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公衆Wi-Fiはどうなる?

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2018/6/28 

大半の月はモバイル通信料金ゼロ!

スマートフォンをインターネットにつなぐ時は、携帯電話会社のモバイル通信回線を利用するか、自宅や駅などのWi-Fiを利用することになる。

私がスマートフォンを使い始めた2011年頃は、モバイル通信回線は高価で、Wi-Fiに比べて低速だった。そして、私がスマートフォンでインターネットを使うのは、自宅やホテル、駅やコーヒー店などのWi-Fiが使えるところが主だった。つまり、「モバイル」状態ではなく、モバイル通信回線を使っても、その本来の特徴を生かせないところだった。

そこで、モバイル通信の契約は料金に上限がある従量制にし、インターネット接続がWi-Fiだけの月はモバイル通信料金がゼロになるようにし、旅行先でモバイル通信によるインターネット接続を大量に使った月でも、料金が上限を超えることがないようにした。

私の契約ではこの上限が5,700円(税別)だった。インターネットを少し使えばすぐこの金額になってしまったが、旅行に出かけるのは年に二、三回で、その時以外はモバイル通信をオフに設定していたので、大半の月のモバイル通信料金はゼロだった。

「歩きスマホ」などとは全く縁がない私には、これで充分だった。・・・が、しかし、最近事情が変わった。 

MVNOのモバイル回線に切り替え

最近の出来事の一つは、バスの走行状態を見られるアプリが登場したことである。私は週に何回かバスを利用するが、バスの到着時間が極めて不正確で、何十分も待たされることがざらにあり、歩く距離が多少延びても他の行き先のバスを利用した方が早く目的地に着けることがある。このアプリを利用すると、行き先ごとにあと何分で到着するかが一目で分かるので、極めて便利だ。これを使うためには、Wi-Fiがないバス停でインターネットに接続する必要がある。

年配の女性がこのアプリを使いこなしているのを見て、「紺屋の白袴になってしまったわい」と感じたものである。この他にも出先で使うと便利なアプリがいろいろ出てきているのだろう。

もう一つの事情は、駅で電車を待っている時、インターネットでニュースを見ることがあるが、通信事業者が提供しているWi-Fiがなかなかつながらないことが多い。そのうち改善されるだろうと思っていたが、どうも一向に改善しないようだ。そして、新聞記事などに、従来は自宅でWi-Fiでダウンロードしたものを、外出先でインターネットに接続せずに読めたが、最近はそれができなくなったものがある。

これは、インターネットの常時接続が、コンテンツ提供の前提条件になってきたためであろう。

そしてもう一つの変化は、MVNO (Mobile Virtual network Operator: 大手通信事業者からモバイル通信回線を借りて、ユーザに安価に又貸しする事業者。いわゆる「格安スマホ」が使っている)の出現でモバイル通信料金が大幅に低下し、月額2,000円台の定額で使えるようになったことだ。

そこで遅れ馳せながら、私も今年(2018年)MVNOのモバイル通信回線に切り替え、現在はWi-Fiのない外出先でも自由にインターネットを使っている。

格安スマホに切り替えて、端末も韓国のサムスン製から中国の華為(フアウェイ)製に変わったが、何の問題もないようだ。従来の韓国製は、前世代のインターネット接続機能(iモード)や日本だけのテレビ視聴機能(ワンセグ)を備えていた。今回の中国製にはこれらの機能がないが、私には全く問題ない。いや、余計なものがなくなって、スッキリした。

今後機器を選ぶときは、極力国際標準仕様のものを選ぶべきだ。日本のメーカーや通信事業者は力の入れどころを間違っているようだ。

公衆Wi-Fiはどうなる?

通信事業者によるWi-Fiサービスは?

家庭内や事業所内のWi-Fiは別にして、日本のモバイル通信事業者が提供している公衆Wi-Fiサービスは今後どうなるだろうか? いわゆる公衆無線LANである。

かつては、モバイル通信回線よりWi-Fiの方がはるかに高速だったため、ソフトウェアや映像の大量のデータを転送する際、ユーザにとってWi-Fiは重要な機能だった。

通信事業者にとっても、モバイル通信網の構築中は、その容量不足を解消するため、モバイル通信のWi-Fiへのオフロード(負荷の移し替え)が重要だった。

しかし、今やモバイル通信回線の速度はWi-Fiに近づきつつあり、モバイル通信網の容量も充分大きくなり、モバイル回線に接続されたスマートフォンでもアプリケーションプログラムのダウンロードや映像の視聴が充分できるようになった。

通信事業者にとっては、Wi-Fiを使うよりも、極力モバイル通信を使ってもらった方が収入増になる。今やWi-Fi網はモバイル通信回線と、同一企業が提供するサービス間で競合する存在になった。

通信事業者が、その中核事業であるモバイル通信の需要を圧迫するようなWi-Fi網の整備に力を入れるわけがない。そのため、Wi-Fi網のサービスは一向に向上せず、ますます客が離れていく悪循環に陥っているのではなかろうか?

外国人にはWi-Fiが不可欠

しかし、モバイル通信回線だけでは解決できない需要がある。それは外国人のインターネット接続に対する要求だ。これは外国人に限らず、日本人が外国に行った時も同じで、全世界の共通問題である。

そのため、全世界の公共施設、ホテル、商業施設、交通機関などでWi-Fiの普及が急速に進んでいる。有料のものも中にはあるが、無料のものが圧倒的に多い。私は、海外でホテルを選ぶときは無料Wi-Fiの設備があることを第一の選定条件にしている。こういう人は他にも多いだろう。

自国の人に取っても、社会全体でモバイル通信の負荷をできるだけWi-Fiへオフロードすることは、有限なモバイル回線容量の有効活用を図るために重要である。

暗号化されてないWi-Fiは危険だと言う人もいるが、まともな金融機関やオンライン販売のサイトはすべて暗号を使っているため、端末とアクセスポイントの間だけそれとは別に暗号化することたいした意味はない。日本でも海外でもホテルのWi-Fiはほとんど暗号化されてない。企業が業務連絡などに使うメールに別途セキュリティ対策が必要なのは言うまでもない。これは、Wi-Fiを使う通信だけを暗号化すれば済む話ではない。

こうして、かなりの場所でWi-Fiが使えるようになっているが、その運営者がまちまちなため、ログインの仕方がみな違い、セキュリティのためと称して、メールアドレスやパスワードを要求するものもある。そのため、後日広告メールに悩まされることもある。

そして、大都会では無料のアクセスポイントがやたらと多く、その中には怪しげなものもあるようで、どのアクセスポイントを選んだらよいのかなかなか分からない。

公衆Wi-Fiは重要だが、一定の規制、サービスの標準化が必要である。

Wi-Fiの専業者によるサービスの活用も選択肢に?

これらの問題を解決するため、 米国のiPassという企業が提供しているサービスは、一度ログインすれば、世界180か国の6,400万のアクセスポイントが使えるという。ただこれは個人向けではなく、企業が主対象のようで、価格は利用者数によって異なるが月額25ドルからだという(1)。その詳細は公表されていないようだ。

iPassは1996年に設立された企業で、当初はアナログの電話回線を使ったダイヤルアップのアクセスポイントに接続するサービスを提供していた。私も一時これを使っていたことがある。しかし、こういう通信回線は使われなくなってしまったので、現在はWi-Fiのアクセスポイントのサービスを提供している。

こういうサービスを使うのも今後の選択肢の一つになるだろう。問題は、サービスの品質と価格の妥当性だと思われる。こういうビジネスが育つためには、一社だけでなく、競合する企業が現れて、競争市場が形成されることが必要であろう。

 

[関連記事]

(1)  "Intelligent Connectivity", iPass

(2)  酒井 寿紀、「3G/4Gか、Wi-Fiか?・・・モバイル通信の変遷」、エムエスツデー2015年7月号、エム・システム技研


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