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「改元特需」を過去のものに!

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2018/3/2 

改元特需に沸くIT業界や印刷業界?

日本政府は、2019年5月1日に改元することを決めた。

そのため、コンピュータのプログラム変更の大作業が発生すると騒がれている(1)。前回の1989年の改元時と違い、西暦の普及が進んでいるため、改元の影響は限定的なように思うが、それでも金融機関向けシステムの約半数に影響があるという(1)。前回と違い時間的余裕が充分にあるが、その間にこの作業をこなす必要があり、2019年5月の改元前後には、システムの切り替え作業、切り替え後の最終確認が必要になる。そのため関係者は、来年はゴールデンウィークどころではなくなるだろうということだ(1)

これはIT業界にとって一種の特需である(1)。プログラム変更の他にも、生年月日を記入する用紙、新元号の捺印用のゴム印などにも特需が広がるだろうと一部で期待されているようだ。

西暦 vs. 和暦

こういうことは、日本が和暦という元号を使っているために起きる話である。世界の大半の国ように西暦だけを使っていれば、こういうことは起きない。日本は明治以来、和暦と西暦を両方使ってきたが、これらにはどういう利害得失があるのだろうか? 

筆者は前に、「英語公用化の前に」という文中の「暦年は西暦で」に、ビジネスの国際化に備え今後は西暦に一本化すべきだと記した(2)。その要点を繰り返すと下記の通りである。

(1) 西暦は、中国や韓国も含め、世界中で通用する。一方、和暦は日本国内でしか通用しない。企業活動などの国際化の時代に、両者を併用するのは、日本人にだけ余計な負担を強いることになる。

(2) 西暦は年数計算に便利だ。和暦だと、「昭和XX年から平成XX年まで何年?」と聞かれても即答が難しい。西暦なら1回の引き算だけで済む。

(3) 和暦は改元の度にプログラムの改変や生年月日の記入用紙の変更、年号のゴム印の再製などが必要になる。

西暦の使用の現状は?

日本でも、ここ数十年間、西暦の使用がかなり一般化してきた。その現状はどうなのだろうか? 現在の状況を見てみよう。

政府や地方自治体の公式文書には原則として和暦が使われている。しかし、政府関係の文書でも、審議会の資料などには西暦を使っているものがかなりあるようだ。また、東大、京大などの国立大学や、気象庁、国立天文台、理化学研究所などの政府系機関は、沿革の記述などを除き、主に西暦を使っている。したがって、和暦の使用が法律などで義務付けられているわけではないようだ。

民間企業については、法律で定められた文書である営業報告書でも、西暦を使っている企業が多い。例えば、日立製作所、三菱電機、ソニー、パナソニック、キヤノン、トヨタ自動車、ホンダ、新日鐵、東レ、三井物産、伊藤忠、セブン&アイ、ローソン、新生銀行、野村證券、大和証券、等々である。社外用の公式文書に西暦を使っているこれらの企業は、社内の文書でも西暦を使っているものと思われる。

これだけ広く西暦が使われているということは、政府や証券取引所も西暦の使用を認めているということだろう。また、これらの企業は、営業報告書などに西暦を使うことに対する株主の反発も限られていると判断したのだろう。

もちろん、営業報告書などには和暦を使っている企業もある。しかし、それらの企業も、ウェブで開示している情報には西暦を使っているところが多いように思う。

保守的と思われている仏教の寺院にも、行事の案内には西暦を使っているところが多い。例えば、法隆寺、興福寺、知恩院、東本願寺、円覚寺、増上寺、等々だ。

日本のカレンダーは、従来西暦と和暦を併記していた。しかし、わが家で使っている、新聞の配達店が毎月配ってくれるカレンダーは、改めて見たら西暦だけで、どこにも和暦の記載がない。これでも別に不便を感じたことはない。カレンダーの印刷会社が、準備万端整えて新元号の発表を待ち構えているという話が、まったく別世界の話のようだ。

現在は、パソコンのGoogleのカレンダーやスマートフォンのAndroidのカレンダーを使っている人も多いと思うが、これらは西暦だけだ。

なし崩し的に西暦に!

和暦の使用を止め西暦に統一することは、単なる暦年の表記法の変更なので、第2次大戦後、尺貫法を止めてメートル法に統一したのと同じようなものだと言うこともできる。従って、国会で決めれば片付くことである。しかし、人それぞれ、情緒的に身に染みつているものを持っているので、戦後の混乱期ならいざ知らず、現在の平和な時代に一挙に変えることは難しそうだ。やはり、西暦派の賛同者を徐々に増やして、なし崩し的に西暦に一本化するしかないだろう。

上に見てきたように、現在でも西暦の使用がかなり浸透している。そして、今回の改元をきっかけに西暦表示に統一し、次回の改元時には余計な作業をしなくて済むようにしようとする企業や団体もあるだろう。

最近はやりのフェイスブックの生年月日は西暦だけだ。従って、フェイスブック世代が社会の大半を占める頃には、西暦の方がよほどなじみやすい人が増えるだろう。

和暦が最後の残るのは政府関係と思われる。しかし、上にも記したように、これも法律で決まっているわけではなく、外郭団体などから西暦の使用が一般化しつつあるようだ。

そして現在、和暦の使用にこだわっているのはNHKだ。何年も先の話や、外国が絡む話にまで、和暦を使っていることがあるのには、恐れ入るほかない。しかし、世の中が変わり、西暦の使用が大勢を占めるようになれば、NHKも変わらざるを得ないだろう。

次回の改元時には、「改元特需」などという話は聞かないで済むようになることを期待したい。

 

[関連記事]

(1) 「暦や文字コードも影響 新元号対応の勘所」、日経コンピュータ、2018年2月15日号、日経BP社 (有料:270円)

(2) 酒井 寿紀、「英語公用語化の前に」、Tosky World > 言葉のメモ帳、 2015年9月15日 

 


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