PHSがついになくなる
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2017/05/30
PHSのサービスが終了
ソフトバンクは2017年4月20日、「ワイモバイル」ブランドで提供中のPHSサービスの新規契約の受付を2018年3月で停止すると発表した。現在の契約者へのサービスは当面継続するという。しかし、いずれこのサービスもなくなるのだろう(1)。
「ワイモバイル」は日本で唯一残っているPHSサービスなので、これでPHSは完全になくなることになる。
PHSは日本独自の携帯電話で、種々の特徴を備え、一時はかなり広く使われていた。これを機に、PHSの今までの変遷を振り返ってみよう。
1990年代後半にサービス開始
日本では1995年に、KDDI系、NTTドコモ、電力系通信事業者を母体とするアステルの3社がPHSのサービスを開始した。
1997年にはその契約者は700万人を超え、簡便な携帯電話として広く普及していた。電波が通常の携帯電話に比べて弱く、人体への影響が少ないため、特に病院などでの通話用に広く使われ、また、ノートパソコンなどモバイル端末のインターネット接続にも多くの人が使っていた。
一方、中国では、1997年に中国電信と中国網通が小霊通(シャオリントン)という、日本のPHSに相当するサービスを開始した。そのユーザーは、2003年には3,000万人を超えた。
「PHSに将来はあるか?」
しかし、PHSが、全世界で標準化されている携帯電話の通信規格に伍して将来長期的に存在を続けられるか、筆者は疑問に思い、2004年に「PHSに将来はあるか?」という一文をウェブサイト「Tosky World」に掲載した(2)。筆者が将来性を危惧したのは、通信速度、価格、エリアの広さなどの点である。そして、 その記事の最後に、「PHSでのモバイル接続の伸びは一時的なもので、遅かれ早かれ携帯電話に置き換わるものと思われる」と記した(2)。
続いて、中国の小霊通の将来について、「続・PHSに将来はあるか?…中国では」を書いた(3)。中国のPHSについては、日本と同じ技術的な問題に加え、通信業界に対する政府の指導方針が不透明なことがあった。中国の小霊通は、元々政府のお墨付きの下に広がったものではなく、政府の政策の間隙をついて自然発生的に始まり、政府が事後承認したものだった。そのため、その記事では、「『小霊通』に対する新規投資はできるだけ短期に回収することを考えるべきだろう」と、当時事業拡大に注力していた中国・日本の通信機器メーカーに警告を発した(3)。
その後の状況は?
前記のように、日本では、KDDI系、NTTドコモ、アステルの3社がPHSのサービスを提供してきた。しかし、アステルは2005年にPHSから撤退し、ドコモも2007年に撤退して、KDDI系だけが残った。2005年にKDDI系は、米国の投資ファンドのカーライルを筆頭株主とするウィルコムになった。そして同社は、2009年に経営破綻し、ソフトバンクの傘下に入った。
事業者が1社になった後も、PHSのユーザーは2014年まで500万人前後を維持していたが、その後減少して2016年末には約360万人になった(4)。
一方、中国の小霊通のユーザー数は2006年に一時9,000万人を超え、将来は1億人に達するとの予想もあった。しかし、中国政府は、2011年末までに小霊通のサービスを停止するよう通知した(5)。実際には完全停止には至らなかったが、2011年末のユーザーは2,000万人に減った(6)。近年中にサービス停止になることは間違いなかろう。
「次世代PHS」は?
この間、ウィルコムは、従来のPHSの弱点だった通信速度などを改善した「次世代PHS」の開発を企て、2007年に総務省は本計画に対して新たに電波を割り当てた。
しかし、PHSのように、日本国内だけで使われる通信方式は、ガラパゴス島の絶滅危惧種のようなもので、生存を維持し続けることは難しい。中国で大市場を獲得したという人もいたが、これはいつどうなるか全く分からないものだった。
では「次世代PHS」にガラパゴス島脱出の可能性はあるのだろうか? 「次世代PHS」に使われる技術は、ほとんど次世代携帯電話のLTEの技術と同じで、似て非なる規格が二つ併存する必要性は疑問だった。そのため筆者は、「ガラパゴス脱出なるか?・・・次世代PHS」を雑誌に執筆した(7)。
その後、「次世代PHS」の開発計画は没になったが、それに割り当てられた周波数帯域はソフトバンクの手に渡って、現在TD-LTEという通信方式でのサービスに使われている(8)。 総務省の「次世代PHS」への周波数割り当ては適切だったとは思えないが、ソフトバンクによって携帯電話サービスの一つに活用されるようになったことは喜ばしい。
従来のPHSは20年以上使われ、それなりの役割を果たして世の中から退場することになるが、「次世代PHS」はPHSの終幕での「悪あがき」と見なされてもしかたがないように思う。
[関連記事]
(1) 「"ワイモバイル"で提供中の一部料金プランなどの受け付け停止について」、2017年4月20日、ワイモバイル
(2) 酒井 寿紀、「PHSに将来はあるか?」、2004年7月20日、Tosky World
(3) 酒井 寿紀、「続・PHSに将来はあるか?…中国では」、2004年8月16日、Tosky World
(4) 「携帯・PHSの加入契約数の推移(単純合算)」、総務省
(5) 「消える中国版PHS、小霊通サービス終了へ」、2009年2月5日、アジア経済ニュース
(6) 「小霊通の利用者激減、13年にもサービス完全終了か」、2012年7月9日、易観国際
(7) 酒井 寿紀、「ガラパゴス脱出なるか?・・・次世代PHS」、「OHM」2008年3月号、オーム社
(8) 酒井 寿紀、「ソフトバンクが中国方式を採用!?」、2010年5月3日、Tosky's IT Review