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スマートフォンに新時代到来!?

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2018/7/17 

従来は小型パソコン

2007年にiPhoneが登場してから11年経った。しかし、今までのスマートフォンの使い方は、ウェブの閲覧とか、メールの送受信とか、従来パソコンを使っていたものを、スマートフォンで行うものがほとんどだった。

確かにスマートフォンを使えば、従来書斎や事務所でしかできなかったことが、電車の中などでもできるようになって便利だ。しかし、キー入力の操作性や、画面の一覧性ではデスクトップPCの方が圧倒的にまさるため、スマートフォンもデスクトップPCも使える環境にいる時は、デスクトップPCを使っている人が多いだろう。

しかし最近、スマートフォンを使うことによってはじめて威力を発揮するアプリケーションにいくつか出くわした。先ず、私の最近の体験をご紹介しよう。

私はスマートフォンのアプリケーションに詳しいわけでもなく、また系統的・網羅的に調べたわけでもないので、中には誤解や偏見があるかもしれない。私よりはるかに詳しい読者も多数おられることだろう。

そして、私が使っているのはAndroid系のスマートフォンなので、iPhoneには当てはまらない点があるかもしれない。

今鳴いている鳥の名前は?

最近私は野鳥の鳴き声に興味を持っていて、近所を散歩している時や山を歩いている時に、聞き覚えのない鳥の声を聞くと、スマートフォンで録音しておいて帰宅後YouTube等の鳴き声と比較して何の鳥か調べている。

しかし、これが簡単にはいかない。シジュウカラはだいたい分かるようになったと思っていた。そして、これと似ているが明らかに違う鳴き方をする鳥が家の近所に来るので、これはカラ類の別の鳥だと思っていた。しかし、ある時この鳥を双眼鏡で見たら、それはシジュウカラの特徴である黒ネクタイを締めていた。シジュウカラの鳴き方にもずいぶん個体差があることをはじめて知った。

また、上高地を歩いていると、やはりカラ類で甲高いテンポの速い鳴き方をする鳥に出会った。その鳴き声を録音しておいて、河童橋のそばのビジターセンターの係員に聞いてもらうと、それはヒガラだと教えてくれた。カラ類の鳴き声の区別はかなり難しいようだ。

この他、録音したが名前が分からない鳥が何種類かある。「鳥の鳴き声を聞かせると、どの鳥か教えてくれるソフトがないものだろうか?」と思っていた。

先日、子供の家族と食事をしていてこの話をすると、アプリの販売サイトをササッと調べてくれて、「Bird Radarというソフトがあるようだ」と教えてくれた。何でもその場ですぐスマートフォンを調べるところが、我々の世代とはまったく違う。このアプリは内臓マイクで鳥の鳴き声を拾って、何の鳥か識別する(1)。私の目的にピッタリだ。

早速これをインストールして、実力の程を調べてみた。ソフトには無料版と有料版(500円)があるが、無料版は機能がごく限られているようなので、使いものになるのかどうか分からないが有料版を購入してみた。

試しに少々使ってみて驚いた。YouTubeや私が録音した鳥の鳴き声で、このソフトが識別できたのは、シジュウカラ、スズメ、キジバトだけだ。その他に、ウグイス、ホトトギス等の鳴き声を聞かせてみたが、全滅だった。説明書によると、現在識別できるのは21種だけだというので無理もない。

現状は、鳴き声のデータベースの量にも、鳴き声の一致を判定するアルゴリズムにも、改善の必要があるようだ。少なくとも、日本の野山で聞こえる鳴き声の半分以上は識別できないと、使われなくなるのではないかと思う。ソフトの狙いは正しいと思われるので、今後の改善を期待したい。

類似のソフトとしては、虫の鳴き声の識別なども考えられるだろう。

そして、音声だけでなく画像の認識技術も急速に進んでいる。これを応用して、スマートフォンを昆虫や花に向ければ、その名前を教えてくれるソフトも期待したい。これを使えば、写真を撮って、帰宅してからインターネットの画像データを調べ回る必要がなくなる。

聞こえてくる音楽の曲名は?

子供一家と 上記の話をしていた時、似たようなアプリとして、聞こえてくる音楽の曲名を教えてくれるソフトがあると聞いたので、調べてみた。

すると、「Shazam」という、1999年に米国で作られた、150か国以上で合計10億回以上ダウンロードされたソフトがあるという(2)。「Shazam」とは超人的な能力を備えた漫画の主人公の名前だそうだ。「スーパーマン」のようなものなのだろう。これは米国では「シャム」と「」にアクセントを置いて呼ばれている。

このソフトの ごく一端に触れただけだが、これがなかなかすごい。バッハやモーツァルトからチャイコフスキーやラヴェルまで、曲の一部を聴くと、直ちに曲名を教えてくれる。クラシックばかりではない。フランク・シナトラやペリー・コモ、イヴ・モンタンやエディット・ピアフ、小田和正や谷村新司など、何でもござれだ。

からくりはよく分からないが、 曲名だけでなく、カラヤン指揮のベルリンフィルとか演奏者や歌手名まで正確に当てるものが多い。ジョーン・バエズ、スーザン・ボイル、ヘイリー・ウェステンラの3人の歌手による「Amazing Grace」を聞かせたら、全歌手を正確に当てたのには驚いた。もっとも、こういう曲は、歌手によって音の高さや曲の速さが違うので、クラシックの演奏者を当てるよりはるかに易しいと思うが。

ただし、識別できない曲、第1楽章は識別できても、第2楽章はできないもの、あるいは、その逆のものもあるようだ。また、美空ひばりや北島三郎の歌はまったく識別できなかった。日本人の歌でも、ニューミュージック系はデータベースに登録されているが、演歌は登録されてないのだろうか? 

いずれにしても、公正な評価をするには、あまりにも使用歴が短かく、これらはごく断片的な情報に過ぎない。

あの山の名前は?

昨年の秋、富山市内でタクシーに乗っていたら、前方に立山連峰が実にきれいに見えた。すると運転手が、「その右手の遠方に白く光って見えるのが乗鞍です」と言う。乗鞍といえば北アルプスの南の端で、それより近く、標高も高い槍や穂高が前方の山にさえぎられてまったく見えないのに、乗鞍が見えるとは信じられなかった。しかし、地元の年配の運転手がでたらめを言うとも思えず、半信半疑で東京に帰ってきた。

その後富山県出身の人に会うたびに、「富山市から乗鞍が見えると思うか?」と聞いてみたが、みんな私同様否定的だった。

今年の5月に61年振りで上高地に行った。槍や穂高に登った前回とは違い、今回は明神池までしか行かなかったが、途中で見える山に、名前がよく分からないものがあった。山の名前を表示した看板が用意されているところもあるが、設置場所が限られ、実物と看板の絵の対応がはっきりしないものもあった。

鳥の鳴き声や曲名がスマートフォンで分かるなら、山の名前も分からいものかと考えた。日本中の地形のデータをデータベースに登録しておけば、GPSで分かる現在地とデータべースで分かる現在地の標高から、どの方向にどの山が見えるかが全部分かるはずだ。そういうアプリがないものか調べてみた。

すると、「AR山ナビ」というアプリがあることが分かった。「AR」はAugmented Realityの略だ。スマートフォンのカメラで撮った山の写真に山の名前や標高を貼り付けるようになっている(3)。私が考えていたように、地形データから山の姿を計算して表示するのではなく、実際の山の写真を活用する。

何せインストールしたばかりで、実際にはまったく使ってないので、まだ評価はできない。今度山の方に出かけたら、是非使ってみたいと思っている。5月に上高地に行った時、こういうアプリがあるとは知らず、惜しいことをした。

これと似たような目的のアプリとしては、大都会で高層ビルの名前を表示するソフトも考えられるように思う。

これとは別に、「Sky Map」という、スマートフォンを夜空にかざすと、その方向に見える星の名前を教えてくれるアプリがある(4),(5)。これは一見山の名前を表示するソフトと関係がないようだが、GPSから得られる位置情報と、加速度センサ、方位センサ等から得られるスマートフォンの向きの情報を使って、星空を表示するものなので、情報処理的には同じ種類のものだ。

こういうアプリは、人間に見えるものを教えてくれるだけでなく、人間に見えないものが、実はどの辺にあるかを教えてくれる。例えば、「 "Sky Map"で夜空を眺めよう!」(5)に記したように、「Sky Map」を使えば、まだ東の地平線の下にある星や、すでに西の地平線下に沈んでしまった星の天球上の位置を示してくれる。同様に、日本からは見ることができない南十字星などの位置も分かる。

同じ様に「AR山ナビ」でも、手前の高い山にさえぎられて見えない遠方の山を、参考までに表示することも考えられる。この機能を使えば、前述の富山市から乗鞍が見えるかどうかの問題もはっきりする。

そして、 どのスマートフォンにも高度センサがつくようになれば、テレビ塔の展望台から見た山の名前やビルの名前もより適切に表示されるようになるだろう。

バスはあと何分で来る?

こういう、ほとんど何の操作もなしに使えるソフトとしては、半年ほど前から「バスいまどこ?」というアプリを使っている(6)。これは、あらかじめバス停と行き先の方面を設定しておくと、その方面へ行くバスが今どの辺を走っていて、あと何分で着くかを表示してくれるものだ。始発駅から1時間近く走ってくるバスは、到着時間がまったく当てにならないので、非常に助かっている。こういう情報をクチコミで聞いてみんなが使いこなしているのには感心する。

現在は、バス停の名前を人手で入力するようになっているが、これがGPS機能で自動的に取得されるようになれば、一段と便利になるだろう。「AR山ナビ」や「Sky Map」がすでにやっていることなので、技術的問題はなく、近年中に実現するだろう。現在地以外のバス停については人手でバス停を指定することになるが、これはやむを得ない。 

スマートフォンに新時代到来!?

ここに記したソフトの共通の特徴は、データの入力がほとんどセンサからで、人手入力がほとんど不要なことだ。アプリを起動すれば、その場で現時点に必要な情報を直ちに取得することができる。その情報は、スマートフォンの位置と角度、スマートフォンが検知する音声や画像によってさまざまに変わる。これはデスクトップPCとは全く違う使われ方だ。スマートフォンは、もはや小型のデスクトップPCではない。

この種のアプリケーションは最近出現したばかりなので、今後どんどん増えるだろう。将来のスマートフォンにとっては、この種のアプリケーションが主役で、従来のパソコン時代から引き継いだアプリケーションは脇役になるかも知れない。

こうして、スマートフォンは新時代を迎えることになりそうだ。

 

[関連記事]

(1)  「BIRD RADAR」、Google Play(大成情報技術)

 (ご注意)現在「BIRD RADAR」はGoogle Playでは購入不能です。(18/7/17)

(2)  "Shazam", Google Play (Shazam Entertainment)

(3) 「AR山ナビ -日本の山16000-」、Google Play (ARYamaNavi)

(4)  "Sky Map", Google Play (Sky Map)

(5) 酒井寿紀、「"Sky Map"で夜空を眺めよう!」、Tosky's IT Review2017/01/20

(6) 「バスいまどこ?」、Google Play (hatalab)


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