブラウザのシェアの推移を図2に示す(3)。 Netscape (緑) + Firefox (赤)の推移を見ると、1996年に80%程度あったものが、2001~2005年には10%以下に減り、その後20%台に回復している。
しかし、図1によると、Firefoxのシェアは2009~2010年頃いったん30%程度に盛り返した後再び減り続け、現在は10%程度である。
これには、上記の1999年以降のMozillaの管理体制の混乱が影響しているものと思われる。 上に記したように、2017年以降管理体制が改善されたということなので、今後が期待される。
Netscapeの設立当初から参画し、現在Mozilla FoundationとMozilla Corporationの取締役会議長を務めているMitchell Baker(女性)等に対する期待は大きい。
[関連記事]
(1) "Browser Market Share Worldwide - February 2020", Statcounter
(2) "Email Client Market Share - February 2020", emailclientmarketshare.com
(3) "Browser Wars", Wikipedia