home > Tosky's IT Review

   (1901)

「Yahoo!Japan」の正体は?

・・・NHKスペシャルを見て

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2019/5/13

NHKスペシャルに違和感

NHK総合テレビの「 NHKスペシャル」は、世の中であまり取り上げられていない問題に脚光を当ててくれ、初めてその実態を知ることができるものが多い。私が最近見たものでも、例えば、ハンセン病の扱いとか、優生保護法について、何故現在のような問題が起きてしまったのか初めて実態を知ることができ、深く考えさせられた。日本の数あるテレビ番組の中では最も見る価値があるものと思っている。

しかし、今年(2019年)4月28日に放映された「平成史(8) 情報革命ふたりの軌跡~ネットは何を変えたか」には、見ていて違和感を覚えた(1)。ここで取り上げられた二人とは、Yahoo!Japanの元社長 井上雅博氏とWinny(Peer-to-Peerのファイル交換ソフト)の開発者の 金子勇氏である。このうち特に違和感を感じたのは井上雅博氏についての内容だ。

同氏はYahoo!Japanで、インターネット上の「生活に必要なあらゆる情報の集積」を図ろうとしたという。そしてその結果、Yahoo!Japanの1か月の利用者が6,700万人と日本一になり、2007年には月間ページビューが318億になって世界一を記録したという。確かに大変な記録である。しかし、この数字の意味するところは、はたして何なのだろうか?

検索は「ディレクトリ型」から「キーワード型」へ!

1989年にインターネットのウェブが生まれ、ウェブ上の情報がどんどん増えると、どこに目的とする情報があるかを捜す「検索手段」が非常に重要になった。

そこでウェブ上の情報をカテゴリに分けて、大分類>中分類>小分類とたどって行けば、目的とするウェブサイトにたどり着くことができるような「ディレクトリ型」の検索手段が世界中に多数現れた。それらは「ポータルサイト」と呼ばれるウェブの世界への「入口サイト」の重要な機能になった。

各検索用ディレクトリは、基本的には人手によって構築された。そして、ウェブサイトを作った人は、ディレクトリに登録されないと閲覧者に見てもらえないため、ポータルサイトにディレクトリへの登録を依頼した。

私は趣味で絵を描いていたので、それをウェブに掲載し、それを米国のポータルサイトに登録してみた。すると、同じディレクトリに登録していた何人かの人と知り合いになることができ、メールを交換していた。

米国のYahoo!も日本のYahoo!Japanもこういうポータルサイトの一つで、1990年代にはこうしたディレクトリ型の検索機能がサービスの中心だった。

しかし、 ウェブサイトが爆発的に増えると、このような人手に頼った検索手段では対応しきれなくなった。そのため、コンピュータのプログラムが世界中のウェブサイトを全文検索し、キーワードを収集して登録しておき、その中からユーザーが指定したキーワードを含む記事を捜しだす「キーワード型」の検索手段が生まれた。(これは「ロボット型」とも言われるが、ロボットを使うか否かはサービス提供者側の問題でユーザーには関係ないので、ここでは「キーワード型」と呼ぶことにする。)

近年は、 こういうキーワード型の検索が急速に普及し、その中でGoogleの検索エンジンが圧倒的なシェアを占めるようになった。そのため、2010年からYahoo!JapanもGoogleの検索エンジンを使うようになった。そして、2018年にはディレクトリ型の検索から撤退した。

StatCounterの統計によると、現在全世界のウェブ検索の92%にGoogleの検索エンジンが使われているという(2)。 こうして、検索サービスの提供で始まったYahoo!Japanも、検索ではGoogleの傘下に入った。しかし、NHKの番組では、こうしたいきさつには全く触れなかった。

では、現在Yahoo!Japanの事業の中心は何なのだろうか?

Yahoo!Japanは情報のスーパーマーケット

現在Yahoo!Japanが提供しているサービスは非常に多岐にわたっている。

先ず、メール、カレンダー、掲示板などのウェブ上の基本的なサービスがある。

そして、ニュース、辞書、株価情報、天気予報、地図、路線案内等の生活に必要なさまざまな情報の提供がある。これらはほとんど、Yahoo!Japan自身が生み出した情報ではなく、他社から提供された情報を、ユーザーが見やすく使いやすい形にアレンジして提供しているものだ。

そして、物品、電子書籍、映画等の販売がある。また、ホテルの部屋、航空機や列車の座席の予約や販売もある。これらは、商品を仕入れて販売するのではなく、他社の商品が売れたら、その販売手数料をもらい受けるものだ。

私も、株価情報、路線情報、天気予報については、Yahoo!Japanをよく使っている。情報の提供の仕方がよく考えられていて、便利なためだ。しかし、その他のサービスについてYahoo!Japanを使うことはほとんどない。

こういうビジネスの実態についても、NHKの番組は全く言及しなかった。しかし、これが毎月6,700万の人が利用して、日本一のシェアを獲得しているというYahoo!Japanの実態である。

ネット上では、スーパーマーケットは専門店に勝てない?

 物理的な小売店で買い物をするなら、品揃えや品質に多少問題があっても、1個所で何でも揃っているスーパーマーケットやデパートが便利だが、インターネットで買い物をする場合は、各分野ごとの専門店(つまり専門サイト)へ行っても、手間や時間はそんなに違わない。従って、少しでも品揃えが多く、品質の良い商品を揃えている専門サイトを利用することになる。

そのため、各サービスごとの優勝劣敗が厳しく、一強多弱になりがちな世界だ。 こういう世界でサービス全体で日本一の利用者数を獲得したということは大変なことである。

広告媒体としてはメリット大

各サービス分野について、品揃えが豊富で、高品質なことは利用者にとって非常に重要だが、提供する全サービス分野についての利用者数が多いことは、実は利用者にとってはどうでもいいことである。しかし、それは、そのサイトを広告媒体として使う側にとっては大変メリットが大きい。

Yahoo!Japan!のようなサイトでは広告料収入が大きな割合を占めている。そのため、ユーザーの性別、年齢、職業、収入、学歴、居住地、趣味等が多種多様で、広告の配信先が多いことは、広告を掲載する者にとっては大変値打ちがある。

サイトの利用者にとってのメリットと、広告媒体として使う者にとってのメリットは別である。これはYahoo!やYahoo!Japanに限った話ではないが・・・

こういう、ビジネスのからくりに触れないで、利用者数が世界一だ、日本一だと言うのは、誤りではないにしても、あまり適切とは思えない。

「広告料収入で情報を無料で提供する」という米国Yahoo!の創業者ジェリー・ヤン氏の発想を即座に理解したのは井上雅博氏だけだった、とこの番組のナレータは言っていた。しかし実は、「情報を無料で提供することによって、広告料収入を稼ぐ」ことが当初からの狙いだったのだと思う。ビジネスの目的と手段を取り違えている。

このことをはっきり認識しないと、現在のインターネット・ビジネスの実態を正しく理解できないし、将来のビジネスの展開もおぼつかない。

 

[関連記事]

(1) 「平成史(8) 情報革命 ふたりの軌跡~ネットは何を変えたか」、NHKスペシャル、2019年4月28日21:00~21:50放映、NHK

(2)  "Search Engine Market Share Worldwide --- Apr 2018 - Apy 2019", StatCounter    


Copyright (C) 2019, Toshinori Sakai, All rights reserved