RFIDがついに離陸?・・・ユニクロが全面的に採用
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2018/12/17
ユニクロがRFIDを全面的に採用!
商品に 価格などを表示する値札やバーコードを付ける代わりに、RFID (Radio-Frequency Identification)のタグを取り付けることによって在庫管理やレジの合理化を図ろうという試みが1999年に米国で始まった。それ以来約20年間、いろいろな試みがなされたが、当初の目標を完全に実現できたものはまだなかった。
ところが最近、衣料品の小売店のユニクロやGUを運営しているファーストリテイリングがこれに本格的に取り組み始めた。まず2015年にGUの4店舗で試行を開始し、全商品にRFIDのタグを取り付け、タグのリーダを各レジに設置してレジを無人化した。
顧客はこの「セルフレジ」で、買い物した品物を箱に入れてタグを一括して読み取らせ、その金額をクレジットカードや現金で支払えば、店員とまったく会話を交わすことなく買い物を済ますことができる(1)。
この試行を踏まえて、2017年8月には国内のGUの約半数にあたる176店にセルフレジが導入された。 そしてファーストリテイリングは、2,000店のユニクロを含む全世界の3,000店で、1年以内を目途にこのシステムを導入するという(2),(3)。
このユニクロの挑戦は、はたして成功するだろうか? 先ず、今までの失敗に帰した試みを振り返ってみよう。
RFIDの苦難の道のり
1999年にケヴィン・アシュトンがMIT(マサチューセッツ工科大学)にオートIDセンタ(現:EPCglobal)を設立して、全商品に製造段階で無線タグを取り付け、それを製造から販売に至る全段階で商品の受け渡しや在庫管理に使うことによって合理化を図ろうとした。そして、米国最大の小売業者であるウォルマートが全社を挙げてこの計画に取り組んだ。しかしその実現は難航を極めた(4)。
当時はタグが高価で、個々の商品にタグを取りつけることが困難だったため、2003年には、商品を運搬するパレットやケースに取り付けることにした。そして、上位100社の納入業者に対して、2005年からタグを取り付けることを要求した。しかしこの要求は納入業者の強い反発を招いた(4)。
そのためウォルマートは方針を変更し、2008年に「Sam's Club」という、商品を輸送用の梱包のまま販売する倉庫型店舗で先ず適用することにした(5)。
その後同社は再度方針を転換し、2010年から衣料品に限定して適用することにした。
そして2015年以降、ザラ(ZARA)、メイシー、ターゲット、H&M等も、衣料品を中心とする一部の商品にRFIDを適用するようになった。しかし、全店舗の全商品にRFIDを適用するという当初の目標はまだどこも実現していない。
こういう状況下で、ユニクロは全店舗の全商品にRFIDの適用を開始することにした。では、ユニクロにとって、RFIDを適用する事業環境は現在どういう状況なのだろうか?
ユニクロにとってのRFIDの状況は?
(1) タグの価格低下
小売業にとってRFID適用の最大の障壁はタグの価格だった。
当初はタグが100円以上したため、安い商品に取り付けることは不可能だった。タグが数10円に値下がりすると、ウォルマート等の先進的小売業者がRFIDの試行を始めたが、それが難航したのは前記の通りである。
しかしその後、一部の衣料専門店などで採用が進み、タグの生産量が増えて、最近は単価が10円前後になったと言われている。従来に比べれば、障壁の高さは格段に下がった。
タグの価格が下がれば、全商品に適用しやすくなる。全商品に適用すれば、レジでも使えるようになり、RFIDのメリットが一段と向上する。そうなれば、RFIDを採用する企業が増え、タグの生産量が増加し、タグはさらに安くなる。
タグの価格低下と採用企業数の増加は鶏と卵の関係で、何らかのきっかけでこの関係がいい方向に回り出さないと、事態はいつまで経っても改善しない。
しかし、これは全小売業者にとって嬉しいことで、何もユニクロに限った話ではない。
(2) 製販一体
一般のデパートやスーパーマーケットは、商品の製造業者が作った品物を小売業者が販売する「製販分離」である。それに対してユニクロは、自社で製造も販売も行う「製販一体」だ。
「製販分離」の場合は、RFIDのタグの取り付け作業、コスト負担を製造業者、小売業者のいずれが負うかが常に大きな問題になった。製造業者は、RFIDの主たる受益者である小売業者が負担すべきだと言い、小売業者は、製造業者も在庫管理の合理化等で恩恵を被るのでコストを負担するべきだと主張した。そして、ウォルマートなどが、大企業の強みから、タグの取り付け作業とそのコスト負担を製造業者に押し付けようとしたことが問題の解決を困難にした。
この点ユニクロやH&M、ZARAのような「製販一体」の企業の場合は、一企業内の分担の話なので、話は簡単である。
(3) 限定された価格帯域
デパートやスーパーは商品の種類が非常に多く、その単価も数10円のものから高額なものまで幅広く広がっている。それに対しユニクロ等の衣料専門店の商品の単価はおおむね1,000円程度以上だ。
商品の単価が小さいとタグの費用の負担が厳しいため、ウォルマートは一時、商品ごとではなく、商品の輸送用のケースにタグを付けたこともあった。しかしこれではレジでRFIDを活かすことができず、RFIDのメリットが半減した。
ユニクロに限った話ではないが、衣料専門店では商品の単価の広がりが限定されていることもRFIDの適用を容易にしている。
新技術採用には「向き不向き」と「タイミング」が重要!
上記のように最近のRFIDの状況が特にユニクロだけに有利に働いているわけではない。 ユニクロは、いろいろな面でRFID適用の事業環境が整ったことを見極めて、セルフレジを全店に投入するという思い切った投資をし、一挙に他社に差を付けようとしているものと思われる。ウォルマートなどの20年近くにわたる努力はなかなか実を結ばなかったが、RFID実用化の下地作りには大きく貢献した。
ユニクロの計画の成果が明確になるのはまだ先だが、新技術の導入は早すぎても遅すぎてもダメで、「タイミング」が重要だということが分かった。そして新技術にも「向き不向き」があって、その見極めが重要なことも分かった。
そういう意味では、現在経産省が中心になって進めているコンビニへのRFID適用の計画は、前に本サイトでも指摘したように、「向き不向き」の点からも、「タイミング」の点からも疑問が大きい(6)。
[関連記事]
(1) 「GUのセルフレジを体感 時間短縮で満足度UP ファストリ」、2015年5月30日、プリント&プロモーション
(2) 「ユニクロ、世界でICタグ、瞬時に精算、在庫管理も。」、2017年11月7日 、日本経済新聞
(3) 「ユニクロ/全商品にRFID貼付、製造から販売まで生産性を向上」、2018年10月17日、流通ニュース
(4) 酒井寿紀、「バーコードを置き換えようとするRFIDの市場動向」、「Computer & Network LAN」、2004年1月号、オーム社
(5) "Sam's Club Tells Suppliers to Tag or Pay", Jan 11, 2008, RFID Journal
(6) 酒井寿紀、「成るか、20年目の正直?・・・全商品に電子タグ」、2017/04/30、Tosky's IT Review