アップルが復調?
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2017/03/12
「復調アップルの深謀」
本年(2017年)3月5日(日)の日本経済新聞1面のトップに、「復調アップルの深謀」という記事が載っていた(1)。「減産が続いていた米アップル、iPhoneの販売が増え始めた。・・・昨年末は過去最高のペースで出荷した」という。
そして、「市場の成長鈍化に逆行するように復調した理由はiPhoneに慣れたユーザーが離れないためだ」と言っている。
結論として、「一定の機能向上と変わらぬ使い心地のバランスを重視し、顧客に自然に買い替えを促すアップルの深謀が成熟市場で浮き立つ」と結んでいる。
スマートフォン市場でのアップルの現状と今後の見通しはどうなのだろうか?
iPhoneの世界市場でのシェアは10%台
Statistaの統計によれば、2009年から2016年までのiPhoneのシェアは常に10%台だ(2)。 四半期ベースでは、2011年第4四半期、2012年第1四半期が23%のように、一時期20%を超えた時もあるが、年平均では2012年の18.7%が最高である。直近の2016年は平均14.5%だ。
2016年第3四半期の12.5%に対し、2016年第4四半期は18.3%と急増しているが、これは2016年9月に新機種iPhone 7の出荷が始まる前の買い控えと、その出荷後のクリスマスシーズンの販売増のためが大きいと思われる。このような四半期ベースのシェアの急変は過去にも何回もあり、あまり大きい意味はない。
シェアは国によってまるで違う
スマートフォン市場でのiPhoneのシェアは国によって大きく違う。
日本では50%台で、全世界で突出して高い。その理由については後で触れよう。
米国は40%程度だ。米国が日本に次いで高いのは、まだアップルの製品しかなかったスマートフォンの初期に、新しく出現した製品に飛びついた先行ユーザーの比率が高いためと思われる。
新興国では、中国が10%程度、インドが3%程度、ブラジルが4~5%、インドネシアが3~4%と、いずれも10%以下だ。
ヨーロッパでは、ドイツ、フランスが20%程度で、日米と新興国の間にある。
今後スマートフォンが伸びるのは新興国が中心だ。そのため、現在の力関係が大きく変わらなければ、全世界でのアップルのシェアはさらに減っていく可能性が高い。少なくとも、20%を超えて大きく伸びることはなさそうだ。
OS切り替えに対する抵抗はiOSもAndroidも同じ
日経新聞は、アップルが復調した理由の一つは「iPhoneに慣れたユーザーが離れないためだ」という。しかし、OSの切り替えに対して抵抗があるのは、iOSのユーザーもAndroidのユーザーも同じである。
確かに、より使い勝手のいいOSのユーザーの方が、そのOSへの愛着がより高いだろう。しかし、愛着だけがOSの選択を決めるわけではない。評判が必ずしもよくなかったマイクロソフトのWindowsと、信奉者の多かったアップルのMac OSやOS Xのシェア争いの結末を見れば明らかだ。
新機能の取り込みは時間の問題
また日経新聞は、アップルが盛り返した理由として、機能強化を絶えず続けてきた点を挙げている。ディスプレイパネルや電源の改善、認証機能の強化などだ。しかし、これらの機能で一時期先行しても、すぐに韓国や中国の製品に追い付かれる。従って、ユーザーにとっては、高いカネを払ってでも最新機能の製品に飛びつくか、それとも安くなるまでしばらく待つかの選択になる。
そのため、新機能の継続的取り込みがシェアの維持・拡大の決め手になるとは限らない。
日本のスマートフォン市場はガラパゴス的存在
日本でiPhoneのシェアが突出して高い理由についてはよく分からない点が多い。一般には、通信事業者が競争してiPhoneの価格を低く抑えたことが挙げられている。
その他の理由として、日本の消費者の高価・高級品指向、信頼性・安定性の重視、韓国・中国の製品を毛嫌いする傾向などがあるのではないかと思う。
理由はともかくとして、現在の日本のスマートフォンの市場の姿は、諸外国と大きく異なることを認識しておく必要がある。この市場でも日本はガラパゴス諸島のような存在なのだ。
スマートフォンも道具の一つにすぎない。道具は、目的を達することができれば、安ければ安いほどよい。それには、生産量が多い物ほど有利になる。日本の現状はこれでいいのだろうか?
[関連記事]
(1) 「復調アップルの深謀」、日本経済新聞(日曜版)、2017年3月5日
(2) "Apple iPhone's market share of new smartphone sales worldwide from 2007 to 2016, by quarter", Statista, Hamburg, Germany
(3) 酒井 寿紀、「オープンか、クローズドか?・・・アップルのシェアが示すもの」、OHM、2013年10月号、オーム社