17年目にやっとまともな姿に!?・・・電子納税
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2017/07/25
現在の電子納税システムの問題は?
日本政府は2000年以来、ITの活用で行政の合理化を図ろうと、電子政府の実現に力を入れてきた。その目玉の一つが「e-Tax」という電子納税システムで、所得税等の確定申告書を紙に書いて税務署に持って行くか、郵送するかしていたものを、データをインターネットで送付すれば済むようにしたものだった。
これがうまくいけば、税務署に出かけたり、郵送したりする手間も費用も不要になる。また、収入や控除費用を入力すれば納税金額を計算してくれるソフトを使えば、申告書に書き写すことなく、その結果をそのまま確定申告に使える。
しかし、現在の電子納税システムには、次の二つの大きな問題があり、とても使う気にならないと、2007年に「これでいいのか? 日本の電子政府」に記した(1)。
(A) このシステムを使うためには、マイナンバーカードや住民基本台帳カードのICカードリーダを購入する必要がある。年に1回の確定申告のためだけに特殊な機器の購入を強要するのは、何とも納得できない。他に全く方法がなければ仕方ないが、方法はいくらでもある。
(B) 保険料や医療費の証明書等を含めて、添付書類を持参したり送付したりする必要が皆無になればよいのだが、一つでも添付書類が必要なら、確定申告書を含めてすべて持参または郵送する方が手間が省ける。
こういう余計な出費と手間を国民に強要するシステムが長続きするとは思えないので、小生はいまだにe-Taxを使っていない。国税庁の確定申告書作成のソフトだけ使って、その結果をプリントして郵送している。
ついにICカードリーダが不要に!
ところが、2017年7月16日の日本経済新聞の「電子納税しやすく」という記事によると、国税庁は2019年をめどに、電子納税システムを抜本的に改善するという(2)。国税庁による正式発表はまだなく、他の報道機関による報道も見当たらないので、信憑性は定かではないが、下記のようになるということだ。
マイナンバーカードを取得する必要がなくなり、専用のICカードリーダも不要になる。マイナンバーカードを使って認証局から取得していた電子証明書も要らなくなる。但し、初回は税務署に出向いて本人確認を受け、IDとパスワードを発行してもらう必要があるということだ。従って、上記(A)の問題はなくなる。
電子証明書は、従来一部の証券会社でオンライン取引に使われていたことがあったが、現在個人の商取引ではもうあまり使われていないのではなかろうか? 政府もやっと民間企業並みになったということだろうか?
マイナンバーカードの普及促進のために、電子納税システムでマイナンバーカードの取得を必須にしたのであれば、とんでもない本末転倒だ。
既に添付書類の郵送は不要に!
実は、添付書類の郵送の必要性は数年前から徐々に減少していた。現在すでに、源泉徴収票、保険料の領収書、株の取引記録等は、一定の書式に転記すれば原票の添付は不要になっている。
また、一定の書式で提出できないものについては、PDFファイルで写真のイメージデータを送ればいいことになっている。 例えば、数年前に大雨で、拙宅と隣地との境界の擁壁が傾き、改築を要した際、その費用を雑損控除で申告したら認められた。その時、改築前後の擁壁の写真を添付したが、今後はこういう写真もPDFファイルで送付すればいいのだと思われる。
こうして、上記問題点の(B)も現時点でほぼ解決済みのようだ。しかし小生は、(A)が解決するまで電子納税を使う気にはならなかった。
残された問題は?
では、これで問題がすべて解決したのだろうか? 重要性は少し下がるが、下記2点は改善が必要と思われる。
(C) 現在のe-Taxは「Internet Explorer」と「Safari」以外のブラウザでは使えない。政府は特定の民間企業の製品でしか受けられないサービスを極力排し、広く普及している製品なら、どれでもサービスを受けられるようにすべきだ。ブラウザについては、少なくとも「Firefox」と「Chrome」でも使えるようにすべきである。ちなみに小生は、国税庁の税額計算のソフトを「Firefox」で使っている。
(D) 新システムでは、ICカードリーダも電子証明書も不要になるが、そのかわり、初回に1回だけは税務署に行く必要があるという。しかし、電子納税というのは、国と個人の間でオンライン取引を開始するだけの話だ。現在、オンライン取引を行っている金融機関、小売業、サービス業は無数にあるが、オンライン取引開始に当たって「店まで来い」という話は聞いたことがない。オンラインだと、パソコンを誰が操作しているか心配だといっても、確定申告書だって本当は誰が書いたか分からないので、同じようなものだ。役人は、こういう不要な行為を国民に強いることによって、社会全体の生産性を下げていることを認識すべきだ。
回り道による損失の評価を!
電子納税システムがやっとまともな姿になることは結構なことだ。しかし、計画が始まってから17年とは、あまりにも時間のかかりすぎである。そしてこの間、どれだけ無駄な作業をしてきたことか? ・・・ ICカードリーダの開発、製造、販売。認証局の設立、運営。等々。
今後不要になるこれらの仕事のために、どれだけ費用を投じ、時間を無駄にしたのか? 今後の教訓のために、きちんと記録に留めておく必要がある。
これらの仕事で一時的に生計を立ててきた人々が今後職を失うことになるのは、また別の問題である。
[関連記事]
(1) 酒井 寿紀、「これでいいのか? 日本の電子政府」、「OHM」2007年6月号、オーム社
(2) 「電子納税しやすく 国税庁、証明書や専用機器 不要に」、2017年7月16日、日本経済新聞